第二十五話 私は知っていましたよ、言わなかっただけで
「聖女殺しの短剣は、はるか昔に王が聖女から能力を奪うために作らせた呪具と先代より伝え聞いております」
そう、聖女殺しの短剣は聖女にとっては宝というよりも呪いに近い。普通の人間にはただの短剣だが、聖女にだけは心臓を刺すことで呪いが発動する。セントレア王は片眉を跳ね上げた。なぜ知っている、そう言わんばかりの顔だ。
「当時の王が不老不死になりたいと願ったことがきっかけだったそうですね」
体調を崩したことがきっかけとなり不老不死にとりつかれた王は聖女に依頼して霊薬や魔道具を作らせた。だが不老不死は神の領域、侵してはならない聖域だ。試みは全てうまくいかず、試行錯誤しているあいだに王はますます老いて、とうとう重い病にかかった。
「死期を悟り、切羽詰まった王は不老不死の聖女の能力に目をつけました。宝具の聖女を脅して秘密裏に短剣を作らせると不老不死の聖女の命とともに能力を奪った」
「……そこまでよく知っているな」
「これでも聖女筆頭でしたので。ですが御身も短剣を引き継がれたときに聞いておられるはずです。教訓として、かの王がどのような結末を迎えたかということを」
聖女殺しという対価を支払い、能力はつつがなく短剣へと受け継がれたように見えた。短剣を常に身につけることで老化に悩まされていた王は一気に若返り、治らないとされた病も癒えた。これでいつまでも若く、ずっと王でいられる。老いと病だけでなく死すら克服したと思い込んだとき、王は賢王ではなく愚王となった。
「かの王を変えたのは欲なのか、それとも神にでもなったつもりだったのか。言い伝えでは王位を継がせるはずであった王太子を処刑、諌める忠臣を退けて独裁者として長く王位に君臨したとされています。ですが、その最後はあまりにも呆気なかった」
なんでも美女に気を取られて階段を踏み外し、当たりどころが悪かったようでそのままぽっくりとお亡くなりになられたらしい。あまりにもくだらなすぎて話すほうが嫌になるわー。
だがそのおかげで、わかったことがある。
「王は短剣によって不老の力は手に入れたようですが、不死ではなかったということですね」
どうやら聖女殺しの短剣は、聖女の能力の一部しか譲り受けることができないらしい。そして途絶えた王家に代わり王となった公爵は老衰で亡くなったので、受け継いだ能力が効果を発揮するのは一代限り。不老の力を手に入れる代わりに直系の血を絶やしたなんて、王家はずいぶんと高い代償を支払ったものだ。
「器とした短剣の容量が足りなかったのでしょうか。かの王としては不死のほうが欲しかったのかもしれませんが……現実は思いどおりにいかないものですねぇ」
アンジェリーナは表情を変えなかったが、たぶん当時の宝具の聖女はわざとそう作ったのだろう。いくら国に尽くす立場とはいえ、そうたびたび聖女の能力を奪い取られてはたまらない。
「そして想定外がもうひとつ。この一件があってから不老不死の聖女はセントレア王国に生まれていません」
神が恩恵を取りあげたのだとアンジェリーナは思っている。セントレア王国の光と影を知り、語り部として国に安寧をもたらすという使命を負った不老不死の聖女。それを私利私欲のために命を奪ったのだから当然のことよね。
だが王は呆れたような顔で口元を歪めた。
「まったく、愚かな娘だ」
「と、いうと?」
「聖女殺しの短剣に欠陥があることなど承知している。だから宝具の聖女に改良させた。能力の全て吸収し、一代限りではなく永続的に使うことができるようにさせたのだ。魔除けの結界さえあれば、魔のつくものは寄りつかない。そうなれば、きさまなど不要だ」
