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魔除けの聖女は無能で役立たずをやめることにしました  作者: ゆうひかんな
番外編 トゥテ飛竜研究所の治療師は一身上の都合により逃走中

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番外編第十五話 トゥテ飛竜研究所の治療師は一身上の都合により逃走中


「花の妖精みたいだと思ったでしょう、顔に出てますわよ?」


 リアムはグッと言葉に詰まった。

 反論がないのは認めた証拠、と。

 うふふと笑ったマリエルの目と口が三日月のような弧を描いた。

 

「お兄様……っと、兄さんの好みって神秘的な甘い雰囲気の女性だったのねぇ」

「そういう意味ではなくて、危なっかしいところがあるから危険がないか見ていただけだろうが」

「あらまあ、そうなのー? ギルドで妖艶な美女や可憐な乙女に迫られてもあっさり断るから、てっきり兄さんは女性嫌いなのだと思っていたから意外だったわ」


 マリエルの言葉に、リアムはハタと気がついた。

 そういえば最近マリエルの紹介する相手に男性が増えたなと思っていたが、これって何か裏があった?

 探るようなリアムの視線を微笑みでかわしたマリエルは、一転して真面目な顔をした。


「とりあえず、冗談はここまでにして。いろいろな意味でタチアナをこのまま放っておくのは危ないわ」

「そうだな。徹底して隔離されてきたのか、それとも単純に自分と比べる相手がいなかったか。本人に普通じゃないという自覚がないのが危険だ。それにここまで警戒心が薄いと逆に放置するのは気が咎める」

「そうなのよね……とりあえず最寄りのギルドにまで連れて行って手続きを済ませましょうか。預かっている素材もあるしね」


 戻ってきたマリエルとリアムにタチアナは駆け寄った。


「打ち合わせ終わりました?」

「ええ、終わったわ」


 警戒心の欠片もない、のほほんとしたタチアナの表情に揃って二人はため息をつく。


「ダメね、絶対一人にしてはいけないわ」

「むしろ強盗や人買いが罠を疑うレベルだ……やっぱりわざとか?」

「無意識に決まっているでしょう。誰よ、この子を野に放ったのは。無責任にも程があるでしょう」

「一見しっかりしてそうに見えるし、さすがにここまでとは思わなかったんじゃないか?」


 素早くリアムと会話をして、マリエルはタチアナににっこりと笑った。


「とにかく早急に最寄りのギルドに行きましょう。ちなみに旅券はあるのよね?」

「安心してください、大事なものはちゃんと全部鞄に入れてきました!」


 タチアナはポンポンと鞄を叩いた。途端にマリエルは呆れた顔をする。


「大事な物がどこに入っているか教えてはダメでしょう……これほど無防備なのに護衛が一人もいないなんて信じられない。さっきの規格外魔法だけれど、当然人間相手にも使えるのよね?」

「え、使えないですよ? その、ちょっと事情があって人は無理というか……」

「は、嘘でしょう。こんな一人旅ってある⁉︎ 襲ってくださいと言わんばかりじゃないの!」


 マリエルの呆然とした表情にタチアナはようやく気がついた。

 どうやら自力で戦えるから護衛がいないと思われていたらしい。 

 そういえば故国から飛竜研究所までは研究所が手配した護衛がついていたような。あれは人と戦う術を持たないタチアナを守るためのものだったのか。

 だからって魔獣や魔物を護衛代わりにしていますなんてことはもっと言えない。

 申し訳ない気持ちでタチアナは眉を下げた。


「すみません、いろいろあって対人戦ではたぶんお役に立てないです」

「無謀というか、思い切りがいいともいうのかしら……タチアナの一番の忘れ物は警戒心みたいね」

「そんなことはありません、警戒心しかありませんよ!」

 

 口には出せないが、現在タチアナは逃走中だ。

 今も上空に竜が飛んでいないかを本気で警戒している。

 周囲の様子を伺うタチアナの真剣な表情を見てリアムは苦笑いを浮かべた。


「どうやら違う方向に警戒心が極振りした結果、早々に我々は安全と判定されたらしい。信用されたことは喜んでもいいかもしれないな。先のことはともかく、ギルドまで護衛するからこのまま一緒に行こう」

「しょうがないわね。ほら、守ってあげるからついてきなさい」

「ありがとうございます、その代わり魔物狩りはお任せください!」

 

 二人とも優しいし、頼りになる。

 ほっとした顔でタチアナは斜めがけの鞄を下げると、マリエルが思わず差し出した手と自分の手を繋いだ。

 もっと仲良くなれたらいいな。

 他意はなく、興味本位でタチアナは二人に尋ねた。


「そういえば、お二人の目的地はどちらなのです?」


 リアムは軽くマリエルと視線を合わせて、口を開いた。

 

