room 2
10年前の記憶が蘇る。
中学生の頃、僕は野球部に所属していた。
練習を積み重ねたものの、
最後の大会はレギュラーには選ばれなかった。
その日の帰り道、泣きながら帰ったのを
今でも覚えている。
試合当日。背水の陣の気持ちで
レギュラーメンバーは試合に臨んでいた。
準決勝まで順調に進んだが、結果は2対1で敗退。
チームは悔しさを露わにし、涙を流していた。
次に待ち受けるのは受験勉強。
『勉強するのめんどくせぇな』誰もが口々にいう。
部活動がなくなると、塾に通い出す生徒もいれば、羽目を外して眉毛を剃ったり、髪色を明るくする生徒もちらほらいた。
無論、僕は前者の方だが。
3限目が終わり
次の教科の準備をしていると
『なぁ。お前どこ受けるか決めた?』
声をかけられ振り向くと、快斗が
調子はどう?という感じで訊いてきた。
『海辺高校にしようか迷ってる。お前はどこ受けるの?』と訊き返すと『俺は森出高校かな』
と耳の横を掻きながらいった。
快斗とは3年生の時に同じクラスになった。
あるロックバンドの話題がきっかけで、
僕と快斗の距離は急激に縮まった。
いつの間にか冗談を言い合うようになり、
やがて悩みを打ち明けられるほどの
仲になっていた。
『まあ、まだ先の話だけどな。それより』
快斗は一拍置いて口を開いた。
『お前好きな子とかいるのかよ』
にやりと笑う快斗。唐突な質問に僕はのけぞった。
『いるわけないだろ。お前こそどうなんだよ』
明らかに動揺していると自分でもわかった。
『いるっちゃいるけど、いないっちゃいない』
『なんだよそれ』
おちゃらけた顔をしている快斗にツッコミを
いれたと同時に、チャイムが鳴った。
悪戯な笑みのまま、快斗は自分の席に戻った。
『好きな人か‥』
そんな事考える暇もなかったな。
教壇に上がる先生を見ながら
僕は快斗の言葉を反芻していた。