兎達の小噺
「あっついわ....」
竹林の真っ只中にある永遠亭の縁側に一人の兎の耳をつけた少女が座っていた。鈴仙・優曇華院・イナバである。彼女は、寝床の耐え難い暑さに負けて縁側に逃げて来たのである。
「それにしても本当暑いわ...部屋には納涼の道具一つ無いし。あんな所で寝ろなんてお師匠様も無茶よ...」
ここ最近は、縁側で寝ている。正確に言えば、涼んでるうちにいつの間にか寝てるのである。お師匠様に安眠できる薬でも貰おうかしら...?そんなことを考えていると、ギシ....ギシ....という音が聞こえた気がした。
「誰っ!?」
何者かが近づいてくる。月明かりに映し出されたシルエットは、鈴仙より小さく、柔らかそうな兎の耳を持っている永遠亭の同居人だった。
「なーんだ、てゐだったの?侵入者かと思ったわ」
「侵入者と間違えるなんて、鈴仙も馬鹿だね。そんなことより、こんな真夜中になにしてんの?」
「部屋が暑くて寝れないから、涼んでるのよ」
ふーん、と言いながら鈴仙の隣にてゐは腰を下ろした。
「てゐこそ何をやってたのよ。大体予想はつくけど」
「鈴仙と同じだよ。部屋が暑くてねぇ」
そう、と呟き沈黙した。気まずい空気になる。先に沈黙を破ったのは、てゐだった。
「あと2、3日で満月だね。鈴仙は月に帰ろうとは思わないの?」
「少しも思わないわ。なんでわざわざ逃げた所に帰る必要があるのよ」
「ちぇー、鈴仙が帰るなら一緒に連れてってもらいたかったのに」
「いつもそれねぇあんた...なんでそんなに月に行きたいのよ...?」
「そりゃあ、わたしゃ地上の兎だよ?地上の兎は月に行くのが夢なんだよ」
「それってあんただけじゃ...まあいいわ。きにしない」
再び沈黙になる。今度は鈴仙が沈黙を破った。
「ねぇ、地上の兎ってどうやって従えてるの?てゐの言うことしか聞かないってのは不便だと思うのよ。てゐがいないとダメだし」
「んー、なんでだろうねぇ?私にもよくわからないよ。あれかな?兎の中で一番年長者だからじゃないかな?」
「あんた...歳いくつよ...」
「千から先は数えてないね。寿命なんて無いようなもんだし。まあ、ここの竹林ができた頃にはいたような気がする」
「あんた、最初は普通の兎だったのよね?いつから妖兎になったのよ」
すると、少し間を開けてゐは答えた。
「鈴仙...この世には触れちゃいけない事があるんだよ...」
物凄い気迫をてゐから感じた。数多の戦場を戦い抜き、生き残ってきた英雄ですら冷や汗をかくほどの気迫を。
「私はちょっと散歩に行ってくるよ。すぐ帰ると思うよ」
その言葉を残して、竹林へてゐは消えた。
「てゐ...あなた一体何者なの....?」
竹林の中でてゐは感じていた。
「懐かしいねぇ、この感じ。何処の見張人かな、この匂いは。まあ、これから幻想郷で面白いことが起こるのは確かだねぇ...私ほど強くはないみたいだけど...ちょっとヤバイかな」
幻想郷のトップを争う妖兎は、不気味に笑う。
こんちわー。毎度お馴染み後書きのお時間です。なんか...かなーり短い小説になってしまいました。東方で一番好きなキャラはてゐなんで、贔屓しようとしたんですが...まあ、気にしません。そして夢幻に続き読者の皆様にはわからない単語「見張人」がでてきております。あ、夢幻はオリジナルのキャラです。ちーとずつですが、オリジナルストーリーに傾いてきております。今後も重要な話を書いていきたいと思いますので、どうぞ気長にお待ちください。