魔女のクラスメイト
主様、主様、起きてください。
優しい声が頭の中に直接聞こえてきた。
目が覚めた場所はリビングのソファーではなく学校の教室。
昨夜は色々と考えたせいで眠りにつけたのは朝方だった。明らかに今その反動が今来ている。
あと数秒で四限目が終わりますよ。
そういえば今日登校時にシルフから「何かあったら念話で話しかけますね」と言われていたことを思い出した。
起こしてくれてありがとう。
いえ、お気になさらず。
どうやら頭の中で思ったことが直接相手に伝わる仕組みらしい。
脳内会話を終えて俺の右斜め前に座った一ノ瀬に視線を送った。
普段通り真面目に授業を受けていた、前から知っていたが一ノ瀬は真面目だ、学校では……。
昼食の時を知らせるチャイムの音。
いつも一緒に昼食を済ませる篠崎や早坂たちの所へ向かう、とその前に一ノ瀬を拾った。
「食堂行こうぜ」
それに対して彼女は首を縦に振った。
相変わらず学校では喋らない。
教室に居た奴らは〈無口な女王〉に話しかけた俺のこと珍しい生き物に出会った様な目で見てくる。
そんなことは気にしてはいない。
俺が歩き出すとその後ろを黙って付いて来た。
篠崎たちに「一ノ瀬も一緒でいいか?」と、一応の確認は取ったが帰ってくる答えは分かっていた。
「おう、一緒に行こうぜ」
「千咲は何食べるの?」
「そんなのは食堂に行ってから決めればいいんでしょ、一ノ瀬さん困ってるよ」
こいつらにとって今日出会ったばかり人間も前から見知っていた人間も特に違いは無いのだろう。
ただそこに自分たちと話している奴が居る、という認識なのかもしれない。だが普段からクラスの他の奴とコミュニケーションを取らない今の一ノ瀬には丁度いいかもしれない。
*****
食堂、相変わらず四人用の机では足りないので普段と同じく隣の椅子と机を繋げた。
「亜紀それ一個頂だい」
「うん、いいよ。代わりに麻衣のも貰う」
「どうぞ」
何でもない会話がテーブルの上を飛び交っている。
「おいしい」
一ノ瀬が小声で言うと、俺を覗くテーブルに居た全員は初めて彼女の声を聴けて嬉しそうに見えた。
「そうですね、食堂のご飯おいしいですよね」
隣で微笑みながら亜紀が一ノ瀬に言った。
一ノ瀬の視線は亜紀ではなく、彼女の箸が掴んだ料理の方に向いている。
「よければ、食べますか?」
「いいの?」
「はい」
余程嬉しかったらしく一ノ瀬は笑顔だ。
「そういえば、一ノ瀬さん」
「できれば千咲って読んで欲しい」
「千咲、後で時間ある?あれば少し話したいことあるんだけど……」
二人が話していると宇宙でチャイムが鳴った。
辺りを見ると食堂にはこのテーブルを囲んでる奴以外に誰もいなかった。
どうやらいつの間にか昼休みは終わりを迎えていた。
*****
「和也起きて、和也!」
少しうるさめの声で起こされた。
まだ四時にも関わらず季節のせいで空は赤くなり始めている。
「もう、十一時?」
「違うわよ、それ時計の長針の方見てるでしょ。今は三時五十分、私今から亜紀と少し話ししてくるから。だから戻ってくるまでここで待ってて……いい?」
「分かったよ」
返事をして俺は再び机に突っ伏した。
誰もいない教室、静かな時間が続く。
「主様」
間は唐突に終わりを告げた。
人の形となったシルフが俺の机の前に立った。
「少し失礼なことを申し上げるかもしれませんが、主様の友人である大塚亜紀様はもしかしたら一ノ瀬様の敵かもしれません」