破壊の聖女バラバラにねぇ。アンジェリーナは深々と息を吐いた。なんでこう皆あっさり騙されるのかな。
「それ、試しました?」
「……なんだと?」
「いやですからね、それを実際に試してみましたかと聞いたのです」
するとユリアンネは怯えたような表情を浮かべた。
「仲間の聖女を殺したかと聞きたいのかしら。さすが冷酷非情と言われるだけありますわね。私にはあなたの思考回路が理解できませんわ」
「毒や薬で聖女を言いなりにするような人間に言われたくないですねー」
どの口が言う。アンジェリーナは靴先で薬瓶を小さく弾いた。するとユリアンネは不快そうに眉を顰める。
「私は調薬の聖女、国の依頼であれば毒だろうと作らねばなりません」
「きさまとは違い、ユリアンネは優秀で役に立つ。必ず結果を出すし、まさに聖女の鑑だ」
冷静沈着と評判の彼女が珍しく誇らしげな顔で微笑むと王は満足げにうなずいた。
「聞くまでもない。使える駒を殺すわけがないだろう」
「いやしかし、魔除けの聖女を殺すように命じた人間に言われましても説得力というものが」
「きさまは駒のくせに自分勝手なことばかりする。だから短剣で力を奪い、力を行使するほうが安心安全だ」
アンジェリーナは頭を抱えた。だからね、問題にしたいのはそこではないのですよ!
「いや、ですから試してもいないのにどうして改良に成功したと言えるのですか?」
「……は?」
「は、じゃありませんよ。それができるのなら短剣を作った宝具の聖女は、なぜ最初からやらなかったのか考えました?」
優れた魔道具からさらに選りすぐった物にのみ与えられる宝具の称号。それを作ることのできる知識、技術力、発想。すべてを持ち合わせたとされる初代宝具の聖女が作った作品のうちひとつがこの短剣だ。実際に不老については達成したわけだし、それだけの力量ある人物が本当に作ることができなかったのか。
「作ることができなかったのと、作れるけれど作らなかったは、同じようでいて天地くらい差があります。それをわかっていますか?」
あえて言わないが、アンジェリーナの魔除けの力には裏がある。そう、魔寄せの力だ。もしこの短剣が見事アンジェリーナの心臓を貫いたとき、受け継ぐ力が魔除けとは限らない。不老不死のうち、不死が選ばれなかったのだから可能性は十分にある。
もし短剣が魔寄せの力を受け継いだら、どちらにしろ国は滅びる。そういうリスクがあるとわかっていたとすれば、わざと欠陥を作ったとしか考えようがなかった。そしてそれをまだ発展途上の宝具の聖女が改良したとして、本当にリスクは回避できているのだろうか?
「能力の全てを吸収し、一代限りではなく永続的に使うことができるでしたっけ。まず魔除けの結界ですが、魔のつくものを退けるためには私の持つ特殊な魔力が必要になります。私が死んで魔力が尽きた場合、どのように充填するのですか。対人特化の聖女の魔力では質が違うので使えませんよ。その問題点はクリアしているのですよね?」
そもそも対人特化の聖女で広範囲の結界を張るだけならリオノーラ王妃がいる。それで用が足りるのなら魔除けの結界なんていらない。
「それから能力の全てを奪ったとして誰が魔法を行使するのですか。魔除けの聖女が使う呪の言い回しは独特ですし、付与魔法ではなく補助魔法です。魔法の系統が違うから夢幻の聖女や祝福の聖女にも使えませんよ」
同じ植物でも薔薇とペンペン草並みに違う。でもどっちがペンペン草かは聞かないで。とにかく回復の効果があるものでも私の魔法では人は救えないし、対人特化の聖女には魔を退けることができない。系統が違うというのは使えないというのと意味は同じだ。
「その問題点をどうやって解消したと破壊の……っと、分解じゃない宝具の聖女バラバラに……おっとバルバラ様はなんと説明していましたか?」
