表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/6

第二話 私は色鮮やかな夢の中。


 今、私は色鮮やかな夢の中。


 この夢の中では、現在の正確な時間を知る事が容易に出来ます。それも、国家レベルでの大掛かりな装置だけでは無く、個人レベルでも持ち歩ける大きさの物も存在している、時計と言う装置です。

 先程、イルヴァスが手に持っていたスマホにもその装置が備わっているのです。


 そして、今の時間は十二月十二日の八時を少し過ぎた五分。何処かわからない部屋の柱に掛けられた、時計がそう指しています。


 「ねぇ…?イルヴァス?ここは何処なの?」


 「アウリルがずっと寝てて、何しても起きる気配が無いからさ?僕の実家に『空間転送』使って連れて来たんだよ?」


 ここは、イルヴァスの実家。


 「ええええっ?!じゃ…じゃぁ、このお部屋は…!?このベッドは?!」


 「僕が、英雄学園に通うまで使っていた部屋だよ?英雄学園は全寮制だったからね。」


 イルヴァスのベッドの上に…私。寝かされていた?でも、さっきイルヴァスは…何しても起きなかったって…。


 「えっ…?!」


 慌てて、自分の身体の大事な所を…イルヴァスが居るのに確認する私が居ました。


 「ねぇ…?イルヴァス?変な事…してないよね?」


 「んー。どうかなぁ?」


 この夢の中では…私は処女の筈です。実際の私は…惨めすぎて言いたくもありません。


 「うわぁぁぁぁん…。うわぁぁぁぁん…。」


 「おい!アウリル?殆ど嘘だから…泣くなよ?」


 「ぐすん…。なら、殆どって…何なの…?」


 「あー。それはだなぁ?僕も男だし?年頃の娘が起きずに眠っていたらだなぁ…?ゴメンなさい!!アウリルの…胸揉みました!!」


 胸くらい、不可抗力で触れてしまったり、当たってしまったり、倒れ掛かって掴んでしまう事も、無いとは言い切れません。


 「それくらい…大丈夫です。でも、生理中はやめて欲しいです。滅茶苦茶胸が張って、触られるだけで痛いので。」


 「じゃあ…場合によってはお言葉に甘えさせてもらうからね?」


 イルヴァスの言葉に私は頷ました。どうせ夢の中の出来事なので、胸を触るくらい許してあげる事に決めました。


 この色鮮やかな夢の中で、イルヴァスは私の心の拠り所です。イルヴァスは…この夢の中の世界を救える存在。勇者様の一人です。

 だから、私みたいな…夢から醒めれば、穢れた名も無き奴隷女とは…一緒に居てはダメなのです。

 でも、勇者様は私を…旅のお供に選んで下さいました。選ばれた理由は、この夢の中で私は治療師をしていたからでした。どうやら、数人しか生存していない貴重な職種で、勇者の旅には必要不可欠な存在なんだそうです。


 何故、勇者が世界を救わなければいけないのか?

 それは、この夢の中の勇者だけが持つ力があるからです。


 何故、世界を救わなければいけないのか?

