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V-TUBER戦記  作者: 柊柳
夢乃愛
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第2話

 転送された二人が待っていたのは質素な作りで作られていた一件の家屋であった。


「ここが騎士様のお家なんですね」

「ほとんど使っていないんだがな。少しでも良くしてやろうも今は素材を集めて内装とかに血からを入れている」


 ・ ボロ屋だな

 ・ こんなボロ屋にアイドルの子を一人にさせるなよ


「そうだね。騎士様! もう少し、家はちゃんとした物を作らないとダメだと思うよ」

「わかっている。流石にこんな家に住まわせ続けるのは可哀想だからな。ちゃんとアップグレードするために素材を集めている最中だ」


 ・ 家のアップグレードってお金や素材が相当必要だもんな

 ・ 私もまだボロ屋だよ

 ・ 護衛騎士ならそこそこ素材や金を持っているだろ?


「Fantasy WORLDで大半使っちゃったんだよ。例の記念日のプレゼントにな」


 ・ フュージョンスキルか。

 ・ あれ、金で買えたんだっけ?

 ・ 買えるぞ。リアルマネーで10万はくだらないが

 ・ 護衛騎士……。まさか、そこまでして?


「流石にリアルマネーで買わないから。レアアイテムとG(ゲーム)コイン、10億で取引しただけだ。一つは貯めていた無料ジェムを使ってガチャで当てたがな」


 ・ 10億!?

 ・ G(ゲーム)コインも凄いがガチャで当てたのもやばいな。


「えっと、騎士様? ガチャってなんですか?」

「ログインすると必ずログインボーナスでジェムって呼ばれる宝石をもらっただろ? それを一定量貯めると宝くじみたいに色んな景品がランダムでもらえるんだ。おまえさんは携帯ゲームとかしない口か?」

「はい。スマートフォンはあまり使わないので、連絡手段とかTUBEを見るぐらいです」

「なるほど。まあ、こう言ったゲームは有料ガチャで収入を得るのが目的でな。リアルマネーを使って欲しいアイテム等を手に入れるために高額なお金を消費する人もいるから、その辺は気を付けるんだぞ」


 中にはスパチャをガチャに溶かしているやつもいると説明する。溶かす額を聞いて驚く愛は何度も頷いてなるべくガチャについては手を出さないと決めたのだが、あるゲームアプリでサラリーマン一月分の金額を溶かすことになるのであった。


「さて、キズナの様子でも見るとしますか」


 がチャリと扉を開くと二人の視線には豪勢な料理の数々が並ばれていた。


「お帰りなさい、兄様」


 調理中だったのだろうか、耐熱ミトンを着けた状態で迎えに来たキズナに愛は目を丸くさせる。


「せ、先輩?」


 ・ え、本人?

 ・ 完全にコピーだよなw

 ・ 騎士、兄様なんて呼ばせているのかよw

 

「えっと、どこかでお会いしましたでしょうか?」


 困惑する二人。一人は敬愛する楯無紬希にあまりにもそっくりだから。一人は初対面な人に先輩と声をかけられたからである。


「すまない、キズナ。こいつは夢乃愛さん。ほら、一度会ったことがある楯無紬希さんの後輩にあたる子だ」

「まぁ。紬希ちゃんの……。はじめまして、キズナです。駆け出しのアイドルですが、仲良くしてくださいね」

「は、はい。こちらこそ」


 ・ これがAIだと!?

 ・ 普通に推せるな

 ・ このゲームの凄いところの一つだな

 ・ ちと、Idol WORLDに行ってくる


「ほんと先輩にそっくりですよね。一部の部分を除いて」

「まあ、アイツの写真データを使っているからなぁ」

「写真? それって先輩の実費で作ったて言われているブロマイド集のことですか?」


 ・ マジか!?

 ・ アレを買っていたのか護衛騎士

 ・ すげー興味があったけど、値段がバカ高かったからな

 ・ 一冊一万はぼったくりだよな


「あー。これは内緒な。一冊も売れなくて泣きついて来たんだよ。あまりにも不憫だから一冊だけ出したんだ」

「クスクス。目に浮かびますね」

「さて。キズナ、わざわざ食事を作ってくれてありがとな」

「いえ、兄様。お料理は大好きなので」


 ・ ま、まぶしい!?

 ・ つむちゃんの姿でこんな健気な事を言われるとは、推せる!

 ・ これは上位互換だ!

 ・ 入れ換えた方がよくね?


