私の婚約者は分身出来るらしい。
注意
作者の初投稿作品です。暖かい目で見ていただけると助かります。
ギャグです。
なんちゃって貴族なので、あまり深く考えずにさらっと読んでくださると嬉しいです。
宜しくお願いします。
「アラン様~。ロゼット様がひどいのです~。」
生徒会室に甘ったるい声が響く。
声の主は、最近何かと注目を集めている男爵令嬢ルワンヌ・ラサイ。
たしか平民出身で、母親が男爵に見初められ後妻に入ったとか。
マナーは一通り学んだと聞いていたが、これはどうだろうか・・・。
一部の令息には素直で可愛いと人気のようだが、私には分からない。
あれか、子供が楽しそうにしている姿が可愛いとかと同じ感覚なのか?
それなら納得できないこともない。可愛いかは分からないが。
「えっと~。聞いています?アラン様~?」
「アランドゥール王太子殿下!!ルワンヌ嬢の話を聞いてください!!」
おっと、あまりにも常識外れ過ぎて、現実逃避していたな。
「何故、部外者のラサイ男爵令嬢が生徒会室にいるのか。何故あれほど私をアランと呼ぶなと言っているのにやめないのか。何故、私の側近候補であるガドーが執務中の私の横にいなかったのか、何故下位の者が上位(しかも王族)の者に断りもなく話しかけるマナー違反な点を側近が咎めないのかと、まあ気になる点は多々あるが、とりあえず聞こうか。何がひどいのかな?」
私の側近候補で宰相の息子であるガドーは一瞬怯んだ様子だったが、
ラサイ男爵令嬢の様子は変わらない。え、まさか私の言葉の意味が分からないのか?ある意味最強だな。
「えっと~、私さっきそこで、ロゼット様に階段から突き落とされたのです!!ガドー様が階段の下にいらっしゃらなかったら私・・・。」
そう言いながら、顔を覆うラサイ男爵令嬢。すかさず肩を寄せて慰めるガドー。
・・・うん泣き真似が上手いな。そしてガドー、お前は何故そこにいた。今日は話し合いがあるから放課後はすぐに生徒会室に来いと告げた筈だが。
「階段から落ちたのか。それは災難だったな。で?何故それが、ロゼが突き落とした事になるのかな?」
「落ちる寸前に私見たのです!!私を押した人が真っ青な長い髪がたなびかせて去っていったのを!!この学園内であんなに冷たい色をした青髪はロゼット様だけです!」
「私もこの目ではっきり見ました!!あれは殿下の婚約者様で間違いありません!あんな高い所からルワンヌを突き落とすとは、なんて非道な事か!!これは一大事です!早急に陛下に報告し、然るべき対応を取るべきです!」
あ、嬢が抜けている。この分だと最近私のそばに居らず、ラサイ男爵令嬢と共に過ごしているという噂は本当のようだな。それよりも今、ふざけた事を言いやがったな・・・
「・・・君たちは本気で言っているのかな?」
「「え?」」
先程までにこやかな対応をしていた私が急に声のトーンを落としたことで、二人は目を丸くした。いや、え?じゃないだろうが。
「だから君たちはロゼが階段からラサイ男爵令嬢を突き落とした犯人であると、本気で言っているのかと聞いている。」
「アラン様、私のことは、ルワンヌとお呼びくださいな。はい!!その通りですわ。本当に怖かったです。」
体を震わせ怯えた様子を見せるも、図々しくも名前を強要する。何故、こんなにも浅ましい女が人気なのか本気で分からない。チラリとガドーを見ると痛々しい表情でラサイ男爵令嬢を慰めていた。・・・感想を述べるのも面倒くさいな。
「さっきと言っていたな。それはどのくらい前の話かな?」
「10分くらい前です!!」
「医務室には行かなかったのか?」
「はい、ガドー様に受け止めて頂いて傷一つありませんでしたから。それよりも、この事実を早くアラン様に伝えなければと思い、生徒会室に来たのですわ!」
「なんて、正義感のある勇敢な女性だ!!」
ちょいちょい話を挟むガドー、五月蠅いな。
こめかみがピクピクし始め、暴言を吐きそうになった時、奥の部屋の扉がカタッと動いた。
ふふ、何が起きているのか分からずビックリしているのかな?
