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巫女になった訳

作者: カケル

「ねえ、あなたはどうして神様になったの?」

「んー?」

私は彼に訊いた。

この神社の神様になった彼に。

彼は休憩所の椅子に寝転がって空を見上げていた。

私もそこに座っているが、彼が寝転がっている場所には誰も座ろうとしなかった。

「神様になって、神様の気分を味わいたかったから?」

「そんな疑問形で返されても困るんだけれど」

ここの巫女になって半年。

神主から小言を言われる日々だったが、今では立派な巫女として仕事をこなしている。完璧なその仕事ぶりに他の巫女から陰口を言われることが多いが、いつものことだ。気にしない。

将来を考えるなら大企業に就職してお金を稼ぐ方がマシだ。

巫女に憧れていたわけではない。この特殊な職業である巫女を、直に体験してみたかったのだ。

「違うな。既にあんたが特殊だ。神である俺と話をしている時点でもはや普通じゃない」

心を読まれ、彼は私に対する意見を述べた。

「他に何が見える? 幽霊か? 精霊か? 悪魔か?」

「神様だけよ。善い神も悪い神も全部。その辺に目を向ければいくらでも神がいるから鬱陶しいったらありゃしない」

「神相手に鬱陶しいってすっげえ罰当たりなことを言うんだなあ」

「罰も罪も何も、私についてる神様は結構怖いのよ? こんな冗談くらいならどうってことないわ」

「口は禍の元だぜ?」

「死ねって言えばあなたは死ぬの? 死なないでしょう」

「それが問題だと思うんだけどなあ」

「私は気にしないわ。やろうと思えばジャングルでも一人で生きていけるもの。山籠もりですでに証明済みよ」

「装備は?」

「ナイフと寝袋だけ」

「そりゃあご立派だな」

ケケケッと彼は笑った。

「俺はそんな冒険はしなかったな」

「結構楽しいわよ? エキサイティングでエクストリーム、そしてエクスタシーだったわ」

「日本語を話せ、日本語を」

「Shall I teach you how to kill a bear? All you have to do is jump from the top of the tree and stick a knife into the bear」

「解った解った。すごいすごい。嫌な奴だな、お前は」

ケッと息を吐く彼。

私は彼の髪を触った。

「綺麗な黒髪ね」

「んなのどうでもいいだろ。さっさと帰れ」

「別にいいじゃない。今日は休みなの。何をしようが私の自由。あなたに迷惑をかけているかしら?」

「大ありだ。あんたの相手をするのも一苦労だからな」

「ならさっさとお社に戻ればいいじゃない。他の神様が相手してくれるでしょうね」

「まだ見習いだぞ? 恐れ多くて話しかけるのも難しいって」

「寂しいのね。話し相手は私くらいかしら」

「そんなわけねえだろ。俺は別に」

「じゃあ戻ったらどう? 私は帰るわね」

そう言って立ち上がると、彼はうんとも言わなくなった。

「寂しいなら言えばいいじゃない」

椅子に座り直すと、彼は口を開いた。

「俺は神だぞ。今更感情なんて持ち合わせていねえよ」

「まだ成って一年でしょう。年季の入った神様と比べてはダメよ。彼らは真の神なのだから」

社に視線を向けた。

格式高い社がいくつも並んでいる。

その大きな御殿が参拝者たちを歓迎していた。

「私がここを引退するまでには立派な神に成れるといいわねえ」

「成れるに決まってるだろ」

そう自信満々に告げた。

「あんたはこの先どうするんだよ」

「この先?」

「引退した後の話だ。今は十八だから、十年くらいか? 早いぞ、十年は」

「そうね。占い師にでもなってみようかしら」

それを聞いて、彼は目を開いてケケケッと笑った。

「真っ当な仕事につけよ」

「占い師も立派で真っ当な仕事よ?」

「普通に会社務めした方がマシだろうが」

「いいじゃない。特殊な職業で面白そうじゃない。神様とこうして話ができるんだもの。占い師くらい平気よ、平気」

「お前はやっぱ普通じゃねえな」

「そこが面白いんじゃない。普通の会社のアルバイトを高校時代に色々やったけど、普通過ぎて面白くなかったもの。面白かったのは、特殊清掃とかスタントマン、あと治験も面白かったわね」

