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魔除けの聖女は無能で役立たずをやめることにしました  作者: ゆうひかんな
第三章 ヴァディス=スワラティの天船と竜の乙女

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第四話 迷子の竜探し作戦会議(表)と、竜舎を見学してみました


 取り急ぎ王に報告しなければならないということで、王子殿下は王城へと向かう。

 その代わりに竜舎の管理人であるザイルさんが状況を説明してくれることになった。

 別室に案内されてテーブルを挟んで座る。

 簡単な自己紹介を済ませて、早速アンジェリーナは切り出した。

 

「ルベルは竜舎を飛び出したということですが、前兆はなかったのですか?」

「ありませんでしたよ! のんびり寝ていると思ったら急にでしたからこちらが驚きました。預かっている他の竜も騒ぎ出してなだめるのが大変でしたね」


 当時の状況を思い出したのかザイルさんの顔色が悪くなる。ジルベルト様が首をかしげた。

 

「おかしな行動を取るようになったのはいつからか、正確にはわからないそうだな?」

「そうなのです。訓練のとき以外は自由にさせていましたのでどうしてあんなふうになってしまったのか」


 かつては飼育係に懐いて周りを飛び回り、王子殿下に甘えるなど愛らしい姿を見せていたという。


「本来なら親の庇護の下にある年齢ですからね、恋しいのでしょう」


 ザイルさんは深々と息を吐いた。

 そんな幼さの残るところを一番近くで見ていたから王子殿下は迷子かもしれないと思ったわけか。

 つらそうな顔をしてザイルさんは声をひそめる。


「大きな声では言えませんが……ずいぶんと昔にある日突然騎竜を失った王子がいたそうです」

「えっ!」

「探しても見つからず、呼んでも来ない。しばらくして王子は竜の目を失ったそうです。それで何らかの理由により竜から契約を破棄されたと判ぜられた。結果、竜に見捨てられたことを不名誉として処分されています」


 身分はく奪。王子は一夜にして平民となった。


「厳しいですね、竜のことを大切にする竜王国だからこそかもしれませんが」

「それでも彼は騎竜は絶対に戻ってくると信じて、国外まで探しに行ったそうですが……結局、見つからなかった。彼が亡くなった後も身分は回復しないまま、墓は王家の霊廟とは別の場所にひっそりと建てられています」


 そこまでか、アンジェリーナは青ざめた。

 見つからなければ、王子殿下も同じように処分されるかもしれない。


「今までアレスティオ様とルベルの関係は良好でしたから、さすがにそれはないとは思うのですが。それこそ家出かもしれません。契約主の愛情を確かめるために。それとも帰れなくて困っているのかも。ああもう、どうしたものやら」


 ザイルさんは白髪の混じる髪を乱して頭を抱える。

 ジルベルト様がアンジェリーナの顔を見た。


「アンジュは竜について何か情報があるか?」

「情報といっても魔除けの聖女としてであればいくつかは」


 アンジェリーナはおばあさまの知恵袋を取り出した。そして竜について書かれたページをめくる。

 魔除けの聖女にとって竜騎士の操る騎竜は少しばかり特別な存在だ。


「魔のつくものである竜が騎竜になれるのは、わずかでも神性を与えられてきたからです」


 神性とは神の力の一端を与えられた証。

 その神性が人と共鳴して騎竜となることを承諾する。


「竜が騎士を選ぶ基準は明確ではありません。相性、血筋、もしくは運命なのでしょうか。なぜその人物が選ばれるのかわかりませんが、契約を交わすと種を越えて深い絆で結ばれると聞いています」

「よく知っていますね」

「おばあさまの知恵袋のおかげです!」

「アンジェリーナ嬢にはおばあさまがいるのですか?」

「おばあさまとは先代の魔除けの聖女のことです。セントレア王国の神殿で知恵の書と評された方でした」


 その知恵の書と呼ばれるおばあさまが書き残したことによれば騎竜は魔除けの聖女に近い存在だとか。

 神に特別な力と使命を与えられたもの同士。

 だからアンジェリーナはできる限りの親愛の情をもって接する。


「我々は人と共存できる魔のつくものを無理して排除することはないと考えます」

「それが魔除けの聖女としての考え方か」

「そういうことになりますねー」


 竜もまたこの世界を維持するために必要な存在の一つ。

 邪竜のように自然の理から外れなければ狩ることはない。

 よし、やるか。アンジェリーナは胸元に手を当てる。


「わかりました。迷子の竜探し、お引き受けしましょう!」

「大丈夫なのか?」

 

 呼吸を合わせたわけではないのに三人の声が重なった。

 大丈夫ですよ、何しろ私には少しばかり経験値があるのです。

 ふふっと笑ってアンジェリーナは胸を張った。


「セントレア王国の神殿で聖女として働いていたとき、子守りのついでによく迷子探しを頼まれていたのですよ。神殿には毎日たくさんの参拝客が訪れるので迷子が出るのは日常のことでしたから」

「聖女なのに?」

「聖女でも無能で役立たずとして扱われていたから、ですよ」


 さらっとそう答えるとザイルさんは黙った。

 セントレア王国から離れたこの国にもアンジェリーナの噂は広まっているらしい。

 無能で役立たずではないと証明するのは時間がかかりそうだなー。

 

「たかが迷子探し。そう思われそうですが、効率よく迷子を探し出すことができなければ聖女の仕事も勉強だって効率よくできるわけがありません。そう考えるといろいろ学ぶことはあったと思います」


