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窓口係は世界最強  作者: キミマロ
第一章 窓口係のお仕事
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第十一話 初仕事

 しょっぱなから現れた、超強面の男。

 威圧感を隠そうともしないその様子に、思わず冷や汗が溢れる。

 肌を刺すような気が、全身から感じられた。

 相当に高位の冒険者なのだろう。

 背中に背負った斧が、黒光りしている。

 光の鋭さから言って、おそらく、相当な業物だ。


「窓口って、女しか雇わなかったんじゃねえのか?」

「そういうわけではありません。一応、男の採用枠もありますよ」

「ほーん。しかし、一日の始まりに出会うのが男ってのは……張り合いがねえなあ」


 がっかりした様子を隠そうともしない男。

 彼は軽く鼻を鳴らすと、ひどく乱暴な態度で依頼書とギルドカードを出してきた。

 乱暴に突き出された腕が、危うく俺の体に当たりそうになる。

 思わず、眉をしかめそうになった。

 だがかろうじて笑顔を保つ。


「……お預かりいたします」

「とっととやってくれ」


 男が差し出してきたのは、とある辺境の城への配達クエストだった。

 交通網の発達した大都市やその近郊であれば、一般人でも荷物を届けることぐらいは簡単なのだが、いかんせんこの世界には凶悪な魔物がたくさんいる。

 辺境地域への配達は、冒険者にクエストを出すのが一般的だ。

 特に今回の荷物は城主宛のかなり重要なものらしく、Aランクというかなりの高ランクでクエストが出されている。

 おそらくは、信用できる人間を確保するためのランク指定だろう。

 Aランクともなれば、名前も売れてそこそこしっかりした冒険者が多い。


「なるほど」


 先ほど渡されたギルドカードには、ランクAと記されていた。

 クエストのランクもAなので、手続き上は全く問題ない。

 しかしここで、気になる点を発見する。


「お客様は、討伐系依頼を中心にランクを上げてこられてますね?」

「ああん? 確かにそうだが、それがどうかしたのか?」


 眼元にしわを寄せ、さらに不機嫌そうな顔つきになる男。

 だが、ここ負けてはいられない。

 いたって平静を装い、落ち着いた口調で言う。


「今回の依頼は、達成期限が相当シビアに設定されています。配達用の足をお持ちでないと、かなり苦しいかもしれません」

「そうか? 五日間もあれば十分にできると思うが」


 ここから目的地である城までは、直線距離にして約三百リーグ。

 途中、二百リーグほどの場所にある街までは列車を乗り継いでいけるので、約一日。

 そこから馬車や徒歩でゆっくりと移動したとしても、一日に二十五リーグも進めば十分にたどり着ける計算だ。

 あくまで計算上は。


「この地域は雨が多いんです。しかも一度降ると、なかなかやみません。道も当然悪くなるので、そんなに早くはいけないんですよ」

「そういうことか。途中からは歩くつもりだったが……少しきつそうだな」

「特にご用意が無いということであれば、ガラトンで列車を降りてモービルを借りるといいでしょう。あそこのベリル商会は、モービルの貸し出しを専門にやっていたはずなので。モービルの運転は大丈夫ですよね?」

「ほう。なら、そうさせてもらうか」


 そういうと、男は感心したような顔をした。

 彼は俺の眼を覗き込むと、やや黄ばんだ歯を見せる。

 実に漢臭い笑みだった。

 だが、それが何とも心地よい。


「兄ちゃん、名前は?」

「ラルフ・マグニシアです」

「そうかい。さっきは悪かったな、今後ともひいきにさせてもらうぜ」


 カードを返すと、そのまま気分よくフロアを出ていく男。

 その姿が見えなくなったところで、隣に座っていたシャルリアがふんふんと興味深げに頷く。


「あんた、意外と仕事はできそうね」

「まあ、もともとは商人見習いでしたから。基本です」

「へえ、そうなの。小魚みたいで、とても商人って感じはしないんだけどね。商いをやってる人間っていうのは、もっとギラギラしてるもんだと思ってた」


 そう言ったところで、カウンターにまた冒険者がやってきた。

 話を中断すると、俺はすぐさま手仕事を再開したのだった――。




「ふう……」


 数時間が過ぎた頃。

 昼前になり、冒険者たちの姿もまばらになってきた。

 最初の冒険者が来てから、ほとんどひっきりなしに人が来ていたので、ようやく人心地つける。

 肩をぐるぐる回すと、大きく伸びをする。

 初日だというのに、我ながら結構働いたものだ。

 そうしていると、奥から差し入れを持ったアイベルさんがやってくる。

 彼女はお盆に乗せていたレモンティーを、次々と配った。


「ご苦労様」

「ありがとうございます」


 レモンの果汁を軽く絞ると、カップを傾けて啜る。

 さわやかな酸味が口の中に広がって、一気に疲れが取れていくようだった。

 やっぱり、くたびれた時はすっぱいものに限る。

 マスターの秘書だけあって、実によくみんなの気持ちを分かっていた。


「さて、そろそろお昼ですね。午後からは何をやってもらいましょうか……」

「え? ずっとここじゃないんですか?」


 俺がそういうと、アイベルさんはおやっと目を丸くした。

 たちまち、隣のカウンターからシャルリアが身を乗り出してきて、説明してくれる。


「私たち窓口係は、午後は『別の仕事』をすることになってるの。ギルドは朝がメインで、午後からは人があんまり来ないから。特にこの上級窓口は、もともとの利用者自体が少ないしね」