「我々は特異な能力をもつ女性達が暮らす場所があると聞いて、そこを目指している。ただ、存在が巧妙に隠されているようで、今ある情報だけではうまくたどり着けないでいるんだ。ちなみにタチアナはそういう場所の噂を聞いたことがないか?」


 タチアナは記憶を探った。

 特異な能力をもつ女性達が暮らす場所か……そういえば禁書庫の書物で記述を見かけたような気がする。


「文献に書かれていたもので、人の噂のようなものでよければいくつかあります。ただ、読んだ内容を文字に残すことは許されなかったのであくまでも覚えている範囲だけになりますが」


 するとマリエルの顔がぱっと輝いた。


「お願い、ぜひ教えて。ちゃんと情報に見合った対価を支払うから」

「では情報の対価として、私もその場所に連れて行ってはいただけませんか?」


 一瞬、沈黙が落ちる。

 タチアナの真剣な眼差しにリアムはハッと目を見張った。


「もしかしたら黒髪に紫水晶色の瞳をした、魔法の使えない女の子がその場所にいるかもと?」

「はい、可能性があるのなら賭けてみたいのです」


 タチアナはずっと、出会ったときに聞いたおばあさまの言葉が気になっていたのだ。


 ――――違う場所にいたから、探しても見つからなくて。


 本来、タチアナのような少女が生まれる場所とは一体どこなのだろう?

 行き先のなかったタチアナの人生に初めて行きたい場所ができた。

 するとマリエルは眉を下げる。


「でもね、無駄足かもしれないし。迷いに迷って、たどり着くころにはおばあちゃんになってしまうかも」

「それならそれでもいいです。望むところですよ!」


 未来を選ぶ自由がある、それだけでもタチアナには十分だ。

 するとリアムは小さく笑った。


「気が小さいように見えて、タチアナは意外と大胆なところもあるんだな」

「空気を読まないのも、人を振り回すのも苦手なのですが、時と場合と相手によっては自分から動かなくては手に入らないものもあると学びましたので」

「それは頼もしいな、ただ妹がもう一人増えたような気もするが」


 そうつぶやいた彼の顔に慈しむような笑顔が浮かぶ。

 この笑い方は、しっかり者の妹を見守る優しいお兄さんという感じかな。普段の厳しい表情のときはちょっとこわいけれど、こうやって笑う顔はむしろかわいらしい。

 微笑ましくてタチアナはふふっと笑った。

 すると二人の隣で気配を消していたマリエルの口元がニンマリと弧を描く。

 

「これは、これは……なんだか面白いことになりそうねぇ」

「マリエル、何か言いました?」


 タチアナが横を向くとマリエルは無邪気な顔をしている。

 弾むような足取りで隣に並ぶと彼女は口を開いた。

 

「ね、参考までに聞きたいのだけれどタチアナの好みの男性ってどんな人?」

「そうですね……」

「おいマリエル」

「いいでしょう、私が聞きたいだけよ。こういう情報は大事じゃない」


 まったく堪えていないマリエルをリアムは軽く睨んだ。

 タチアナは無意識のうちに空を見上げる。


「足が地についた男性がいいです……いろいろな意味で」

「堅実な男性という意味かしら。それなら意外と近くにいるかもよー?」

「おいマリエル」

「いやだ、なんで兄さんがこわい顔をしているのかしら。誰とは言っていないじゃない」


 軽やかに笑って、マリエルは街道の先を指す。


「さあ、まずはギルドよ。タチアナを登録して魔物駆除して大儲けよ!」

「あ、駆除する魔物は私に選別させてください。魔力だまりの管理、そのついでに大儲けですね!」

「ちょっと待て、大儲けの前に大事な目的があることを忘れてないだろうな」


 大事な目的という言葉にタチアナはハッとして顔を上げた。


「そうだ、マリエル。この先に温泉はありませんか?」

「少し先に有名な保養地があったと思うわ。温泉に行きたいの?」

「はい、遅くなりましたが親孝行をしたいのです!」


 微笑みながらタチアナは天を仰いだ。


 ……おばあさま、温泉はこの先にあるそうです。今度こそ一緒に行きましょうね!


 うれしそうなタチアナの横顔にリアムとマリエルの表情が柔らかくなる。


「そういう気持ちは大事ね」

「そうだな、探すついでに寄るのはいいかもしれない」

 

 何だかんだありつつも意気投合した三人は目的地を目指す。

 目指す先にある土地の名は、聖なる地(セントレア)と呼ばれていた。


 

文字どおり飛んで帰ったアンジェリーナとは対照的に、地を這うようにして逃げた初代おばあさまのお話でした。初代おばあさまのお話はこれで終わりです。

スワラティ竜王国のお話の補足なので、ここからがと、いうところで終わっています。ですがもうすでに、小さな恋は始まっているのかもしれません。

明日、アンジェリーナとジルベルトのお話で最終話です。

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