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窓口係は世界最強  作者: キミマロ
第一章 窓口係のお仕事
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第二十話 誕生パーティー

「乾杯ッ!!!!」


 東の空から夜の帳が降り始めた頃。

 寮の中庭で、シャルリアの誕生パーティーがしめやかに開かれた。

 回収された「お誕生日おめでとう!」という横断幕が、風に踊っている。

 それに対して長テーブルには――おにぎりが山と積まれていた。

 他にもたくさん料理が用意されていたのだが、無事だったのがこれぐらいしかなかったのだ。

 土龍の攻撃で石の欠片が飛び散り、混入してしまったのである。


「いろいろあったけど、こうやって無事にパーティーが開けて何よりやわ」

「ですね。でも、お料理はとってもとっても寂しくなっちゃったのです……」

「たくさん料理したのが、ほとんど台無し……。残念」


 しょんぼりとする二人。

 この日にかける意気込みが強かっただけに、落ち込みも相当のようだ。

 俺も二人の手前、あまり落ち込んだ様子は見せないようにしているが、内心かなりがっくりと来ている。

 腕を振るった料理を、存分に食べさせたかった。

 そして、料理SUGEEをしたかった……!

 こうしてしょぼくれる俺たちに、シャルリアは優しげな笑顔を浮かべる。


「まあまあ、いいじゃないの。いっただっきまーす!」


 おにぎりを口いっぱいに頬張るシャルリア。

 たちまち、その目が幸せそうに細められる。


「おいしい! ちょっと酸っぱいけど、それがまたいいわね! なんなの、これ?」

「梅干しっていう食べ物ですよ。ラルフさんの提案で、いれてみました!」

「へえ、ラルフがねえ……」


 そういうと、シャルリアは意外そうな眼をこちらに向けてきた。

 頬っぺたについた白いご飯粒が、ちょっぴり愛らしい。

 彼女は目を細めると、満面の笑みを浮かべる。


「やるじゃない! すっごい美味しいわよ! この酸味と塩味、ほっぺたが落ちそうだわ!」

「あ、ああ……。そうですか」

「何、戸惑ったような顔しちゃって」


 シャルリアは頬を膨らませると、ちょっとむっとしたような顔をした。

 それがまた可愛いのだが……ちょっと意外だ。

 いや、とてつもなく以外と言った方がいいだろうか。

 あのシャルリアが、俺のことを素直に褒めるなんて。


 そもそも、このおにぎりにしたってそこまで美味しくはないはずだ。

 ロマニウムの料理は、現代日本の経験がある俺からしても普通に旨い。

 凝った和食ならともかく、グルメなシャルリアがたかがおにぎりをうまいうまいと騒ぐのはさすがに不自然だ。

 絶対に、お世辞が入っている。


「……や、シャルリアさんに褒められたの初めてでしたから」

「そんな他人行儀なしゃべり方、今さらやめなさいよ! シャルリアって呼び捨てでいいわ。敬語も一切禁止!」

「え? わ、わかりました」

「わかった、でしょ」

「……わかった」

「それでいいわ。これからは、仲良くしましょ?」


 そういうと、シャルリアは笑いながら手を差し出してくる。

 どういう風の吹き回しなのか。

 あれほど俺を嫌っていたというのに、凄い変わりようである。

 あまりのことに、戸惑わずにはいられない。

 眼をパチパチとさせて、とっさに手を差し出すことができない。


「どうしたのよ? ほら」

「……なんで?」

「なんでって……何が?」

「いや、いきなり優しくなったから……」

「ちょっと、ラルフのことを見直したのよ。戦ってくれたんでしょ、ギルドを守るために」


 なるほど、そういうことか。

 俺がうんうんと頷くと、シャルリアはゆっくり言葉をつづける。


