表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色の工場で星を掴む  作者: GT☆KOU


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/18

番外編⑩ 交差する影 ― 木原 × 湊 再会編

春の夜明け前。

 静まり返った成形ラインの前で、湊はタブレットを膝に置き、黙々と設定値を調整していた。


 重量波形の揺らぎ、金型温度、潤滑バランス。

 現場の癖は数値に変換され、静かなリズムで流れていく。


「……もう少し、だな」


 タブレットに走る波形が安定し、湊は小さく息をつく。


 その瞬間――背後から声。


「優しいやり方だ。

  壊さずに変えようとするやり方。」


 湊の手が止まった。


 振り返ると、ラインの影にひとり立っていた。


木原翔真。


 外部コンサルに転じて以来、会社に姿を見せるのは数年ぶりだった。


◆再会の空気


「来るなら連絡くださいよ」


 湊は立ち上がりながら言う。


「サプライズの方が、現場の空気がよく見える。

 予定された視察じゃ意味がない。」


「相変わらずですね」


「お前も変わってない。

 いや――“変わり方が変わった”か」


 木原は成形機に手を触れ、静かに言った。


「お前、昔は“正しさの証明”をやってた。

 今は“正しさを翻訳してる”。」


 湊は一瞬、言葉に詰まる。


◆価値観の再確認


「俺はな、ずっと“変えるためには壊すしかない”と思ってた。」


 木原は機械音を聞くように目を細める。


「壊して、生まれ変わらせる。

 犠牲が出ても、未来の方が重い。」


「……今もそう思ってるんですか?」


「思ってる。

 だが、お前のやり方も“嘘じゃなかった”らしい。」


 湊の胸に熱が走る。


「認めてくれるんですか?」


「違う。」


 木原はすぐ遮った。


「俺はまだ、お前のやり方を“選べない”。

 だが“否定できない段階”には来た。」


 湊は静かに頷いた。


 一致じゃなくて、交差。

 妥協ではなく、理解。


◆新たな提案


「それで……今日は何しに来たんです?」


 湊が問いかけると、木原はポケットからUSBドングルを取り出した。


「見せたいものがある。

 俺が今作ってる“壊すためじゃない改革ツール”だ。」


「名前は?」


「まだコードネームだけだ――」


 木原は短く言った。


『RE-TRACEリトレース

過去の決断と影響を可視化し、未来の選択負債を減らす分析ツール


 湊は息を呑む。


「壊すためじゃなく、選ぶためのツール……?」


「お前のやり方を見て、気づいたんだよ。

 壊す前に“なぜ壊す必要があるのか”を明確にする必要があるってな。」


 湊は笑うでもなく、ただ静かに受け取った。


「……一緒にやりませんか、それ。」


「違う。」


 木原は背を向ける。


「俺は隣じゃなく“外から”やる。

  お前とは役割が違う。」


「でも、いつか――」


「ああ、いつかは分からないが……」


 木原は扉に手をかけて振り返る。


「お前と同じ方向を向けるなら、その時は“敵じゃない”立場で立つ。」


 その言葉に含まれた温度は、かつての刺々しさとは違っていた。


◆湊の独白(木原が去った後)


 工場に再び静寂が戻る。

 始業前の空気は淡く、薄青の光が機械の表面を撫でる。


 湊は机にUSBを置き、呟く。


「壊すか、守るかじゃない。

 “選べるようにすること”が、次の時代なんだな……」


 またひとつ、価値観の星が増えた。


 その星々が、いつか線になって結ばれるかどうかは――

 まだ誰にも分からない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