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窓口係は世界最強  作者: キミマロ
第一章 窓口係のお仕事
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第一話 男爵家の三男坊

 突然だが、俺ことラルフ・マグニシアには前世の記憶がある。

 日本人として、十八歳になるまで生きていた。

 期間こそ短かったが、そこそこ幸せな人生だったと思う。

 両親ともに仲良く健在だったし、金銭的にもそれほど苦労したことはなかった。

 俺自身も特別に優秀だったというわけではなかったが、そこそこの高校に進学し、そこそこの公立大学へと入学を決めた。


 きっと、生きていればそこそこのサラリーマンか公務員にでもなっていたと思う。

 とてもありふれていてこれと言ったイベントはなかったけど、満ち足りた生活。

 しいて言うなら、死ぬまでずーっと彼女が出来なかったのが心残りなぐらいか。


 そんな暮らしが終わったのは、高校三年の春休みだった。

 受験が終わってストレスから解放された俺は、弾けていた。

 それはもう、バブル期の若者並に羽を伸ばしまくった。

 今の俺は何でもできるという、アホな全能感すら覚えていた。

 その結果が――列車事故。

 ホームから転落した酔っ払いを助けようとして、死んでしまった。

 大して力持ちでもない俺が、そこそこの体格をしたオッサンを持ち上げるなんて無理があったのだ。

 最終的に、酔いが覚めたオッサンは自力でホームへ這い上がったので、完全な無駄死にだ。 


 死んでしばらくの間は、幽霊みたいにふわふわとした状態で漂っていた。

 おかげで自分の葬式も見た。

 しかめっ面しか見たことのない親父が、涙をぼろぼろと流して泣いていた。

 優しかった母さんは、一度も顔を上にあげず、ハンカチを何枚も濡らしていた。

 これを見て、自分でもなんて馬鹿なことをしたんだろうと思った。


 ――もう、無茶はしない!


 生まれ変わる機会があったら、絶対に堅実に生きよう。

 俺はそう、深く深く心に誓った。


 そんな俺は、いつの間にか何ともファンタジー感の溢れる西洋風の世界に生まれ変わった。

 その前に天国っぽいところに行ったのかもしれないが、その間の記憶は全くなかった。

 生まれ変わった俺の出自は、マグニシアという家の三男坊。

 マグニシア家はロレンス王国と呼ばれる国の辺境を治める男爵で、貴族のお家柄である。

 とはいっても、治めているのは村五つにだだっ広い山林。

 総人口二千人ほどの、吹けば飛ぶような領地だ。

 この世界は鉄道が走り回るレベルまで文明が進んでいるので、男爵でこれは相当に酷いと言っていい。


 その上、俺は家督を継ぐ見込みのまずない三男坊。

 貴族としての立身出世なんて、可能性はほぼゼロに等しかった。

 最低限の暮らしは保証されていたが、このまま黙っていたら人生が詰む状態だ。

 そこで――。


「俺、家を出る!」


 十歳を過ぎたある日の夕食時。

 俺は、家族の前で高らかに宣言した。

 父と母、そして兄さんは俺の顔を呆然と眺める。

 あの時の三人の驚いた顔は、今でもはっきりと覚えていた。

 目を丸くするという表現があるが、あの時の三人は目が前にちょっと飛び出していたと思う。


 ここで『冒険者になる』と言わなかったのは、無茶をしないと誓ったからだ。

 親父やおふくろを泣かせるのは、前世だけでいい。

 今世でまで親不孝なんて、まっぴらごめんだ。


「おお、いいんじゃないか! どうせ家を出るなら、でっかくなって来い! それで、俺に思いっきり贅沢をさせろ!」


 親父のライナーは、驚きつつも俺の家を出る宣言を驚くほどあっさりと受け入れた。

 その時はとんでもない親だと思ったが、今になって思えば俺のことを心配していなかったわけではなく、単に軽い性格をしていただけだったのだろう。

 何より、親父も自分の将来を案じて冒険者をしていた時期があったらしい。

 男爵家の三男坊なんて、家を出ない限り未来はない。

 そのことを、親父自身も良くわかっていたからこそ賛成してくれた……はずだ。

 決して、ビッグになった俺に楽をさせてもらおうなんて、よこしまな考えがすべてのはずはない。

 ないんだ!


