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3.あ”!?

 恋にも似た胸騒ぐ復讐心が、なけなしの良心を黒く塗りつぶしていく。嫌じゃない。むしろ心地いい。

 こんな気持ちがはじめてだとは、言えない、あるよ、三瀬を恨んだこと。仕返ししてやりたいと思ったこと、私じゃなくあいつ病気になればよかったんだって思ったことも。

 もちろんそれが醜い感情だと知ってる。八歳のあの頃から、私はあまり成長しておらず、十五になった今も根に持ってる。子どものしたことだからと、許したい気持ちもあるのに。

 だけど自分の心の狭さをいちいち反省していられるほど一生は長い時間じゃない。

 今を生きる! 私、今を生きるよ。

 唇をにやりと歪めたその時、右隣のおさげ女子が「え」と声を上げたので、彼女の瞳が追う先に視点を定めて、私も「え」と言いたくなった。

 校長が降壇し、入れ代りに壇上に進もうとする人物の容姿に目を奪われて、頭は真っ白になる。


 何もかもが、よくわからない人。

 セーラー制服らしきものを着ているから、一応生徒には間違いなさそうで、性別はきっと女子。断定できないのは、高すぎる身長のせいだ。

 元はオーソドックスな南校の黒のセーラー服は、カラーの淵に赤い三本のラインが入っていて、胸元は学年によって赤、緑、紺色のリボンを結ぶ決まりがある。リボンは紺色だから、たぶんあの人は三年生だろう。

 制服はほとんど原型をとどめないほどにカスタマイズされて、某48人のステージ衣装並の派手さで、へそは出てる、ミニのプリーツスカートの下にはふわふわの白いパニエを着けている。それほどまでの酷い改造が許される校風に疑問はあるものの、それよりももっと気になるのは。

 なんかね、彼女の頭の上にね、鳥がね、のっかってるんだよね。幻?

 中央にセットされたマイクの前で立ちどまり、スタンドの高さをおもむろに頭頂部へとセッティングしている。なぜ? 


「はじめまして。わたくしの愛しい小鳥ちゃん、子猫ちゃんたち、ようこそ、南高校へ。わたくしが生徒会長の白鳥あおヴぁでございます」


 と、しゃべっているのは鳥の方で、色は朱色、羽の先は青や緑をしている。熱帯に飛んでいそうなオウムだ。

 口調がおかしいが、他にもいろいろおかしいので、何に対して驚けばいいのかもうよくわからない。

 会長の髪は黒髪ポンパドールで、オウムがくつろぐにはふんわりとしてよさそうな褥に見える。目元涼しげ、冷たい風情の美人なのに、何となく全体的に残念な印象がある。友達は少なそうだなと思った。まあ、私も人のことは言えないけれど。


「さて、小鳥ちゃん、子猫ちゃんたち、ご入学、誠におめでとうございます。皆様の快適な学校生活の一助となれることを願って、我が校の部活動をご紹介いたしますわ」


 なるほど。いきなり本題に入った。校長と違って前置きが短いところに好感はもてる。


「今年新設されたヴぁかり、できたてほやほや、わたくしの一押しの新団体でございます、ケケ」


 台詞っぽい大げさな言い回しで、オウムが羽を広げる。最後のケケは、たぶん鳴き声だろう。『ば』の発音が下手なのは、出身地のなまりかな。頭の上でオウムはバサバサと羽ばたいているが飛んでいかない。

 

「その名も、『スノウ・プリンス友の会』」


 会長が続けた言葉に、耳を疑ったのは私だけじゃないはず。この人が登壇してからずっとかすかにざわついてはいたのだが、声高にオウムが唱えたその時、あちこちから驚きとも呆れともつかない声が低くフロアに広がっていく。

 会長は全く気にせずに続ける。おかしなことを言っている自覚はなさそうなのがすごい。


「活動内容は、一年一組三瀬粉雪様を陰から日向から応援し、愛するだけのいわばファンクラブです」


「あ”!?」


 目の前で三瀬が立ち上った。

 そんなことをしたら、『俺が噂の三瀬粉雪でござ~い』って言っているようなものなのに、愚かな三瀬。目立ちたがり屋なの? などと考えている私のむき出しの向う脛に、電流のような衝撃が襲い掛かった。

 三瀬が蹴り倒したパイプ椅子が倒れて直撃したらしい。


「いっっったいなぁ」


 ああ、愚かなのは私も一緒だ。

 立ち上って三瀬の学ランの胸ぐらを鷲掴みにする未来なんて、三秒前の私には想像もできない。


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