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魔除けの聖女は無能で役立たずをやめることにしました  作者: ゆうひかんな
本章 魔除けの聖女は無能で役立たずをやめることにしました

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嵐の到来 ※他者目線


 そのころ神殿の内部では嵐が吹き荒れていた。


「とうとうこの日が来てしまった」


 グイドは重い足を引きずって神官長の執務室へと向かう。アンジェリーナが姿を消してから二週間以上が経った今日、王命により神殿に監査が入ることになった。そして監査官からグイドの事情聴取を行いたいという申し入れがあったのだ。

 神官長に言われたとおり報告書を提出して、アンジェリーナが見つかることを心から神に祈っていた。だが願いむなしく彼女の行方は不明のままだ。あれだけ目立つ容姿をしていたのに、半日目を離しただけで足取りが掴めなくなるなんて思いもしなかった。


 でもきっと大丈夫、自分の対応に問題はないはずだ。勇気を奮い起こしてグイドは神官長の執務室の扉をノックする。応答があり扉を開けたとき、静かに絶望した。自分に向けられた視線は好意的なものではなかったからだ。


「グイド神官、こちらにいる二人は国に任命された監査官だ。包み隠さず正直に答えるように」

「承知しました」


 監査官のうち年嵩の男性はライモンド、若いほうの男はトーニオと名乗った。まずトーニオ監査官がグイドの提出したアンジェリーナの予定表を差し出した。直近三年分をまとめて提出したので、そのうちの一枚だろう。


「聖女アンジェリーナの一日の予定はグイド神官が管理していることは間違いありませんか?」

「はい、間違いありません」

「どうやって組むのでしょう?」

「毎日割り当てられている仕事があって、それは事前に予定表に入れています。予定にないものでも前日までに要請があればそれも枠が空いていれば割り振ります。また、祭礼の手伝いなど、日付が決まっているものは事前に入れておくようにしています。それで最終的にはできあがった予定表を本人に手渡し、各部署に複写したものを配布します」


 トーニオ監査官はうなずいている。そうだろう、手順に間違いはないはずだ。抜けや漏れがないように細心の注意を払っているのだから間違いはなくて当然のこと。


「ではあらためてお聞きします。礼拝堂の掃除には、実際どのくらい時間がかかりますか?」

「は?」

「神殿に居住する聖女および神官の衣服の洗濯にはどのくらい時間がかかるのでしょう?」

「……そ、それは」

「答えられませんか。では調理場で晩餐に使用するじゃがいもの皮剥きについてはいかがです?」

「そ、そうですね……だいたい三十分くらいでしょうか?」

「ほう、あなたは一人で二百個のじゃがいもを三十分で剥き終えるのですか、すばらしい腕前ですね! むしろコックになったほうが稼げるのではないですか」

「え、二百個⁉︎」

「おや、驚くことはないはずです。聖女アンジェリーナが実際に剥いていた個数ですから。ちなみに祝祭日は四百個だそうですよ。ジャガイモが百個入った布袋が四つです」


 グイドは青ざめた。神殿の料理はじゃがいもを使用する頻度が高い。だからアンジェリーナを皮剥き要員として派遣して欲しいと料理長から強く頼まれていたのだ。まさかそんなに量があったなんて知らなかった。


「ざっと試算したところだと、ジャガイモを二百個剥きおわるのに一時間半はかかるそうです。さらに王城の担当者に確認したところ、礼拝堂と同じ規模の宴会場を掃除すると二時間、王城で働く文官や使用人の洗濯物を全て洗って干し終えるまでには早朝から下働きの侍女総出で作業しても三時間くらいはかかるそうですよ。もちろん神殿のほうが量は少ないでしょうが、一人で全ての作業を行うと考えると同じくらい時間がかかるでしょうね」

「……は、一人で?」

「そうですよ、知らなかったのですか? コックも侍女も聖女アンジェリーナに作業を丸投げしていたのですよ。空いた時間は別の作業に割り振っていたそうです。さすがに礼拝堂の掃除は神官も手伝っていたようですが、予定表で割り当てられた時間内に終わったことはなかったと証言しています」


 そんなバカな、アンジェリーナが一人でこなしていたなんて。相談を受けたこともなければ、そんな話を誰からも聞いたことがなかった。


「さて、ここからが本題です。グイド神官の作成した予定表をもう一度ご覧ください」


 あらためて予定表を見直したグイドは言いたいことがわかってしまった。


「どの予定も一時間で区切ってあるのです。洗濯も掃除も、じゃがいもの皮剥きも一時間。それ以外にも、買い出しや他の聖女の手伝いなど別の予定を入れていますが()()()()()なのです。それではグイド神官にお伺いします。これらの作業を一律一時間と区切った根拠はなんでしょうか?」


 根拠なんてない。だって経験したことのない作業ばかりなのだから。


「その程度で終わるかと……」

「作業量を加味することもなく、想像だけで時間を区切ったということですね」

「ですが終わらなければ、次の予定があるからと申し立てて途中で抜けるものと思いました」

「途中で抜けられるわけがないではないですか、その場に自分一人しかいないのに」


 グイドは言葉につまる。すると黙って聞いていたライモンド監査官が厳しい表情を浮かべた。


「前の仕事が終わらないから次の仕事に遅れてしまう。では遅れた理由を聖女アンジェリーナは何と言っていたか、あなたは覚えていますか?」

「予定の時間内に作業が終わらなかったからだ、とそう言っていました」

「そのときにグイド神官はなんと答えましたか?」


 グイドは思い出した。ああ、私はなんてことを。


「……」

「どうしました?」

「時間内に終わらないのは要領が悪いからだ。締め切りに遅れるのは無能である証拠だと」

「では作業を頼んだ人は終了予定時間を過ぎても終わらない場合にどう思うでしょう?」

「怠けていたと思うし、そう言ったと思います」

「では次の作業を頼みたかった担当者は予定表の時間よりも遅れてやってきた聖女アンジェリーナのことをどう思うでしょう?」

「役立たずと聖女アンジェリーナを叱りつけたかもしれません!」


 最後のほうは、まるで悲鳴のようだった。グイドは聖女アンジェリーナを無能で役立たずで怠惰な人間に仕立てた責任の一端が自分にあることに気がついてしまった。神官長は呆れた顔で深々とため息をついた。


「グイド神官が聖女アンジェリーナに欠片も興味がなかったのだということがよくわかった」


 好きの反対を無関心とはよく言ったものだ。ただグイド神官の場合、作業の大変さを知ったからといって手加減したかはわからないけれど。神官長の目に彼の態度はそう映った。


「グイド神官が聖女アンジェリーナを聖女らしくないと嫌っていたことは聞いた。人には相性というものがあるし、別に聖女アンジェリーナを好きになれとは言っていない。ただ彼女の行動予定を管理し、監視しろと指示しただけだ。ところがその管理すら雑だし、適当で。彼女にとって最悪の相手を選んでしまった責任の一端は私にもあるだろう」

「申し訳ございません!」

「盛り上がっているところ申し訳ありませんが、ここは謝罪の場ではありません。真実を明らかにするための場ですよ」


 聖女アンジェリーナを取り巻く闇はもっと深い。ライモンド監査官は冷静に切って捨てた。


「謝罪の言葉よりも我々はお二人にお聞きしたいことがあります」

「これ以上、まだ何か?」

「聖女アンジェリーナに国から手当てが支給されていないことに当然気がついていましたよね?」


 

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