「……冒険者にだけは、なるんじゃないですよ」


 陽気な親父とは対照的に、母のルイゼはかなり控えめな声で言った。

 末っ子の俺に危ないことをしてほしくないらしい。

 吹っ飛んだ親父に対して、かなり常識的だった。


「冒険者にはならないよ。そうだな、まずは商業協会にでも入ろうかな。それで、お金を貯めたら商売を始める!」

「商売を? もし失敗したら、うちに帰ってきていいからね」

「うん、わかった!」

「商業協会ってことは、都に行くのか!?」


 興奮した様子で声をかけてきたのは、長男のゴート兄さんだ。

 彼は自分の前にあった食器をどかすと、俺の方へと身を乗り出してくる。

 まあまあイケメンと言える顔は、だらしなく緩んでいた。


「まあ、都にはいくことになると思う」

「おお! 都には可愛い女の子がいっぱいいるんだってな! 知り合いになったら、絶対に紹介してくれよ!」

「う、うん……」

「超かわいい子を頼むぞ! あと、できるだけおっぱいのでっかい子がいい!」

「ずるいぞゴート! ラルフよ、余裕があったら父さんにもな!」

「まったく、この人たちったら……」


 親子そろってバカをさらす親父と兄さんに、母さんはうんざりした様子で頭を抱えた。

 まさに、この親にしてこの子ありである。

 ちなみに、俺は母さんに似たのかここまでオープンスケベでチャレンジャーな性格ではない。

 次男のルイス兄さんも同じで、この頃は一人で学問をしに都の学校に通っていた。

 今では、官吏として極めて堅実な人生を生きている。

 親父の血統を忠実に引き継いだのは、ゴート兄さんだけで十分と言うことだろう。


「しかし、いきなり商業協会に就職するのは難しいだろうな。あそこは何と言っても、伝手が物を言う」


 先ほどまでのアホ面から一変して、親父は少し渋い顔をした。

 商業協会と言えば、原義的な意味でのギルドに近い組織である。

 有力な商人たちが寄り集まって造った、独占的な組合のようなものだ。

 この世界は中世と言うよりは近代に近いので、バリバリ徒弟制度が生き残っているということはないと思うが……やはり、何かしらのコネが無いと厳しいらしい。


「あなたの顔で、どうにかならないの?」

「商業協会の職員と言ったら、結構なエリートだぞ。田舎の木っ端男爵では、後ろ盾としてなぁ。それに今は貴族と言うだけで、どうとでもなるような時代でもない」

「でしたら、フィシックさんにお願いしたらどうでしょう? あの方なら顔が効くと思いますよ」


 フィシックさんというのは、我がマグニシア領内に別邸を構える大陸きっての大商人である。

 夏になるたびにひと月もバカンスへやってくるので、俺たち家族とはそれなりに顔見知りだ。

 俺自身も、フィシックさんとは何度かあったことがある。

 クマのような図体をした、豪快な笑い方をする気のいいおじさんだ。


「フィシックさんか。彼なら確かに、商業協会に人を斡旋することぐらい容易いだろうな。どうだラルフ、フィシックさんのところでしばらく商売の修業でもするか?」

「いいよ、もちろん!」


 願ってもないことだ。

 フィシックさんは、一代で巨万の富を築き上げた大商人。

 そのもとで商売のイロハを教えてもらえるというならば、またとない機会だろう。

 最終的に商業協会へ斡旋してもらえなくても、それだけで十分すぎる価値がある。


「よし、決まりだな。近いうちに、フィシックさんのところへお願いに行こう」

「私からも、今度奥様にお願いしてみますわ」


 こうしてそれから一か月後。

 俺は、フィシック家で商人見習いとなった――。

幼少期編はダイジェストで駆け抜けます!


※大幅改稿しました。

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