「あんたって、臆病で薄情な奴だって思ってたんだ。でも、今日はあんな大きな龍に挑んでくれた。だから今までの私は間違ってたんじゃないかって、考え直したの」

「俺はそんな、大した奴じゃないぞ? 逃げなかっただけで、そんなに勇ましく戦ったわけじゃないし」

「最初のうちはそれで十分よ。私だって、ここから逃げたことあるんだから」

「マジ?」


 俺が聞き返すと、シャルリアは笑いながらうなずいた。

 ミラやヘレナ、そしてリューネさんもそんなこともあったとばかりにうんうん頷く。


「あの時は大変でしたねえ……」

「活動写真も真っ青の大脱走」

「私まで街に出たからなあ。ま、すぐに見つかったんやけど」

「あんな場所にいるとは、誰も思いませんですよ!」


 楽しげに笑う三人。

 昔のことを笑われて少し気分が悪くなったのか、シャルリアが口をとがらせる。


「もう! それぐらいでいいでしょう!?」

「あはは、すまんすまん。これぐらいにしとこか」

「そうですねえ」

「嬉恥ずかしエピソードは、のちほど」

「後にもやらないわよ! ……ったく、油断も隙もあったもんじゃないわ」


 ふんッと鼻を鳴らすと、シャルリアは改めてこちらを見た。

 彼女は俺の瞳を覗き込むと、急に真剣な顔をする。

 上目づかいで見つめられた俺は、思わず身を固くした。


「……ね、ねえラルフ。ちょっと目を閉じてくれる?」

「な、なんで!?」

「いいから! パーティーを開いてもらったお礼を、ちょっと早いけどしたいのよ。あんたのおかげみたいなものなんだしさ」

「え……でも、それはここにいるみんなのおかげだよ? 冒険者の人たちも手伝ってくれたし。俺だけっていうのは――」

「あんたにしか上げられないし、あんた以外は貰っても喜ばないものなの!」


 不意に、視界が何かでふさがれた。

 暖かい。

 どうやら、シャルリアが俺の眼を手でふさいでしまったようだ。

 やがて耳元で、照れくさそうな甘い声が響く。


「今日だけ、特別だからね」


 言い終わるか言い終わらないかのうちに、唇が何か柔らかなものでふさがれた。

 熱く、蕩けてしまうような甘やかな感触。

 一瞬、自分の身に何が起きたのかわからなかった。

 だが理解した途端、全身が一気に熱を持つ。

 特に顔は、それこそ火が出てしまいそうなほど熱くなった。


「おお、大胆やねえ! まさに青春やな」

「シャ、シャルリアさん……! 私も、ま、負けてられないのです!?」

「ヘレナもやりたいの?」

「え? あ、いや……そういうわけでは! でも、何か身体がうずうずするのです!」


 騒ぎ立てる周囲の声が、はるか遠くの出来事のように聞こえる。

 時の流れがひどく緩慢に感じられた。

 やがて唇が解放されると、どっと疲労感が押し寄せてくる。

 今のは間違いなく……キスだよな。

 それも、ほっぺにとかじゃなくて口と口とが触れ合うキスだよな。

 思い出しただけで、心臓が張り裂けそうになってしまう。


「……今のは、誰にも言うんじゃないわよ! ここにいる他の人も、他言無用!」

「もちろんや。シャルリアちゃんの恥かしいことなんて、誰にも言わへんって」

「そういうマスターが一番心配なんです!」

「なんでや! いっちばん信用できるはずやろ!?」


 揉めはじめる二人。

 やれやれ、ロマンチックなことがあったと思ったらすぐこれか。

 だけど、そういうところが特窓らしいな。

 ふと思い立って空を眺めると、満天の星。

 天の川の朧な輝きまでもがはっきりと見える。

 地球ではなかなか見られない、完璧なまでに美しい星空だった。


「ここでの暮らしも……いいかもしれないな」


 つぶやきながら、俺は幸せの味をかみしめたのだった――。

大規模改訂はひとまずこれにて終了です!

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