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窓口係は世界最強  作者: キミマロ
第一章 窓口係のお仕事
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第十話 初日の朝

「ああ、酷い目にあった……」


 昇り出る朝日に目を細めながら、ゆっくりと上体を起こす。

 結局、昨日は部屋に入れてもらえなかった。

 我ながら、入寮早々に災難だったものである。

 凝ってしまった身体をほぐしながら、毛布をどかす……あれ?


「何で毛布がある!?」


 慌てて周囲を確認すると、そこは確かに廊下だった。

 だが、俺の体の下には薄いマットレスが敷かれていて、ご丁寧に毛布まで用意してあった。

 どおりで、廊下なんかで寝た割には目覚めが爽やかだったわけである。

 シャルリアめ、何だかんだで結構いいところあるじゃないか。


 そう思って心地よく上半身を持ち上げると、いきなり銀髪と赤い瞳が目に飛び込んでくる。

 やたら機械的な視線でこちらを見るその顔に、思わず変な声が出た。


「ミラさん!? い、いったい何ですか!?」

「五時三十分、起床。いたって普通、異常なし」

「いや、だから何を!?」

「男の幽気使いはとてもとても珍しい。だから、いろいろと観察してるの」


 俺の体を見ながら、さらさらとペンを走らせるミラ。

 その瞳の奥に、何か剣呑な輝きが見える。

 やがて彼女はペンを上にあげると、その先をチロリと舐めた

 ……これはヤバいかもしれない。

 心の奥でそう直感すると、すぐさまその場から逃げ出そうとした。

 だがここで、ギュンっと足が止まる。

 見れば、マットレスと足が縄で固定されていた。


「逃げちゃダメ。他人と向き合うことから、逃げてはいけない!」

「こんなところで言う言葉じゃないですよ、それッ!」


 無理やり跳ね起きると、マットレスの弾性を利用してピョンピョンと飛び跳ねる。

 ミラさんはむっとした顔をすると、慌てて俺を追いかけてきた。

 唐突に始まる、朝の追いかけっこ。

 そうしていると、不意に目の前に白いものが現れる。


「おはようございますッ!! 今日も一日、元気に頑張りましょう! まずは、恒例のおはよう体操か――あわッ!」

「ふごッ!」


 いきなり、廊下の真ん中で体操を始めたヘレナ。

 マットレスは急に止まれない。

 俺の頭は容赦なく彼女の体へとダイブする。

 避けようもない衝突。

 体勢を崩した俺とヘレナは、そのままもみ合うようにして廊下に転がった。


「たたた……! 大丈夫!?」

「ええ、マットレスがクッションになって……って、大胆ですッ!?」


 戸惑ったような声を出すと、顔を真っ赤にするヘレナ。

 手元を見れば――掴んでいた。

 お尻を。

 豊かで柔らかで、すべすべしていて。

 白桃と形容するのが相応しい物を。


「あ、あわ……! ご、ごめんなさいッ!!」

「わ、私は神に仕える身なのです! そういうことは、見習いシスターからちゃんとしたシスターになってからなのですよッ!」

「いや、別に変な意図があったわけじゃ……」

「五時三十五分。男の幽気使いは、お尻大好き」

「変なことを記録しないでくださいッ!?」


 ミラのメモを取り上げようとして、ずっこける俺。

 バターンッと、心臓が跳ねてしまいそうなほど大きな音が、早朝の屋敷に響いた。

 朝の爽やかな静寂を、台無しにするかのような騒音。

 それに誘い出されるようにして、部屋の扉が開く。


「ちょっと! あんたたち、騒ぐのもいい加減にしなさいよッ!」

「ああ、ごめん! ……ん?」


 シャルリアの姿を見て、俺は思わず固まってしまった。

 着ていない。

 眩しいほど白い肌と、それを引き立てる黒の下着がはっきりと見て取れる。

 瑞々しい太ももに、内臓を忘れたようにくびれたお腹。

 そして何より、エベレスト級に盛り上がって深い谷間を造る胸。

 ハーフカップのブラから白い肉をあふれさせる姿は、思わず息をのむボリューム感だった。

 すげえ、彼女自身の顔といい勝負をしている。

 目を見張らずにはいられない。


「と、殿方の前でその恰好とは……破廉恥なのです……!」

「シャルリア、ラルフを誘っているの?」

