一時の区切り
あれから何だかんだ教室の片づけとかをして下校を始めたのは六時ぐらいだ。
「今更だけど亜紀は?」
「ああ、彼女なら私が保健室に運んだわ、先生驚いてたから誤魔化すの大変だった。魔法使い体を乗っ
取られたせいです。何ていったら私が変な子になっちゃうところだった……そういえば何で亜紀が魔法使いって気が付いたの?」
「……何回か変だなって思った時はあった。けど結局は眼鏡で、かな」
「眼鏡?」
「ああ、亜紀が昨日家に来た時眼鏡かけてたの覚えてるか?」
「確かそうだったわね」
「でも今日は朝からしてなかった、亜紀はコンタクトもしないから変だなって」
隣を歩く一ノ瀬は何故だかこちらを疑う様な目で見ていた。
今の意見に納得してないのかと思って補足を始めてみた。
「あとは御見上げのケーキ、俺の見舞いなんだから一つだけ買ってくればいいのに、わざわざ丁寧に二つも買ってあった。今俺と一ノ瀬が一緒に住んでることを知ってるのなんて近所の人くらいしか知らない」
「確かに。それにケーキにはもう少し気を付けるんだったわ……」
*****
魔法界の日本、上空に存在する浮遊城の一室。
天井からは豪華なシャンデリアが垂れ下がり、遥かに高い天井はその空間に圧迫感というのを全く感じさせない。
「神崎様、お電話です」
椅子に座る男に黒服の男が近づいて言った。
机の上に置かれた受話器を取って椅子に背中をもたれた。
「何を考えているんだアンタは!」
彼が「もしもし」という暇もなく電話相手の見知らぬ男は怒鳴りつけた。
「はあ」
同じ出来事に飽き飽きしている様なため息をつき、話を続ける相手を無視して受話器を戻した。
「全く、魔法界のお偉いご老人方は人に文句の電話を入れる以外に時間の使い方を知らないのか……」
言葉の後に「呆れた」と付け足したそうな顔をした。
するとまた黒服が彼の近くにやって来た。
また電話だろうか。
どうやら違うらしい、彼の表情は今までと打って変わって喜びに満ちている。
部屋の扉をノックする音が耳に入った。
「入れ」
「失礼します」
女の声だった
入って来たのは黒い衣装に身を包んだ女、歩く度に足首や手首に着いた金属製の輪がカラカラと音を立てる。
「清水、今回は何やらいい収穫があったと聞いたが本当か?」
「はい、ですが今回も彼女の回収はできませんでした、申し訳ございません」
「それはいいんだ、だって君は彼女の回収完了と同等の価値の情報が手に入ったから戻って来たんだろ?」
男は立ち上がり、受話器と同じく机の上に置かれていたレターナイフを手に取りながら女に近づいた。
「……一ノ瀬千咲を追跡の最中にある一人の少年と出くわしました、どうやらその少年は少女と行動を共
にしているようで、自分が彼女を連れ去ろうとすると他人にもかかわらず邪魔立てして来るのです」
前置きが長かったのか、神崎はナイフを抜き刺ししてカチカチ音を鳴らす。
恐怖を感じたのか、女は一気に結論へと飛んだ。
「その少年は自分と同じく精霊の力を保有していました」
「精霊の力……」
男は反応するとともに清水と呼んだ女に対して鋭い目を向けて聞き直した。
「はい」
「……よくやった、これからも引き続き頼む。それとその少年についての情報は手に入り次第私に送ってくれ」
「分かりました、では失礼します」
清水は早めに部屋を出た。