 強がりではなく、苦しんだからこそ磨かれるものもある。

 あのときの経験がまさかこんなところで役に立つとは思わなかったけれど。


「それでは早速、作戦会議をしましょう。まずザイルさんに教えてもらいたいことがあるのですが」

「何でしょう」

「私の経験から考えると、迷子は自分が安心できる場所に向かう傾向がありました。遠方から旅行がてら訪れた土地勘のない子はともかく、近くに住んで親に連れてこられた子は大体そうです。自分がよく知っている場所、もしくは親が連れて行ってくれた見覚えのある場所を目指して歩き回る」


 そこに魔除けの聖女としての知識を足していく。


「ルベルは王子殿下と契約を結んでいます。契約に縛られている竜は契約主の応諾なしに国を出ることはできない。この認識に間違いはありませんか?」

「ええ、少なくとも私が知る情報では正しい」


 ザイルさんは大きくうなずいた。

 竜と竜騎士が契約を交わすと種を越えて深い絆で結ばれる。裏を返せば契約に縛られることになるのだ。

 居場所がわからないというだけで王子殿下が竜王国にいる限り、ルベルもまた竜王国にいる。


「ルベルとの契約が破棄されていないのは王子殿下の目が変わらないことからわかります。そのうえでルベルの向かう先は国内で思い入れがある場所という可能性が高い」

「たしかに、それは考えられますね。ですが……先ほども申し上げたとおりにルベルがいそうな場所に心当たりがないのです。あの子は自由に飛び回っていましたから」

「そこなのですが、別にルベルにだけこだわる必要はないのでは?」

 

 アンジェリーナは笑みを深める。

 ルベルではなく、一匹の竜として考えたらどうだろう。


「国内にある竜が好む場所、他の竜騎士が騎竜を休ませるような場所をご存知ありません?」

「ああ、たしかに! それなら心当たりがいくつかありますな!」

「その中で王子殿下が連れて行った場所、もしくは会話の中で覚えていた場所。迷子なら、そこにいる可能性が高いのではないかと思います」


 迷子であれば、自分を見つけて欲しいと願うから。

 そうつぶやいたアンジェリーナは次に困った顔をした。

 もちろん、もう一つの可能性も忘れてはいけない。


「ですがザイルさんの予想どおり家出したのなら逆でしょうね。むしろ見つからないように我々の予想もつかない場所に隠れている可能性のほうが高い」

「そんな、それではどうすれば!」

「ここは王子殿下を信じましょう。騎竜が迷子だと断言した、竜騎士としての勘を」


 アンジェリーナは鞄から地図を取り出した。


「心当たりのある場所に、印をつけていただけません?」

「そうですね、できればもっと詳細な地図があれば……」

「ありますよ、こちらです」

 

 ジャミル様が横からさっと地図を差し出した。

 アンジェリーナはお礼を言ってありがたく受け取る。

 さすが特級商人。こういうときは気が利くというか、頼りになりますね!

 詳細な地図のうえにザイルさんが赤い印をつけていく。

 全部で六ヶ所。この中から王子殿下にルベルの行きそうな場所を選んでもらうつもりだ。


「そうだ、ザイルさん。竜王国に来た記念に竜舎を見せていただくことはできますか? 騎竜がどんなふうに人と混じって生活しているのか、一度見てみたいのです!」


 魔のつくものが人と共存する姿を間近で見る機会は多くない。

 そう答えてアンジェリーナは瞳を輝かせる。


 ――――


「これが竜舎です」

「遠目から見ましたけれど、本当に大きくて立派ですね!」


 竜舎は骨組みに硬い木材が使われているそうだ。

 屋根には金銀の豪奢な飾りがついて、白塗りの壁にも同じように金銀で守護の紋様が描かれていた。

 

「竜はとにかく力が強いので簡単には壊れないように素材と魔法で限界まで強化しているのですよ」


 竜は火、水、風、土の四つの属性に分類される。

 そのほかに陰陽の竜というものがいるらしいが、伝説上の生物とされていて実物を見た者はいないとか。

 ザイルさんの説明を受けながら竜舎を見て回る。

 竜が出入りする入口には扉や窓がない。あるのは日差しをさえぎる幕のようなものだけだ。

 ルベルの区画を見せてもらったけれど造りは同じ。

 これでは力任せに破らずとも、簡単に抜け出せるだろうな。

 ここにいる竜は騎竜契約を交わした相手。愛玩動物とは違うから檻に閉じ込めて繋ぐようなことは絶対にしてはならないと厳しく戒められているそうだ。

 細かく竜舎の説明を受けるアンジェリーナに、幕の内側からいくつもの不穏な視線が突き刺さる。

 いち早く視線の意味に気がついたジルベルト様がしまったという顔をした。

 無表情が鉄板のジャミル様も珍しく眉間に皺が寄っている。


「あたりまえといえば、あたりまえか」

「ですねぇ」

「ここまでわかりやすいと、むしろ止めなかったこちらが迂闊だな」

 

 挙動不審になった竜を落ち着かせるため、先ほどから飼育係の皆さんの動きがあわただしい。

 必死になでたり、話しかけたり、餌を与えたり。中には恐慌状態に陥って、奥に姿を隠してしまった竜もいる。

 そしてそれぞれ取る行動は違っても、視線の先にいるのはただ一人。

 ザイルさんはとまどうような顔でアンジェリーナと竜を交互に見比べている。


「つかぬことをお伺いしますが、どうしてアンジェリーナ嬢がこれほど竜に警戒されているのでしょうね?」


 

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