「え? ……いやァッ!?」


 ……ぼんやりとしていて、自身がどんな格好で寝ていたのかを失念していたのだろう。

 混乱したシャルリアはいきなり悲鳴を上げると、開いていたドアを勢いよく閉じた。

 すると、たまたまマットレスからはみ出していた足の小指に――ジャストミート。

 ドアの角が、フルスイングでぶつかってくる。


「おおおォッ!!!!」


 声にならない雄叫びが、屋敷全体を揺さぶった――。




「……朝から、いったい何があったんや?」


 あれから少し時間がたち、朝食の席にて。

 くたびれた様子の俺たちに、リューネさんは早速こう切り出した。

 一人だけ元気な彼女の質問に全員そろって、肩を落とす。


「まあ、いろいろとありまして……イテテッ!」

「体操をし損ねたのですよう! 今までずーっと皆勤賞だったのに……」

「乙女として、何か失ってはいけないものを失った気がするわ」

「せっかくの研究データが、騒動で台無し。残念」


 俺は右足の小指を押え。

 ヘレナは手を組んで天に祈り。

 シャルリアは自身の胸元を抱きかかえ。

 ミラは落してぐしゃぐしゃになったメモを手にし。

 それぞれに違った反応を見せた俺たちに、リューネさんは頭を抱える。


「なんや、ようわからん……。とりあえず、窓口係は元気が基本やで! たくさん食べて、気を取り直すんや!」


 そういうと、早速スクランブルエッグを頬張るリューネさん。

 膨らんだ頬っぺたが、ヒマワリの種を蓄えたハムスターのように膨らむ。

 とても微笑ましい様子だったが、それを見る女性陣――特にシャルリアの目は冷たかった。


「マスター。それより、何でラルフと私が同室なんですか? 今朝の騒動も、元はと言えばそれが原因よ!」

「ん? そりゃあ、間違えた……やなくて! ラルフ君と少しでも仲良くなってほしいからやで!」

「いま、間違えたって言いませんでした?」

「言うとらん言うとらん! いくら酒を飲んどったからって、そんな初歩的な間違いはせえへんで!」


 そういうと、リューネさんはシャルリアの視線から逃れるように食事にがっついた。

 シャルリアはまだまだ追究したりないと言った顔をするが、一応は上司なのでそれ以上は言わない。

 代わりに俺の方を見て、軽く肩を落とした。


「……仕方ないわねえ。言っとくけど、着替えとかは絶対に、絶対に覗くんじゃないわよ!」

「誰も覗きませんよッ!」

「どうだか。ま、いいわ。さっさとご飯を食べて準備しましょう! 遅れちゃうわ!」


 シャルリアはパンをかじると、ミルクで一気に喉の奥へと流し込んでいった。

 壁に掛けられた時計を見やれば、時刻は午前六時過ぎ。

 窓口係の仕事は午前七時からだそうなので、あと一時間ほどしかない。

 ここからギルドまで徒歩十分ほどなことを考えても、それほど余裕はなさそうだ。

 特に女の子は、身だしなみに時間がかかるだろうし。


「ご馳走様!」


 食事を終えて挨拶を済ませると、三々五々に席を立つ。

 俺も、シャルリアについてその場を離れようとした。

 だがここで、リューネさんがクイッと手招きをする。


「なんですか?」

「これ。窓口係の制服や」


 脇に置かれたカバンから、一抱えほどの包みを取り出すリューネさん。

 それを開いてみると、窓口係の白い基調とした制服が中に入っていた。

 試しに、上着を体と合わせてみるとサイズはぴったりである。


「おお! 良く、俺のサイズが分かりましたね」

「これでも、眼力には自信があるんやで。長年の経験の産物やな。男の子なら身長と体重、女の子ならスリーサイズまで一発でわかるで」


 リューネさんは手を前に突き出すと、わしわしと何かを揉むようなしぐさをする。

 その顔はちょっと緩んでいて、場所が悪ければ通報されそうな気配があった。

 長年の経験って、いったい何なんだ。

 窓口係の面々に、セクハラ親父のようなことを仕掛けるリューネさんを想像して、思わず苦笑する。


「……なんや、いきなり笑って?」

「いえ、何でもないです!」

「それなら、用はそれだけやからはよ行きや。あ、着替えなら適当に空いてる部屋をつこうてええから。シャルリアは覗いたら怖いからなあ……!」


 青い顔をすると、震えだすリューネさん。

 その様子はどう見ても「経験者は語る」と言った雰囲気だ。