「言い間違いにしてもひどすぎない?」
「ごめんね。正直、どうでもいいと思うとつい」
どんなくだらない言い訳を捻り出したのだろう。そう思うと呼び方なんて気にしてられないの。
「たしか……魔除けの聖女ごときこの程度で十分だ、と」
「本当にしょうもな、というか言い訳にもなっていなかった!」
アンジェリーナは天を仰いだ。まあ、あの宝具の聖女ならそんなものかもしれない。
「お忘れかもしれませんが、宝具の聖女バルバラ様は御年八歳です。そんな子供になにをさせているのですか!」
「バカが、聖女の能力に年齢は関係ない!」
「あのですね、対人特化の聖女を魔除けの聖女と同列に考えてはダメなのですよ。我々は代々能力を引き継ぐ。だから年齢に関係なく、そこにいるだけで魔除けの力が勝手に仕事をしてくれます。ですが対人特化の聖女は優れた才能を与えられただけなのですよ。聖女に任命されたあとの専門的な勉強と鍛錬、積み重ねた経験がさらに要求されます。そうでしょう、ユリアンネ様?」
「もちろんよ、調薬についてなら誰よりも努力してきたという自負があるわ!」
そう、その点だけは認めてもいい。努力を重ねてきたから今の彼女がいる。そしてこの努力こそが聖女の能力を左右するのだ。
「あの子が宝具の聖女と認められたのは、分解した魔道具を図面に書き起こすことができるからでしたよね」
たしかに分解して細部まで精密に写しとったという図面のすばらしさには目を見張るものがあった。その優れた才能を見込んで最年少で宝具の聖女に任命されたと聞いている。
「分解して、図面を引くことはできる。ではそれ以外の勉強はさせましたか?」
「勉強といわれても、あの歳ですでに宝具のメンテナンスと魔道具を組み立てることができていた。自ら図面を引き、難解な魔道具をいくつも組み立てていたのだ。それ以外にどんな勉強が必要だというのか」
やっぱりなー、担当の神官はよく調べもせずに報告をすませた。ムダにあざとかわいいから誰も彼もが騙される。
「ちなみに私が宝具の聖女の手伝いをしていたことはご存じですか?」
「知らんな、だからなんだ?」
「宝具のメンテナンスと魔道具の組み立て。両方とも私が代わりにやっていました」
「……は?」
「魔除けの聖女は三種の宝具を管理しています。だから宝具をメンテナンスしたり、組み立て直す工程は一通り仕込まれるのですよ。私の場合は先代が得意だったので、一般的な魔道具のメンテナンスと組み立てるところまで習いました」
おばあさま、好奇心旺盛だったからなー。アンジェリーナの指先が器用だとわかった瞬間に自分の持てる整備の知識を叩き込んだ。そのうえでアンジェリーナに適性があるとわかると、専門の講師までつけてそれ以上の技能も仕込んだ。幸か、不幸か、この場合は不幸かな。おかげでバルバラと完全に分業ができるぐらいまで技術を磨くことができましたよ!
「ですから宝具の聖女は、分解することと図面を引くこと以外は私の仕事と明確に割り振っていましたね」
「バカな、そんなことは聞いたことがないぞ!」
「それはわざわざ言わないでしょう」
バカはどっちだとアンジェリーナは薄く笑った。バルバラは天真爛漫で愛らしく神殿のマスコットのように扱われている。たしかにかわいいのよ、目もまんまるで子猫みたいでね。でもそんな彼女はアンジェリーナにだけ態度が悪い。アンジェリーナに対する周囲の扱いを見て、それでいいと学んだのだろうけどね。
「アンジェリーナ様がいじめるのです」
「仕事ができないからって意地悪します」
よく瞳を潤ませて、担当の神官に言いつけてたなー。こっちは日々忙しくて、いじめだの嫌がらせをしている暇な時間なんてありませんでしたよ!