「そっか。そう言う設定だもんな」

「はい。キズナは兄様の理想を体現させたアイドルAIです」


 ・ 外見がつむちゃんだから、凄い違和感w

 ・ ちゃんとデビューさせてやれよ


「キズナちゃんって普段は何をしてるの?」

「はい。歌や踊りのレッスン以外ですと兄様の家で畑を耕したり、牧場にいるお馬さんやお牛さんのお世話をしています」

「た、大変そうだね」

「正確には他のWORLDで仲間にした仲間達のお世話や管理をお願いしているんだがな」


 ・ アイドルに世話役をさせるなよ

 ・ アイドルさせてやれよ


 リスナーからアイドルの仕事ではないとお叱りを受ける。それには愛も同意だった。自分も声優を志したがやることは雑用ばかりであった。自分を見ているようで不憫に思った彼女はルークに抗議する。


「ダメですよ、騎士様。ちゃんとデビューさせてあげないと」

「歌や踊りのレッスンはさせている。デビューさせてあげるだけならさせてあげるんだが……。どの程度でデビューさせて上げればいいかわからないんだよ」

「どういうことですか?」

「歌も踊りもそれなりにできると思っている。けど、デビューさせると言うことはキズナがネットのみんなに出回ると言うことだ。レベルが低いって笑われたりさせたら、キズナが可哀想じゃないか」

「それは……」


 一理ある。有名人がゲスト出演で映画とかに声優業を行った時、上手い人はいいが時折棒読みじゃないかと笑ったことも少なくない。それは聞いていたリスナー達にも覚えがあった。


 ・ まあ、聞くなら上手い方がいいよな

 ・ 下手な踊りとか見たくないし

 ・ 可愛ければ何でもいいとは言えないか


「だろ? やらせてあげたいけど、キズナは産まれてからまだ数ヶ月しか経っていない。もっと学習してあげるべきと俺は思っている」

「だったら、ちょうどいい機会ですし、ここで御披露目したらどうです?」

「……む」


 しばし考える。確かにいい機会ではある。ここにはリスナーもいるから、キズナの実力がどれ程なのか意見を募ることもできる。悪くはない考えだが、それを自分だけで勝手に決めて良いものだろうか。


「……キズナ。どうだ? おまえさんさえよければ、見てもらうが?」

「いいんですか?」

「構わない。アイドルに関しては俺も素人だしな。目が肥えたリスナー達に見てもらえるのはいい機会だと思っている」

「兄様さえよければ見て欲しいです」

「決まりだな」

「あ、その前にお料理、食べてしまいましょう」


 あ、と二人の声が重なる。忘れていたが、テーブルにはキズナの作った料理の数々が並べられていた。せっかく作ってくれた料理をいただく事なく事を進めるのは悪いと感じた二人はキズナが作った料理を美味しくいただくのであった。


「ご馳走です。ゲームなのに味まで再現できているなんてびっくりでした」

「味覚再現までできているからな、このゲーム。たくさん食べても太ったり高血圧にならないのは素晴らしいところだ」

「そうですよね。さて、お食事も頂いた事ですし、早速キズナちゃんのお披露目に入りたいのですが、選曲とかは決まっていますか?」

「今回は既存の歌にしてもらうつもりだ。オリジナル曲やらを歌ってもらうことも可能なのだが、そう言った才能は俺にはないのでね」


 Idol WORLDでは曲の作成や振り付けを自分で作ってAIのアイドルに歌わせたり、踊らせることができる。そのため、そう言った趣味を持っている人達のアイドルは既存の歌や振り付けではなく、自分の歌や踊りを披露させることも可能であった。


「あの、でしたらアレを歌いたいです」

「アレってアレか? 確か……。恋する乙女は無敵だっけか?」

「はい」


 キズナの希望曲の題名を聞いて愛は「わぁ」と歓喜する。

 その曲は楯無紬希がCDを出したオリジナル曲の一曲であったからだ。


 ・ ほぉ

 ・ 最初にそれを挙げるとはなw

 ・ 護衛騎士、しっかりと抑えているのか


「……知人のデビュー曲なんだから当然だろうが」

「どういうことですか?」


 リスナーと護衛騎士の会話の意図が掴めなかった愛が尋ねる。


 ・ 既存の曲はアイドルに学習させないといけないんだよ

 ・ アイドルにつむちゃんの曲を聞かせて覚えさせた

 ・ 騎士がその曲を購入した証拠w


 コメントを聞いて納得していた。本人はただ単に手伝っている体裁をとっているがデビュー曲を購入するぐらい紬希を応援している。つまりそれは彼女を推していると言っても過言ではない。

 それを理解した愛は羨ましくもあり、自分もいずれはと奮起するのであった。


「はいはい。そんな事よりキズナ、いけるか?」

「はい、兄様」


 食卓のテーブルを片付けて準備を済ませるとキズナは歌い始める。最初は何処と無く緊張していたのかぎこちなかったが、徐々に歌と踊りに意識が集中したのか、満面の笑みで楯無紬希の歌を披露したのであった。