「……ははは。じゃあ、行ってきます」

「ほなな。ギルドについてからのことは、アイベルに頼んであるから。窓口初日、しっかり頑張るんやで!」


 白い歯を見せると、爽やかな笑みを浮かべながらグッと親指を持ち上げるリューネさん。

 彼女の笑顔に、俺は深々と頷きを返した。

 そうして制服を手に空いている部屋へと入ると、さっさと着替えを済ませる。

 白い制服の上で、ギルドの紋章がキラリと輝いた。


「さてと。……お、待っててくれたの?」


 廊下に出ると、すぐに制服を着たミラとヘレナの姿が目に飛び込んできた。

 ヘレナが笑いながら、早く早くと手を振る。


「遅れちゃいますよ! 早くです!」

「遅刻すると、アイベルさんからおしおき」

「わかりました。シャルリアはもう、先に行ったんですか?」

「ええ。とっとと出て行った」


 やれやれ、やっぱり嫌われているのかな。

 そう思っていると、ヘレナさんに裾を掴まれた。

 急かす彼女たちに連れられて、取るものもとりあえずギルドへと向かう。

 こうしてギルドに辿り付くと、すでに数名の冒険者が正面玄関の前に居た。

 冒険者の朝は早いと言うが、さすがだ。


「こんな時間から待ってるなんて。冒険者さんも凄いなあ」

「クエストは早い者勝ちだから。もうちょっとすれば、玄関はいっぱいになる」

「毎朝、すっごいですからねえ。ちょっとした戦いですよ」


 少し、ひきつった笑顔を見せるヘレナ。

 朝のギルドと言うのは、相当に忙しいようだ。

 これから始まる仕事に思いをはせつつも、裏の通用口から建物の中へと入る。

 するとそこには、かっちりとスーツを着こなしたアイベルさんが待ち構えていた。

 パリッとした黒のスーツに、この間は掛けていなかった銀縁のメガネ。

 出来るキャリアウーマンといった雰囲気が、随所に溢れている。


「おはようございます」

「おはようございますです、アイベルさん!」

「マスターはいらっしゃらないのですか?」

「ええ。『重役出勤するで!』って堂々と言ってたわ」


 ミラの一言に、はあっとくたびれたため息を漏らすアイベルさん。

 軽く頭を振る彼女の表情からは、落胆とあきらめがうかがえる。


「あの人はいつもいつもこうなんだから……真面目にやれば仕事は出来るのに……」

「そこを真面目にやらないのが、マスターの人柄なんだと思います!」

「たまには、サポートをする私の身にもなってほしいわ……。仕方ないわね」


 アイベルさんは背筋を伸ばすと、どうにか気を取り直した。

 俺は彼女に連れられて、ギルド三階の上級窓口へと入る。

 天井からプレートがいくつも下げられた、長いカウンター。

 天井の高い広々とした造りのロビー。

 その奥には巨大なクエストボードが控えていて、依頼書がびっしりと張り出されている。

 造りとしては日本の役所にも似ているが、置かれた調度や石組の壁がそうではないことをはっきりと示していた。

 そのカウンターの一角に案内された俺は、言われるがままに腰を下ろす。


「さっそく、ここで受付業務をしてもらいます。あと十分ほど時間がありますから、軽くマニュアルを読んで置いてください」

「え、いきなりですか!?」

「はい」


 目を丸くした俺に、アイベルさんは軽く微笑む。


「上級窓口には度胸が必要です。私が奥で見ていますから、頑張ってみてください」

「いや、でも……」

「安心してください。ここに来るような冒険者さんは、慣れてますから。それに、しっかりした方も多いですし」


 そう言い残すと、アイベルさんは奥へと引っ込んでいった。

 彼女は引き出しから書類の束を取り出すと、たちまちうずたかく積み上げて山を造る。

 この分だと、手とり足とりと言うわけにはいかなさそうだ。

 自力で何とかしないといけない。

 マニュアルを開くと、すぐさま内容に目を通す。


 そうして迎えた、午前七時。

 たちまちギルド内部に冒険者が溢れる。

 やがて俺の前にやってきたのは――


「男の窓口?」


 筋骨隆々とした肉体。

 窓から差し込む朝日を反射し、輝くスキンヘッド。

 そして何より、こちらを訝しむ鋭い眼光。

 何とも強面で、恐ろしい男が目の前に現れた――。


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