出会った
どこの学校にも七不思議の類は存在するだろう。
少なくともこの学校には幽霊の噂が存在する。
理科室にお馴染みの骨格標本がしまってある理科準備室に幽霊が出没するという噂だ。
幽霊の姿形もわからなければ存在する理由も正体もわからない。様々な憶測が噂となって飛び交い、更に憶測を呼んでいく。
尤も高校生にもなって幽霊を怖がるような生徒は貴重で、毎日のように噂されているわけでもない。ただ話が伝えられて残っているだけだ。
それでも生徒たちは理科室には近寄らなかった。生徒たちは普段そんな場所に用事があるわけもなく、薄暗い理科室にはいつも人気がなかった。
正太郎はその日もするすると人ごみを抜けて、一人でとある場所に向かっていた。
長いお昼休みだからか、周囲の生徒たちは昨日のテレビ番組や気に入らない授業の話、時には恋話など楽しそうにしている。
けれど正太郎はその話に混ざることはなかった。興味が無いわけではないが、自分には関係のないことであると割り切っていた。
しっかりとした足取りで人気のない廊下を歩き、薄暗い部屋の前で立ち止まる。鍵などを所持していなくても、少し力を入れるだけでドアはすぐに開いた。信じられないことに理科室には鍵がかかっていないのだ。生徒が近寄らないのをいいことに、管理している教師は油断しきっているのだった。薬品なんかもあるのになあ、と侵入を繰り返している正太郎でも思わざるを得ない。
中に入ってドアを静かに閉め、正太郎は真ん中辺りの席に座った。当然他には誰もおらず黒板も綺麗なままだった。窓から見える校庭では、男子生徒が楽しそうにサッカーボールを追いかけていく姿が見えた。
正太郎は昼休みになると理科室にやってくる。友人はおらず、誰かと話をすることもない彼は無人で静かなこの場所が好きだった。別段人ごみや賑やかさを嫌う質ではなかったけれど、1人でいるのも悪くない。彼はここでぼんやりと過ごす日課を寂しいとは感じなかった。
今日も正太郎はぼんやりするためにここへ来た。いつものことだからもはや「ぼんやりしよう」と思い立ってくるわけではない。気がついたらここへ来て、ぼんやりしているようなものだった。
伸びを一つ。ふにゃふにゃと陽だまりで昼寝する猫みたいにのんびりと、正太郎は机の上に顔を乗せた。頬にひんやりとした感触が伝わってくる。気持ちいい。
その時だった。
「誰…?」
静かだった理科室で声がした。少し怯えたような、でも優しい声だった。けれど1人だと信じ込んでいた正太郎は驚き、勢い良く姿勢を正して後ろを向いた。
そこには1人の少女がいた。
綺麗な黒髪に綺麗な黒目の、色の白い少女だった。