アンジェリーナにすれば魔道具のメンテナンスや組み立てのやり方を覚えてほしいから教えようとしただけだ。だってバルバラの手伝いは厄介で、面倒ごとばかり押しつけられるのだもの。これ以上、やってられないわ。
ちなみにそういうときは大抵グイド神官に呼び出されてこっぴどく叱責される。こっちの話を聞きもしないで一方的に私が悪いと決めつけられるのよ。バルバラと揉めるほど悪者にされるので、最後のほうは相手にしなかったのだがそれも面白くなかったみたいだ。
「私が皆にかわいがられているから嫉妬しているのですよね、能力がないってかわいそう」
「黙っているから余計に不気味で意地悪だって言われるのですよ。それに顔色も悪いし、髪も肌もガサガサでボロボロ。もうちょっとなんとかしたほうがいいですよ。そんなんじゃ婚約者さんにも失礼です!」
子供だけに余計タチが悪い。これでキレたらアンジェリーナが大人げないと評判を落とすだけだ。ヘレナもそうだが、いじめられていると言いながらなんで私の手伝いを要求するのかなー。意地悪されていると思うくらいなら自分でやりなよ。それともそういう嫌がらせが流行っているのか……っといけない、話がそれた。
「宝具の聖女とはいえ中身は子供ですから、後先考えず興味の向くままに分解してしまうのは仕方ないことと思いますけどね。それを後始末するのは全部私なのです。よく分解して直せなくなった魔道具や宝具を私に押し付けて修復させていましたが、あれが本当に厄介で。工程が複雑なものや部品が足りないという理由で、どうしても元に戻せないものが出てきてしまう。そうすると叱られたくないからと私が壊したことにするのですよ。それを周囲があっさり信じるものだから、たとえできなくても私のせいにすれば誤魔化せると思っていたのでしょうね」
さて、宝具の聖女バルバラは聖女殺しの短剣の改良に成功したのか――――答えは、たぶん否だ。
「いくら才能があっても、聖女の称号を与えただけで人間は成長しませんよ」
勉強と経験は大事です。アンジェリーナが知る限り、バルバラが新たに効果を付与して組み直した宝具や魔道具は存在しない。勉強不足で、そこまでの高度な知識を持ち合わせていないからだ。
「ちなみに魔除けの聖女も、魔法の基礎や必要な儀式の手順などは先代から学びます。ユリアンネ様はいかがですか?」
「実技は高名な薬師に師事して学んだわ。それから知識は医学書や薬学辞典を取り寄せて読み漁ったの。実際に新薬が作れるようになるまで五年以上かかったわ」
「貪欲に知識を求めるところはさすがですね。ちなみに私の場合は先代が亡くなるまで十年かけて学んだことになります。ではそれと同じように、宝具の聖女に魔道具製作の基礎や応用する知識を学ばせましたか?」
おいおい、無言ってどういうことですか。顔色が悪いけれど大丈夫ですよね⁉︎
「グイド神官から三種の宝具をバルバラ様が分解したことを聞きました。もう一度組み直したけれど壊れていて使えなかったとも聞いています。まったく、分解だなんてとんでもないことをしてくれたものです!」
「どういうことだ?」
「なぜ三種の宝具だけは、魔除けの聖女がメンテナンスを行うのか。それは三種の宝具が魔除けの聖女が持つ特殊な魔力でのみ効果を発揮するようにできているからです。たぶん、触れてはならないところまで分解したせいで充填した魔力がすべて失われたのでしょうね」
「な、なんだと⁉︎」
「王の指示で魔除けの聖女には点検とともに魔力を充填する義務があります。燃費が悪いので何百年もかけて魔除けの聖女が少しずつ貯めてきた魔力が一気に失われたのです。まったく魔力貯蔵部は魔道具の心臓だというのに、そこに貯めた魔力の質の違いにすら気がつかないなんて圧倒的に経験が不足している証ですよ」
つまり国はド素人に宝具の改良を依頼したというわけだ。ようやく趣旨が伝わったようで王は顔色を悪くする。あのですね、魔力のことをはじめて聞いたという顔をしていますが毎月提出する報告書に同様のことが記載してありますよ。
「先ほどの台詞は聖女の命がどうという以前に、その短剣が魔道具として確実に使えるという保証があるのか、ということを確認したかっただけです。で、そこのところはどうなんですか。まさか本気で魔除けの聖女ごときっていう子供の戯言を信じてないですよね?」
「……」
信じたんかい。あざとかわいいからって甘やかしすぎですよ!
