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V-TUBER戦記  作者: 柊柳
楯無紬希
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プロローグ

 護衛騎士。気がついたらそんな二つ名が広まっていた。頭を悩ませるルークであるが、時既に遅し。その名はとある人物の配信で知れ渡ってしまった。

 

「はーい、グッモーニング、皆さん! 今日も元気に行ってみようと思います!」

 

 目の前で元気よく頭上に向けて挨拶するのはD-WORLDのフレンドユーザー楯無紬希。彼女は巷で流行っているV-TUBERである。

 

「今日はレアモブ、プラチナスライムを倒すまで帰れません! をしまーす」

「……ちょっと待て」

「何ですか、騎士さん? いま、リスナーさんに企画説明をしている最中なんですよ」

「俺の記憶違いか? おまえ、今日は新衣装の素材集めと聞いていたが?」

「面白くなさそうなので、急遽変更しました」

「……またか」

 

 ため息をつく。その姿にリスナー達からのコメントがいくつも送られる。


 ・ 草

 ・ ドンマイ、護衛騎士

 ・ 諦めろ、いつものことだ』

 ・ てか、早く顔を出せ


「ちょっと! まるで紬希がいつもわがままを言っているみたいじゃない」

 

 ・ みたい、じゃないだろ

 ・ いつもじゃん

 ・ 護衛騎士に感謝しろよ

 ・ PS低いんだから、無茶させるなよ

 

 辛辣であった。しかし、これはいつものこと。紬希のプレイヤースキルはお世辞にも高いとは言えない。むしろその逆であった。

 

「ともかく! 今日はプラチナスライムを倒すまで帰れませんからね、騎士さん」

「あれって本当にいるのかよ」

 

 プラチナスライム。存在すら疑わしい超レアモンスター。中には遭遇し、倒した者もいると言われているが出現条件は全くわかっていない。一時期は躍起になって探した者もいるけど、今では本当にいるのかと言われるほど遭遇した者はいなかった。

 

「目当ては指輪か」

「ギクッ!? な、何のことかな?」

「誤魔化すのが下手だな。プラチナスライムがドロップするって言われている幸運の指輪が目当てなんだろ?」


 ・ なるほど

 ・ あれか

 ・ 本当にあるのか?

 ・ 幸運の指輪?


「ほら、リスナーにわかるように説明してやれよ」

「わ、わかっているわよ。幸運の指輪はなんと経験値、ドロップ率と言った諸々の数字がなんと三倍になる超お宝なのです! これがあれば超便利と思わない?」


 ・ すげー

 ・ マジか


「でしょでしょ!? ちょー欲しいよね」

「……はぁ。本当にあるのかね、そんなバランスブレイカーが」

「あるんです! あるから、こうして企画にしたんです。ほら、掲示板にも書いているじゃないですか」

 

 論より証拠と言わんばかりにスクリーンショットした掲示板の画面を見せて来る。

 

「ほらほら、どうだどうだ。ちゃんと書いているでしょ」


 ・ いや、これって……

 ・ 振りなのか?

 ・ マジなんだろうな

 ・ 騎士さん、言って差し上げなさい

 

「リスナーさんから要望があったから言うが、ほぼガセネタだぞ、これ」

「へ?」

「ちゃんと1レスに書いてあるだろ。なお、本当かどうかはわかりませんって。今時、こんな釣りスレに引っ掛かるやつがいるのかよ」

 

 ちゃんと読んでいなかったのであろう。指差した内容に視線を走らせて徐々に頬を赤らめる。

 

「ほ、本当かもしれないじゃないですか!? これは検証配信! この掲示板が本当かどうか検証するのが目的なんです」

「……そう言うのことにしてやろう」

「騎士さん辛辣! もっと紬希に優しくしてもいいんですよ」

「優しいじゃないか。毎度毎度配信の手伝いをしているんだから」

 

 ・ 確かに

 ・ ほんと暇だよな騎士は

 ・ ちゃんと手当ては出せよ

 ・ え、タダ働きなの騎士って

 

「愛が足りない! 紬希に対する愛が全然足りない!」

「……はぁ。ほら、オープニングもほどほどにして、さっさと移動するぞ。ただでさえ長丁場になるんだから」

「ちょっと騎士さん!? 置いていくなんてひどい! たまには紬希に優しくしなさーい」

 

 と、なんだかんだ言いながら二人は目的の場所である暗闇の谷に到着した。

 

「でね、この前入って来た新人の子がちょーかわいくて」

「はいはい、わかったからそろそろ準備をしようね」

 

 移動している最中、ずっと事務所の人間が、とかこの前食べたご飯がとか、止まることなく話し続けていた。V-TUBERとして話し続けることは普通なのだが、よくもまあそんなに話題に長けていると毎回感心させられる。

「えー。ここからがいいところだったんだけどなぁ」

「それより、明かりの魔法を頼む。どうせつけるんだろ?」


 ・ え?