「わぁ。いいよ、いいよ。騎士様、全然いけますよ」


 聞き終わった愛が拍手を送る。ルーク以外の人前で初めて歌と踊りを披露したキズナは恥ずかしげに「ありがとうございます」とお辞儀をした。


 ・ うん、かわいい

 ・ 最初はガチガチだったけどな

 ・ それもまたかわいいから良し

 ・ 胸の弾みがえげつないな

 ・ 最後は楽しそうに歌っていたのは評価する

 ・ デビューする分には大丈夫だろうよ


 リスナーの評価はまずまずと言ったところであった。けど、酷評はない。それなりに楽しめたと言ってくれた。キズナの事を考えて今の今まで放ってしまったが、それは間違いだったのかもしれないと反省したルークは決断する事にした。


「……キズナ。今度のビギナークラス、出てみるか?」

「いいんですか!?」


 わーい、と両手を上げて喜びを表現する。

 アイドルをデビューさせるには定期的に行われている大会にエントリーして一定数の「いいね」を押してもらう必要がある。一定数の「いいね」をもらえて初めてアイドルと呼ばれるわけだ。


「おめでとう、キズナちゃん」

「ありがとうございます、夢乃さん。わたし、頑張ります」

「うん。応援するよ。あ、わたしの事は愛でいいよ」

「はい、愛ちゃん」


 夢乃愛はクリティカルを受けた。高鳴る胸のトキメキ。これがAIになせる技とは驚かせる。

 声優の専門学校に入ってから愛は友達らしい友達を得られなかった。親しくしていてもライバルとして必ず競り合わなくてはいけなくなる。そのため、表面上は仲良くしていても心の奥底から仲良くできた友人はほとんどいない。今はバックアップの同期や先輩達がいるものの、まだまだ打ち解けられていないのが現状。

 だから彼女は飢えていた。気兼ねなく話せる友人を。


「……ねえ、騎士様」

「なんだ?」

「わたしもアイドルを育てたい」

「……まあ、いいんじゃないか?」

「だから、手伝ってくれませんか?」

「仕事もあるしな」

「そうですか」


 断れてしまった。それはそうだ。護衛騎士と言われているルークにもリアルの生活がある。紬希の手伝いだけで精一杯のはずだ。


「だから、手伝いが必要な時は前もって連絡してくれ」

「……え?」


 しかし、次の言葉でいい意味で裏切られた。


「それって?」

「あいつにも言っているがスケジュール調整すれば手伝う事はできる。キズナも友達が出来て嬉しいだろうしな」


 ・ ツンデレか?

 ・ ツンデレだな

 ・ 落として上げる、ナンパの手口かな?

 ・ 護衛騎士、また燃えるぞ


「うるさいな。知人を手伝って何が悪い」


 ・ 浮気か

 ・ 二股騎士め

 ・ 《楯無紬希》浮気はダメ、絶対!


「誰が浮気だ!? てか、おい!」

「先輩!?」


 ・ え?

 ・ あ

 ・ つむちゃん

 ・ つむちゃん、平気?

 ・ 《楯無紬希》平気だよ。今回はドタキャンしてごめんなさい


「おまえ、休むならもっと早く言えよ。てか見ていないでちゃんと養生しとけよ」


 ・ 《楯無紬希》大丈夫大丈夫。お薬飲んで寝たら、だいぶよくなったよ

 ・ つむちゃんが平気でよかった

 ・ 騎士、おこっているようで心配すているのが丸わかり

 ・ 《楯無紬希》みんな、ごめんね。愛ちゃんも。騎士さん、愛ちゃんに手を出したらダメですからね


「出すか。手伝うだけだ」

「わたしは気にしていませんから、安静にしてくださいね。先輩」


 ・ 《楯無紬希》ごめんね。このお詫びは必ずするから。

 ・ 《楯無紬希》みんなも次の雑談回でちゃんと謝るから、浮気しちゃダメだよ


 矢継ぎ早にコメントが打たれる。言いたい事はそれだけだったのか、それを最後に彼女の名前からコメントは出なくなった。


「あいつ、言いたい事を言って消えたな」

「けど、元気そうで安心しました。さて、騎士様。今日はありがとうございました。今回はこれで終わりたいと思います」

「いいのか? まだ、説明の半分もしていないが?」

「はい。早速、わたしのアイドルをお招きしようと思っているので。またエスコートしてくれたら嬉しいです」

「了解だ、レディ。喜んでエスコートさせていただこう」

「はい! 楽しみにしています。みなさん、今回はここまでです! 先輩のチャンネルは概要欄に記載していますので、まだの方はそちらから遊びに行ってください。わたしの配信内容が面白かったと言ってくださる方はチャンネル登録とグッドボタンを押してくださいね。もちろん、騎士様もね」


 後日、ルークのフレンド枠に夢乃愛の名前が追加される事になった。

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