反撃の兆し
シルフはソファーの上で横になり、眠気とは違った意味で重たくなっていた瞼を開いた。
起き上がると近くには床に座り込みテーブルに寄りかかりながら眠る和也が居た。
シルフが立ち上がった音で彼も起きた。
「シルフ、怪我は大丈夫なのか?」
「うん、和也は?」
彼の目下には薄っすらとクマが出来ている。
「起きたばかりのところ悪いがセシルに頼みたいことがある。魔法界へのゲートを開いてくれないか?」
「申し訳ないのですが主様、私にはそれができないのです」
「それは、どういう……」
期待が外れたとばかりの動揺を含んだ聞き返し。
「確かに魔法の上位存在である私たち精霊には魔法界と人間界を繋ぐルートを構築するだけの力はあります、ですが今の私では力不足なのです。本来精霊を操ることができる者は魔法、又は魔力を扱えるものに限定されます。しかもそこには互いの意思によって了承された契約が必要なのです」
「それはつまり俺が魔法使いではないからシルフの本来の力が引き出せていないってことか?」
「はい、それと前に申し上げましたが正確に言うと私は現在誰にも使えていない事になっております。もちろん先代のお申し付けや、主様である和也様との仮契約は現在も行っていますがそれだけでは精霊である私本来の力を発揮することは難しいのです」
和也はしばらくの間黙って何かを考えていた。
彼の口が動いた。
「仮に、仮に俺が魔法使いだったとしてシルフは俺と精霊の契約を結んでくれるのか?」
「はい、それはもちろんのことです」
「ありがとう……」
「なあシルフ教えて欲しいことがある」
「何でしょうか?」
「俺はどうやったら魔法使いになれるんだ?」
今のを聞いた彼女の顔は〈驚き〉と〈予想通り〉の二つの感情が入り乱れていた。
「すみません、少し驚いてしまいました」
呼吸を整えるのと同じ要領で彼女は一度咳ばらいを挟んだ
「魔法使いの定義は魔力を認識できるか、という点が最も重要です。ですから普段から魔力の渦巻いている魔法界のような場所でその魔力を明確に認識することができれば魔法使いになれたことになります」
「それは俺の魔力で一ノ瀬の怪我を治した時みたいにシルフが俺の体内から魔力を勝手に吸収するやり方じゃダメなのか?」
「はい、あの時は私が一方的に主様の魔力を抜き取らせていただいただけです。今回は主様が意思的に操った魔力を用いなければ契約を行えないのです」
落胆により彼の膝に先ほどまで入っていた力は抜けて庭の草上にしゃがみこんだ。
「打つ手なし、か……」
そう言いながら全てを諦めた表情で背後へと倒れた、シルフが彼の頭を自身の膝で支えた。
そうは言ったが、彼はここで諦めるわけにはいかない、やっと会えた魔女、どこか遠くに居たような自分を現実へと引き戻してくれたような存在の彼女を自身の諦めだけで放っておくわけにはいかなかった。
(何か方法は、どこかにあるだろ……魔法っていう奇跡が存在するなら、それになる方法くらいあった手不思議じゃないだろ)
彼は無言で、誰も聞いていない自身の脳内で叫んでいた。
「それにしても不思議と今日は空の色が暗くなるのが遅く感じますね。それにこの草の上に居ると先ほどまでの怪我が癒えていきます、先代が亡くなった後でもここの植物たちは元気そうでよかったです」
シルフが今のことをどんな目的で行ったのかは分からない。もしかしたらただの気まぐれ、はたまた直感的な何かか……。
だが彼がヒントを得るには十分だった。
(じいちゃんの魔法がかかった植物……)
「それだ!」
そう叫んで彼は跳び起きた。
「どうかされましたか⁉」
やはりあの言葉は意図的ではなかったのだろう、急に跳び起きた彼に駆け寄りシルフは尋ねた。
「さっき、魔法使いになるためには魔力の濃度が濃い場所でそれらを明確に感じろって言ってたな」
「はい、確かに言いましたけど」
食い気味に聞いた和也に精霊は少々身を引いた。
「それだよ、人間界で唯一と言っていいほど魔力濃度が魔法界並みに強い場所江尾思い出したんだよ」
遺物でも掘り起こした考古学者の様に彼は立っている地面を指さした。
「あっ……」
シルフも和也の言いたいことに気が付いたらしい。
この和也の家は彼の老いじいちゃんによって幾つかの魔法がかけられている。そんな場所には当然のように魔力が分散している。
「シルフ早速だが魔力の感じ方を教えてくれ」
「分かりました」