 それは、この夢の中の世界のあちこちに悪魔が侵略を始めているからです。


 簡単に言えば、勇者しか悪魔を完全に倒せないのです。

 正確に言えば、勇者の力でしか倒せないのは、上位の悪魔本体のみです。因みに上位の悪魔は、攻撃を受けた際に分裂したり、全ての生物を悪魔化する事が出来ます。

 上位以外の悪魔は、分裂が不可能な為、勇者の力が無くても倒す事が出来ます。


 「おーい?アウリル?また寝ちゃったって事は無いよね?」


 「ううん?寝てるよ?」


 「おっ?!じゃあ、胸揉んでも怒らないよな?…なーんてね?」


 「イルヴァスのそう言うところ、好きだよ?」


 何気なしにイルヴァスのユーモアさを褒めたつもりでした。なのに、イルヴァスは何故か顔を赤くして、背を向けてしまいました。


 「あ…朝飯、アウリルも食うだろ?」


 「良いの?!」


 「僕の家の味が、アウリルの口に合うかは分からないけどな?」


 「私ね?頂いた物は何でも…残さず食べるから!!」


 現実の私は、毎日の食べ物も苦労する程の奴隷です。せめて夢の中だけでも…食べ物に苦労する事なく過ごしたいのです。


 今、私が居るのは…勇者の一人であるイルヴァスの実家のようですが、部屋の柱や壁には木が使われているようで、凄く落ち着きます。

 これまで、イルヴァス達と旅をしてきて泊まった場所は、悪魔の襲撃を意識した堅牢性の高い建築構造をしていました。

 何故、奴隷で知識のない筈の私が…建築の話をするのか。それは…今ここには来ていない、私の父親を自称する勇者パーティの一人が元建築士なのです。私が教わったのは、コンクリートと鉄骨という建材を組み合わせて建てられた建造物造が堅牢性が高いと言う話でした。


 「じゃあ…我が家の食卓へ案内するよ?ほら、アウリル?僕についておいで?」


 そんな事を思い出している間に、イルヴァスが部屋のドアを開けていました。ゆっくりですが、イルヴァスはドアの外に出て行ってしまいます。


 「待って!!イルヴァス?一緒に行こ?」


 待ってましたと言う表情で、イルヴァスは私に近づいてきました。すると、徐に左手を私に差し伸べてきました。このまま手を強引に引かれて…何処かに連れていかれる事だって…。


 「本当に、アウリルは甘え上手だよなぁ?僕達と出会う前のアウリルは、何してたんだろうな?まぁ、その記憶が無いアウリルに聞いても仕方ないんだけどさ?」


 記憶が無いんじゃなくて…ここは色鮮やかな夢の世界。だから、この身体も…治療師という職業も…きっと私に都合の良い設定。貴族の屋敷で…執事のジェドさんに読み聞かせてもらった、勇者様と癒し手の恋物語。その話に…何となく、似ている気がします。


 「ほら?みんな待ってるから、アウリル?行こう!!」


 ドアの取っ手にイルヴァスが手を掛けました。


 ――ガチャ…ギィィィッ…


 音を立ててドアが開いて行きます。すると少し大きめのダイニングテーブルを囲むように人影が見えました。


 「さぁさぁ、お嬢さんどうぞこちらへ!!」


 「イルヴァスあんた…こんな可愛いお嬢さん何処で…。」


 食卓のある部屋に入りきる前に、急に二つの声がしました。二人の印象は、貴族のように華やかな感じではありませんが、奴隷のように汚い感じでもありません。でも…懐かしい感じと人としての温かみを感じました。


 「どうだ?アウリル。ごく普通の家庭だろ?」


 「イルヴァスが羨ましいな…。」


 思わず口から、本音が溢れてしまいました。


 「何言ってんだよ!こんなの、何処の家も一緒だろ?」


 「私…温かい家庭、憧れるんだ…。」


 そう言えば、私の手をイルヴァスは握ったままです。でも、ご両親と思われる方々の前で、握られた手を無碍に離すことも…私には出来ませんでした。


 「イルヴァス!!あんた…こんな可愛いお嬢さんと…二日も部屋に籠りっきりで、一体何してたの!?」


 「ああ、お前まさか…父さんみたく、勇者の血を引く子をこしらえてたんだろ?」


 やはり、手を握ったままの弊害が出てしまいました。でも、私は…空気の読める奴隷で有名でした。


 「父さん、母さん。僕…アウリルとは…」


 「お義父さま、お義母さま、イルヴァス様とは…清いお付き合いをさせて頂いております。」


 握られている手を私は二度…強く握りました。


 「そうなんだ!!だから、もうお見合いとか…そう言う話は一切、連絡して来なくて良いからね?」


 もう成り行きですが、イルヴァスの面目を保つ為にも、暫くはこのまま関係を続けた方が良さそうです。


 「紹介するよ、こっちが父さんのアルヴェン。こうみえてもれっきとした元勇者だよ?そして、母さんのユーシェ。アウリルと同じ治療師なんだよ?」


 「イルヴァス、このお嬢さん…本当に治療師なの?!何処で見つけたの!?」


 治療師のイルヴァスのお義母さまが言うのですから、やはり治療師はこの夢の中の世界では…貴重な存在なのでしょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