カウラスの商人
商人は歩く。
バードリック・フレイマンはカウラス地区にある、教会で孤児として育った。
そこで牧師をしていた、ローゼン牧師つまりは、俺の育ての親だ。
口煩い部分もあった。優しい所もあった。
ロズさんは俺を残して逝ってしまった。
俺は2才の頃、ココに預けられた。
両親の事を聞いた時、聞かない方が良いと釘を刺された。
今思えば、それもロズさんの優しさだったのだろう。
ロズさんは俺に1番手を焼いたって言ってたな。
朝から元気だし、聖書も全く読もうとしない。
好き嫌いも多い、ケンカも良くするってさ。
文句言ってるけど、いつも笑いながら話すんだ。
この歳にもなると、それが何か恥ずかしくなってくるよ。
もう覚えてはいないが、5才になった頃、引き取り手が見つかったようだった。
町ではそこそこ名の通った名門貴族の一家だ。
その時、すごく駄々をこねて、泣いていた。「あの時が一番可愛いかったんだ。」と牧師は言った。
「そんな事もう忘れたよ」と言ったが、俺は覚えていた。
だがものの数ヶ月で教会に帰ってきた。
理由は、俺が色々やらかしたらしい。
酷くロズさんに、冷たい言葉を投げかけた。
しつけはどうなっているんだ。
こんなボロい教会で、そんな良い子がいるわけないわね。
俺は、熱くなっていた。
だが、ロズさんは頭を下げるばかり、そんな牧師をカッコ悪いと思っていたのは、昔の話
この前、ロズさんの遺品を整理していた。
そこで俺宛の遺書を見つけた。
フレイマンへ
こんなむさ苦しい、手紙は書きたくなかった。
私もお前くらいの頃は、がむしゃらに前だけを見て生きていた。
その行動に意味なんて無かった。
ただ生きるのに必死で、やりたい事なんて何も無い。
私が、牧師になろうと思ったのは、親が死んだ時、
前だけ見ていた私が、ようやく振り返った。
私が走ってきた道には、誰もいない。
途端に私は怖くなった。
もう帰る事も出来ないと分かっていたからだ。
だから私は残りの人生を、ただゆっくり、一歩ずつ、歩いていく事にした。
そうやって、生きていたら、お前と出会った。
それからというものお前は、絶対に私から離れようとしなかったな。
今だから言えるが、孤児を引き取るのは、大変だった。
でも子ども達は、私よりもっと大変だっただろう。
大人になった時、全てを理解出来てしまうんだ。
そんな時、誰かが居てやらないと、前には進めないんだ。
だからお前に最後の頼みがある。
旅に出ろ。
私の遺品の中で、金になりそうなものを、お前が自分の手で売るんだ。
それが私に残された財産だ。
全てお前に譲る。
そしてこの旅がお前にとってかけがえのないものになる事を祈る。
最後に別れの言葉だ。
ありがとう最愛の子。バードリック・フレイマン
All the Best
「こんなもんいつ書いたんだか」
手紙のインクはところどころ淡く滲み、紙はわずかに歪んでいる。
「ちょっと萎れてるじゃねぇか」
「寝ぼけながら...書いたんじゃねーだろーな...」
「でも今なら、バードリック・ローゼン。貴方の気持ちがよく分かる気がするよ。」
その日の俺は、ベッドで横になって、天井に過去を描いた。楽しくなって、気づけばそのまま寝ていた。
朝になって、俺は教会にある一番大きなリュックにあるだけの物を詰めた。
骨董品、オモチャ、食料品やツールキット
部屋が少し寂しくなったな。
旅の為に、筒から地図を出し、広げる。
カウラス地区は、ソロウという国の南端に位置する。
周辺が山脈に囲まれていて、少し隔絶されている。
海に面しているから、港に船が来る。そこからでしか、他の地区への移動が難しいだろう。
とはいえカウラスには商人は来るが、商人として出ていく者はほとんどいないだろう。
隔絶されてる地区だから、自給自足が完結している。海も山もあるし、貴族は鉱脈を持っている。
そういう町だ。
とりあえずは、船で隣町に行くとしよう。
荷物をまとめて、教会のドアを開ける。
今日は、春一番の陽射しだ。
不安はあるが、足取りは軽い。
すぐ隣にある墓地で、挨拶をした。
「行ってくる。」




