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サマーキャンプ

作者: 口羽龍

 真一しんいちは東京に住む小学生。今日は団地の子供たちとサマーキャンプに出かける事にした。毎年夏にやっているが、今日は都合によって違う場所だ。長野の秘境にあるキャンプ場だ。ここは無人の山林にあり、秘境のキャンプ場にあると言われている。この辺りには人家が全くなく、そんな中でキャンプができるという。川は澄んでいて、自然豊かな所らしい。


 ハイデッカーバスは村道を進んでいた。この辺りは全く車が通らない。本当にここに人が住んでいるのだろうかと思うぐらいだ。この辺りは豪雪地帯で、この道路が通行止めになると、集落が孤立してしまう。この辺りの集落の人々にとって、その道路は重要な存在だ。


 しばらく走っていると、看板が見えてきた。そこには、『亀平かめだいらキャンプ場』とある。この辺りの集落の名前は、五十木いそぎというらしい。この辺りもそうだが、どうしてこんな名前なんだろう。全くわからない。


 しばらく獣道を進んでいくと、いくつかのバンガローが見えてきた。これが亀平キャンプ場だ。ハイデッカーバスはその途中で停まり、出入り口のドアが開いた。


「さぁ、着いたぞ!」


 開いてしばらくして、真一ら団地の子供はキャンプ場に降り立った。今日からあさってまでここで過ごす。みんなはしゃいでいた。たまには自然豊かな所でキャンプというのもいいな。


「わーい!」


 真一は辺りを見渡した。噂通り、この辺りには人家が見当たらない。とても静かな場所だ。どうしてこんな所にキャンプ場があるのか、疑問だな。


「ここ?」

「うん。この辺りは全然人が住んでいないんだって。そんな場所にある、秘境のキャンプ場なんだよ」


 真一の父は説明している。だが、父はそれ以外、あまりこの辺りの事を知らないようだ。何か、ここに秘密があるようなのに。


「そうなんだ」


 歩いていると、川のせせらぎが聞こえてくる。それを聞いて、真一はキャンプ場の向こうにやって来た。そこには川が流れている。


「見て! 川が流れてる!」


 それを聞いて、真一の同級生、恵人けいともやって来た。真一の言っている通り、川が流れている。東京よりもずっと澄んでいて、飲めそうな水だ。


「本当だ!」

「すごくいい所だね」


 真一は横を向いた。そこには母がいる。母も、川のせせらぎに感動している。今年は変更になったけど、なかなかいい所だと思った。また行きたいなと思った。


「こんな中でキャンプって、最高!」

「本当!」


 真一と恵人ははしゃいでいる。こんな場所に泊まれるとは。とても嬉しいな。


「今日からここで2泊3日だね。思いっきり楽しもう!」

「うん!」


 と、そこに1人の老婆がやって来た。その老婆は、このキャンプ場の管理人だ。老婆は、川の対岸をじっと見ている。何かを知っているんだろうか?


「あれっ、どうしたんですか?」


 だが、老婆は何も言おうとしない。どうしたんだろう。


「い、いや、何でもないです・・・」

「そうですか・・・」


 そんな表情をよそ眼に、真一と恵人は楽しそうに遊んでいる。遊んでいる様子を見て、何かを言いたそうな表情だ。




 その夜はキャンプファイヤーだ。火の周りには参加者がいる。彼らはワクワクしていた。キャンプにおいて、キャンプファイヤーは素晴らしいイベントだと思っている。


「キャンプファイヤーやろうぜ!」

「うん!」


 次第に、参加者は、遠き山に陽は落ちてを歌いだした。


「♪遠き山に陽は落ちてー」


 参加者は歌いながら、炎を見ていた。炎はとてもきれいだ。


「炎、きれいだね」

「うん」


 夢のようなキャンプはまだ始まったばかり、これからもっと素晴らしい体験をしていこう。


 そんなキャンプファイヤーを、老婆が見ていた。あまり面白くないんだろうか? 真剣な表情だ。




 その夜、真一は夢を見た。その夢は、まるで昔にタイムスリップしたような夢だ。だが、それがどこなのかわからない。


「あれっ、ここは?」


 真一は首をかしげた。真一は呆然としていた。これはいつの頃のどこなんだろうか? 全く見当がつかない。辺りには、いくつかの民家がある。どの民家もかやぶき屋根で、とても歴史がある。


