四次元からの侵略
ある田舎町に四次元の門が開き、侵略が始まった。精神病患者の狂気のような『彼ら』は、音楽を知らない幼子が弾くピアノのような行進曲に合わせて行進する。
見回りの警察官の放った銃弾が『彼ら』に着弾すると、金属と運動エネルギーは角のある球体に姿をかえた。警察官の脳は四次元的存在を認知することを拒み、あらゆる処理を強制終了させることを決断した。つまり、自らの米神に銃口を当て引金を引いた。村人も動物達も彼につづく。梅雨に濡れたアスファルトに、枯れかけの欅に頭を打ちつけ、脳を破壊する。
今朝、撥ねられたばかりの四肢を失った犬は自らを殺す術をもたず、死を求めて絶叫する。しかし、門があらわれた瞬間、この宇宙から『死』の概念は消失した。思考の停止を望むなら、脳を吹き飛ばすほかないのだ。脳のシナプスが組み変わり、組み変わり、組み変わり、いつか偶然、天文学的確率で四次元的存在が認知可能になるまで、犬の苦しみはつづく。門から滲み出る『彼ら』は、つぎつぎに三次元的存在を四次元的存在へ昇華させていく。スズキの軽トラックはタイムマシーンになり、光合成を行う欅は時間合成を行う扶桑となり、季節外れのモンキチョウは時空の旅行者となる。
人間には資格がなかった。三次元世界の認知に特化した人間の脳は、四次元世界と相容れなかった。無機物や下等生物こそが適合者であった。地球の全てを四次元化した『彼ら』は、変質した金属鉱物と下等生物に役目を託し、次の宇宙へ旅立った。