 ・ 待て待て

 ・ 騎士よ、それは自殺行為だぞ

 

 暗闇の谷は明かりを着けるとエンカント率が一気に急増することで知られているソロ殺しのステージ。そのため、本来ならば暗視スキルを使って攻略するのが基本なんだが、配信が目的のため暗闇は紬希にとってはNGだった。

 

「りょーかい。[ライト]」

 

 魔法スキル、ライトが発動したことで周囲の視界がクリアになる。

「うんうん。これでよしっとギャあ!?」

 

 視界がクリアになると同時に黒ローブを纏ったゴブリンが三体ほど押し寄せて来た。暗殺を得意とするアサシンゴブリンだ。それをルークは大楯で防ぎ、即座に剣を抜いて撃退する。

 

「油断するな。ここはそう言うところってさっき説明しただろ」

「い、言ってないよ!?」

 

 ・ 言った

 ・ 言っていた

 ・ ちゃんと説明していたぞ

 ・ てか覚えておけよ

 

「みんな辛辣! って、また来た」

 

 今度は蝙蝠型のモンスター、ブラットバット。吸血攻撃を得意とするモンスターにルークはタウントを発動した。タウントは言わば挑発スキル。敵の殺意を一身に集める効力を持つ。

 敵がルークに集まって行くのを見て落ち着きを取り戻した紬希は撃退するために攻撃を繰り出す。

 

「[ファイアーショット]」

「は!?」

 

 群がるブラットバットに炎の火球が着弾する。その中心にいるルークもろとも爆発したのであった。

 

「よーし」

「よーし、じゃねえ! おかしいだろ、スペルの選択が。あそこはパラライズウインドウを使うべきだろ」

「炎の魔法の方が派手なんだもん」

「だからって俺ごと魔法のターゲットにするやつがあるか!?」

「騎士さんは自動回復のスキルがあるじゃないですか! 紬希の魔法ダメージだって直ぐに回復するでしょ?」

「あー。そうですね。どこぞのお嬢様のせいで熟練度が四桁を突破しそうだよ」

 

 スキルは使用すればするほど熟練度が上がる。特に常時発動するパッシブスキルは熟練度が上がりやすいのだが、パッシブスキルの使用数によっては熟練度は上がりにくくなる仕様になっていた。

 ルークのパッシブスキルは自動回復を含めて五つ以上を装備している。基本的には3つ以上装備すると効率が悪くてオススメできないと言われている。それでも四桁近く熟練度が上がっているのは驚くべきことであった。


 ・ ドンマイ騎士

 ・ お約束だな

 ・ いただきました ¥250

 

「やめろやめろ。こんなのでスパチャを送るな」


 ・ え、振り? ¥400

 ・ 仕方がないな ¥300

 ・ 欲しがりだな ¥1000

 

「だからやめなさいって! 金を無駄遣いするな」

「わーい、ナイスパ! レッドさん、マッスルさん、ポコピーさん、マネーさんありがとね!」

「またお前らか!? 特にマネー!? おまえ、この前も一万も出しただろ!? もっとお金は大切にしやがれ」

 

 ・ 足りなかった? ¥20000

 

「ちがーう! こんなやり取りで赤スパ使うな!」

「うるさいよ騎士さん。ほら可愛い可愛い紬希をなめ回すように見ていいから落ち着いて」


 ・ 『色気がたりない』


「失礼な。色気たっぷりでしょ。ほらほら」


 ・ …………

 ・ …………

 ・ …………

 

「コメントしろよ! こんなに胸だってあるでしょ!? みんなの大好きなミニスカートにして、ちょいちょいパンチらさせているじゃないの」

 

 ・ ……騎士さんいつもの言ってあげて

 

「落ち着け変態!」

「いたっ!? なんで叩くのよ騎士さん。可愛い紬希の頭を叩くなんて愛護団体が黙っていないよ!?」

「やかましい。やり過ぎて収益剥奪されたんだろ。少しは慎みを持て慎みを」

「ふん。男の子なんて胸とパンツが見られれば誰だっていいんでしょ」

「おまえなー。……はぁ。そんな事をしなくてもおまえは充分魅力的だよ」

「え? き、き、騎士さん!?」

「はい、次いくぞー」

「ちょ、騎士さん!? 今のもう一回。もう一回言って! 録音しとくから」

「うるせー。そんなにお安くねえんだよ」

 

 スタスタと前進し始める。なお、話している間も襲い来る敵モブを凪払って撃退していることは誰も突っ込みを入れない。だって、いつものことだから。

 

 ・ はい、切り取り確定

 ・ 配信しているんだから、ばっちり残るの忘れているな騎士は

 ・ 夫婦漫才あざーす

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