「やっぱ頭おかしいな、あんた」

私の記憶を読み取ってか、彼は顔を顰めていた。

「私には誉め言葉ね」

鼻を鳴らすと、彼はフッと笑った。

「ま、お前らしいな」

「あなたはどうなの。神様としてちゃんと仕事をしているのかしら?」

顎に手を当てて、彼は考えた。

「ここへ来た頑張り屋さんを応援するとか、この地域周辺の管理とか、他地域への出張とかだな。年がら年中飛び回っているよ」

「それは良いじゃない。社の中でじっとしているだけだったら殴っていたところだわ」

「お前は神を何だと思っているんだ」

「紙じゃないの?」

「阿呆が」

ため息を吐いて、彼は起き上がって座った。

「お前はある意味長生きしそうだな」

「死神をも退ける自信があるわ」

「お前は神か何かか?」

「人間よ。みんなと同じ普通の人間」

「普通の人間は神と話をしないし、神をぞんざいに扱うこともしない」

彼はそう言って、右手に何かを掴んでいた。

そして私に差し出してくる。

「お前は何かと危なっかしい。命がいくつあっても足らんだろうからな、これをやる」

「お守り?」

小さなお守りだった。

神社に置かれている普通のお守りのように見える。

私はそれを手に取って見た。神気を感じる。

「そうだ。常に身に着けて置け。何かあればすぐに念じるんだ。すぐに手助けに行ってやる」

「わあ便利。じゃあ手が欲しい時に呼んじゃおうかなあ」

「ヘルパーじゃないんだぞ。使い方を誤るな」

そう言ってムッとする彼。

だが。

「必要ありませんよ由良」

「わっ」

後ろから声を掛けられた。

そこには私を護る神様がいた。

「そんな見習いの俗物なんて手にする必要はありません」

ストレートに言い放って。

「俗物扱いは酷いなあ。野良の神のくせして」

彼女は、無くなってしまった神社の神様だった。力を失って路頭に迷っていたのを、私が声を掛けたのだ。いつしか私の守護神となって陰ながら見守ってくれている。

「お前ひとりじゃ有事の際に対処できないだろうという賢明な判断をしただけだがな」

「愚かな判断の間違いでしょう。彼女を護るのに私一人で十分です」

「襲い掛かってくる猫一匹からすら護れなかったあんたに何ができるって?」

「猫程度でしたら襲われたという判断に至らなかったため、彼女の手さばきに任せただけでございます」

「噛まれたり引っかかれたりして病気に合ってたらどうするつもりだったんだ?」

「私の神気で病なんて吹き飛ばして差し上げますよ」

「無病息災を謳う神が、それを予防できなくてどうすんだよ」

「あなた本当に不愉快ですね。死んでください」

「それはこっちのセリフだ」

と、互いに槍と刀を抜く。

彼等の間に入り、制止を促す私。

ふんと鼻を鳴らして二人はそっぽを向いた。

「ふふ」

私が笑うと、二人は私を見た。

「仲良さそうで良かったわ」

そう言うと、私に向かって二人が互いの悪口を言い始める。

加護が弱いとか図々しいとか調子に乗っているとか。

あまりに子供っぽい言い争いに、私はまたも笑ってしまった。

こういうのが好きで巫女続けているのだ。

人間同士のどうでもいいやり取りと違う子供っぽいそれ。

神社の神様はより顕著だ。

感情的で、豊かで、思考に長けていて、それでいて幼稚で我儘。

「楽しいわね。神様って」

更にそう言うと、今度は私に向かって、神の威厳とか悟りとか話してきた。そういった噛み合いが良いのも神様の良いところだ。

見ていて飽きない。

「ねえ、今度の舞なんだけれど、私をしっかり見ててよね? 私頑張るから」

ニコリと笑うと、彼らは顔を見合わせて、私を見ては息を吐く。

「当然じゃん」

「しっかり見ててあげるわ。楽しみね」

息ピッタリにそう言った二人。

それを私は楽しげに見た。

これだから神様との関わりは辞められない。

将来神職になってみるのもありかもしれないと、そう思った。

いや、やっぱ占い師かな。

だってこっちの方が手順は簡単だし。

と。


https://ncode.syosetu.com/n3853ip/


【集】我が家の隣には神様が居る

こちらから短編集に飛ぶことができます。

お好みのお話があれば幸いです。


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