ここまでくると魔除けの聖女を無能で役立たず扱いしてきた弊害だな。私が悪いことにすればすべてが丸くおさまる。そう考えたところで、アンジェリーナはハッと青ざめて肩を震わせた。
「ま、まさか成功する保証もないのに短剣で私の命を奪おうとしたわけじゃないですよね⁉︎」
無言は肯定、と。マジか……アンジェリーナは言葉を失った。それじゃあ命がいくつあっても足りませんよ。ユリアンネもないわーという冷めた表情を浮かべているが、そこにいる時点で同罪だからな!
アンジェリーナは呆れ果てて乾いた笑い声をたてた。
まったく、民も貴族も王も聖女も。こいつら揃いも揃ってどうかしている。
「……王よ、神託では次はないと言われていたはずです」
するとセントレア王はわかりやすく青ざめた。
「なぜきさまがそれを知っている!」
「その台詞が出るということは、かつて魔除けの聖女を失った王が神託の聖女に口止めをしたのにという趣旨でしょうか。当事者に教えるなとは、なんとも悪質ですねー」
「……」
「先代から渡された報告書に記されていたはずです。強すぎる聖女の力には神から制約が課せられていると。魔除けの聖女は制約により魔とつくものから大切なものを守護するために戦います。そして神託の聖女は神託に関わる者に包み隠さず真実を伝えよという制約が課せられているのです」
王の顔色がどんどん悪くなっていくが、まさかこの期に及んで知りませんでしたとは言わないわよね。
「最初、神託の聖女は伝えるか迷ったそうです。王命だからではなく、幼い娘に残酷な現実を知らしめるようでかわいそうだと。ですが生まれたばかりの魔除けの聖女が嫌がる両親と引き離され、無理やり神殿に引き取られたと聞いたときに、すべてを伝えることにしたそうです」
「なんだと……」
「国に万が一のことがあった場合、未来を選ぶことができるようにと願って」
心ある者は悟っていたのだ、滅びの予兆を。
神託とは正しく伝わってこそ価値がある。ときには国にとって都合の悪い内容であっても、当事者には知らしめなければならない。そういう制約なのだと神託の聖女は理解していたそうだ。そして制約を守らなければ、最悪の場合、聖女の力を失う。
「神託とはセントレア王国を守る神の言葉であり意思でもある。神に仕える聖女がどちらを優先するかなどわかりきっていますよね」
そして魔除けの聖女は神託を受け継ぎながら胸に秘めて、その日を待ち続けることにした。
「ですから我々は知っていたのです。セントレア王国が次に選択を誤れば、国の未来はないということを」
そういえば神託の聖女は二百年ばかり前に亡くなったきりで、そのあと生まれていないな……。神官が神託を受けられないと嘆いていたが、これもまた神の恩恵が奪われた結果だったりして。
歯が欠けるように愛は失われて、少しずつ歯車は狂っていく。
「王よ、あなたはどんな権限があって神の代わりに聖女を使役しているのですか?」
王だからだ、そう答えようとしたがセントレア王はうまく言葉が出てこなかった。なんだこの威圧は、まるで触れてはならないものに触れてしまったような。
「聖女を殺して能力を奪う行為が、なぜ許されると思うのですか?」
思い上がるな、たかが王のくせに。
アンジェリーナはかつて謁見したときの甘い表情は欠片もなく、厳格で冷徹な神に仕える者の顔でこう告げた。
「聖女に国を捨てさせたのは他でもない、あなたです」