「言われてみればそうですね。午後もこの調子なら、あんまり窓口にも人はいらないでしょうから」

「それで、ラルフ君はどうします? みんな行きますか?」

「それはちょっと。遠慮させてもらいます」


 俺が首を横に振ると、アイベルさんは少し残念そうな顔をした。

 隣のシャルリアは、目を吊り上げて不機嫌さを隠そうともしない。

 だが、ここで安易についていくわけにも行かなかった。

 みんなと一緒に訓練なんかをしたら、そのうち戦いに巻き込まれてしまいそうだ。


「そういうことなら……そうですねえ。何か、得意な仕事とかありますか?」

「えっと、商人見習いとして修業したので事務方の仕事ならだいたいできます」

「商人見習い? それならもしかして、アイテムの鑑定とかもできる?」

「ええ、大得意です」


 自信のある分野なので、ちょっぴり胸を張る。

 俺の眼力――割と文字どおりの意味で――を用いれば、どんなアイテムでも超簡単に鑑定できるのだ。

 その道数十年の本職にだって、負けないぐらいの自信はある。

 珍しく自信のありげな俺の様子に、アイベルさんはほうほうと頷いた。


「なるほど。それだったら、鑑定所の方に行ってもらえますか? 職員が一人やめてしまって、ちょっと人手不足なんです」

「わかりました。場所はどこです?」

「二階の東端です。ロッシュ・メッカニーという人が主任なので、彼に『手伝いに来た』と言ってください」

「了解です。ロッシュさんですね?」

「ええ」


 軽く微笑むと、アイベルさんは再び奥へと引っ込んでいった。

 ここでちょうど、正午を告げる鐘の音が隣の大聖堂から響いてくる。

 ギルドの窓口はここで一時間の昼休みだ。

 さっさと休止中の札を出すと、その場を後にして食堂へと向かう。


 そうして一時間後、俺は二階のアイテム鑑定所の前に居た。

 中級窓口から少し奥に行ったところにある、アイテム鑑定の受付カウンター。

 そこからさらに奥へと向かった先にあるその部屋は、扉の造りからして他と違っていた。

 分厚い扉は鋼鉄製で、蝶番の部分が完全に壁に埋め込まれている。

 ちょっとした金庫のようだ。

 軽くノックしてみると、カンカンと乾いた音が響く。


「はいはい……。おお、君がラルフ君かね!?」


 扉の隙間から姿を現したのは、ひょろりとしたメガネの男性だった。

 年の頃は四十代半ばと言ったところだろうか。

 色白の肌と細い腕が、どことなく頼りない印象の人物である。


「はい。俺がラルフです」

「話は聞いているよ。さっそく、手伝ってくれたまえ。こっちだ」


 ロッシュさんの手招きに従い、すぐさま扉の中へと入る。

 たちまち、大量の素材やアイテムが目に飛び込んできた。

 さすがはギルド本部の鑑定所。

 高ランクの品々が、十畳ほどの部屋の中に足の踏み場もないほどに並んでいる。

 この部屋にあるものをすべて持ち出したら、城の一つや二つ建ってしまいそうだ。


「こりゃあ……凄い」

「依頼を受けた品が、少し貯まってしまっていましてね。早速ですが、お願いできますか?」

「はい。どれからやりましょう?」

「そこの錆びた剣からで」


 そういうと、部屋の端に立てかけられていた大剣を指さすロッシュさん。

 俺はそれを抜き放つと、すぐさま目に力を込める。

 たちまち、剣を巡る気の流れがはっきりと映し出された。

 順調だ。

 持ち手から切っ先に向かって、気がゆっくりと流れている。

 少し錆びてはいるが、どうやらこの剣は鉄よりもう少し価値の高い何かで出来ているようだ。

 素材としての価値は結構高いだろう。


「……一見して鉄に見えますが、どうやら違うようですね。重さからすると、クロルム合金か何かでしょうか。純度は低そうですが、結構な値になりますよ。これ」

「クロルム合金と鉄をそれほど速く見極めるとは! さすがですな!」


 興奮した様子で手を叩くロッシュさん。

 俺のことを全力でほめる彼に照れつつも、次の品物へと取り掛かる。

 こうして俺は、順調に鑑定所での仕事をこなしていったのだった――。

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