「集落?」


 しばらく真一が歩いていると、そこには亀平と書かれた看板を見つけた。ここは亀平という集落だろうか? だとすると、このキャンプ場は失われた亀平という集落から取られたんだろうか?


「亀平?」


 そして、真一は気づいた。これは昔の亀平という集落だ。こんなに人が住んでいたとは。この頃はとても賑やかだったんだろうな。集落が消滅するなんて、思ってもいなかっただろうな。


「ここの昔の姿?」


 突然、川の向こうから電車の警笛が聞こえてきた。真一は川の対岸を見た。走っている電車が見える。ここには電車が走っていたのか。その電車は真っ赤な車体の1両編成だ。そこそこ人は乗っているが、都会ほどではない。そして、モーター音が大きい。


「えっ、電車が走ってる!」


 電車は高いモーター音を上げながら、川沿いを走っていた。この辺りは急カーブが多いのか、スピードを落としている。


「あそこには昔、走ってたのか?」


 こんな電車が走っていたのか。そこに向かうまでの地図には、その鉄道が書かれていない。おそらく、もう廃線になったんだろう。亀平や五十木には、こんな時代があったんだな。その頃には都会ほどではないが、多くの子供が住んでいたんだろうな。


「おはよう」


 恵人の声で、真一は目を覚ました。やはり夢だったようだ。だが、ここの過去を知る、ある意味重要な夢だったな。


「おはよう」


 目を覚ました真一は、辺りを見渡した。どうしたんだろう。


「どうしたの?」

「ここ、集落だったの?」


 それを聞いて、恵人は驚いた。真一はどうしてこんな事を言ったんだろうか? そんなにここの過去が気になるんだろうか?


「えっ!?」

「集落だったのが夢に出たんだよ」


 そんな夢を見たのか。恵人はそんな夢を見なかった。でも、どうして見たんだろうか? ここに住んでいた人々が見せた夢だろうか?


「見たのかい?」


 その声に反応して、2人は振り向いた。そこには老婆がいる。


「えっ!?」

「確かにここには、亀平という集落があったんだよ」


 やはりここには亀平という集落があったようだ。だが、高度経済成長期の頃から過疎化が進み、集落は高齢化が進み、今では消滅集落となってしまった。老婆はかつてここに住んでいて、五十木に住んでいる。だが、ここの事が忘れられずに、ここに集落があった記憶を消さないために、ここにキャンプ場を開いたという。


「そうなんだ」


 と、老婆は川の対岸を見た。そこにも何かあったようだ。


「それに、あの川の対岸には電車が走ってたんだよ」


 真一は驚いた。やはりこの対岸には、電車が走っていたようだ。電車は今から30年ぐらい前に廃線になり、今ではただの獣道になってしまったという。最終日には多くの人々が別れを惜しみ、亀平の人々は、対岸から電車に手を振っていたという。


「それも夢で見た!」


 やはりそうだったのか。だけど、亀平の集落も、電車ももう戻ってこない。だけど、その記憶はここにあるんだ。この集落があった記憶を消さないためにも、これからもこのキャンプ場があってほしいな。だけど、この老婆がいなくなったら、このキャンプ場はどうなるんだろう。誰か、引き継いでくれる人はいるんだろうか? もしいなければ、亀平という集落の記憶は、全く消えてしまいそうだ。こんな集落があったという記憶をなくさないためにも、このキャンプ場がこれからも末永く残ってほしいな。

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