8.また会えるから
学校に復帰したあたしには、いくつかの越えなければならない闘いが待っていたが、順子が味方してくれたから、絶望感はもうなかった。
順子に続いて何人かのクラスメートも味方についてくれるようになると、クラス全体の雰囲気が変わった。
虐めといったところで、明確な理由のない、ただの確認行為だったのかもしれない。
和解には程遠い停戦に過ぎないが、とりあえずあたしは、以前のように虐められることはなくなった。
それでも、仲良くなることは難しいし、味方に回ってくれた者にも不信感が残る。
けれどあたしは、ときどき思うようになってしまった。あたしの暴力を受け入れ、散らばる廃棄物を綺麗だと語った順子の気持ちを。
せいぜい黒羽根の天使にしか理解されないと思っていた自分の存在。だけどあたしも、順子のことをわかっていなかった。
理解なんて簡単じゃない。そうだけど、わかりたいと思う。
ママのことも。
片木律子のことも。
夏休みも終わりかけたある日、あたしは再び思い立ち、病院に電話をかけてみた。
応対に出た職員に、入院中の片木律子に取り次いでくれるよう頼んだが断られた。ただし面会は可能と言われたので、翌日会いに行くことに決めた。
今度は事前に行き方を確認し、早い時間に家を出た。ケータイも忘れずに持つ。
新宿で、地下鉄から中央線に乗りかえ一時間。下りた駅で差し入れのお菓子を買う。それからバスに乗り、蛇行する坂道を上った。
雪山が近くに見えたから、遠くの病院だと思っていたが、それでも東京都内だった。
緑の向こうに、白い外壁の病院が見えてきた。
病院につくと、受け付けで名前を書き、三階のドアの前でインターホンを押す。すると中からドアを開けてもらえた。
面会室で待っていると、看護士が片木律子を連れて現れた。
「片木さん。スーシーだよ。元気にしてた?」
話し掛けるが、表情が虚ろでポカンとしている。あたしのことが思い出せないらしい。
クッキー菓子の入った箱を開け、二人で食べた。
「残りは、他の人にあげてね」
あたしはそう言ったが、片木律子は食べ続け、完食してしまった。
「あのさ、前に葉書をくれたよね。二十四世紀がお母さんに会いたがってるって書いてあったけど、どういう意味?」
彼女は応えない。
カリクメサン、オトナシサン……。いつか口にしていた独り言を呟いてみたが、それでも彼女は無反応だった。
また会いに来ようと思い、席を立つ。
駅に戻るとお腹が空いたので、構内にある立ち食い蕎麦屋で狐うどんを食べた。汁まで飲むと汗が吹き出す。
ホームで電車を待つ間に聞こえてきた、蝉たちの悲鳴。焼けるような光線。
電車のなかでケータイが震えだす。ママからのメールで、何時頃に帰宅できるか訊ねてきた。もう帰りの電車に乗っているから、と返信を返した。