「君たちは、髪の色でロゼだと断言しているようだけど、それだけで果たして十分な証拠と言えるのかな?光の加減で青みがかる髪の生徒もいるだろうし、そもそも押されて振り返って、髪色だけ見えるってどんな状況かな?同じく落ちてくるラサイ男爵令嬢を見上げたガドーが立ち去る人物の髪だけ見えるっていうのも難しくないかな?」
「っでも!でもでも本当なのです。階段から突き落とされたのは初めてですが、それ以外にもずっと前から虐められていて!!」
「殿下!!まさか我々が嘘をついていると疑われているのですか!?私は殿下の側近になる男!嘘は申し上げません!!」
いや~、内容が薄いな。何だよ「ずっと前から」って。具体的な例を挙げて欲しい。そしてガドー。何がまさかだ。逆にどうして信じてもらえると思っているのか聞いてみたい。面倒くさいので聞かないが。
隣の部屋の動きが止まっている。あれ?もしかして不安になってきているのかな?
私がこの二人の話を信じるとか欠片でも思って欲しくないのだが。というか、その犯行そもそも無理だろうに。はあ、面倒だがそろそろこいつらに分からせるか。
「ふ~ん。じゃあ、放課後から今の今まで私とここにいた、そこのロゼは偽物ということかな?」
「「え?」」
その時、奥の部屋の扉が開き、おずおずといった様子で、私の愛しの婚約者ロゼット公爵令嬢が姿を現した。うん。可愛い。
「王太子殿下・・・。お戯れが過ぎますわ。」
ちょっと困り顔で首を傾げるロゼ。100点満点の可愛さだ。
「な、なんでロゼット様がここに・・・。この時間はいつも図書室にいるはずなのに。」
あ、なんか自爆しているな。悔しそうな顔をして呟き、すぐにやばいと顔を元に戻していたが、もちろん許す気などない。因みにガドーはまだ驚いている。何をしているのだか。
「今日は誰かさん達のせいで溜まった執務を終わらせようと助っ人で私が呼んでいてね。へえ、この時間にロゼがいつも図書室に一人で勉強していることも知っているみたいだね。」
にっこりという効果音が聞こえてきそうな程、作り笑顔をラサイ男爵令嬢に向ける。
ガドーは真っ青な顔をしてロゼを見つめていた。おい、それ以上見るな、ロゼが減る。
「え、いや、その、あの、前に図書室で見かけた事があったので・・・。」
急にしどろもどろになるラサイ男爵令嬢。杜撰な計画だな。しかし、冤罪を仕掛けた罪は重いぞ。どうしてくれようか。
「殿下!!ロゼット様は分身が出来、アリバイの為にこちらにいらしたのでは!?」
「ああ!?」
あ、思わず低い声が出た。ロゼがビックリしている。ごめんね、あり得なさすぎて私もビックリしたのだよ。
「ガドー、君は何を言っているのかな?」
「殿下、ロゼット様は二人いらっしゃるのでは!?一人がルワンヌを落とし、もう一人は殿下と一緒にいる。完璧なアリバイが出来ます!!」
うん。意味が分からないな。もう相手しなくて良いかな?
振り返って未だ奥の部屋の扉付近にいるロゼを見る。あれ?俯いて肩を震わせている。
え?泣きそうなの!?
「ほら!!何も言わず震えていらっしゃるのが何よりの証拠です!!」
うわ、マジでこいつ大丈夫か?と思わず言葉が崩れたが、ガドーの隣には私と同じ気持ちでいるのだろう、どん引きしているラサイ男爵令嬢がいた。
とんだ人選ミスだったな。しかし同情する気持ちは欠片もない。それよりもロゼだ。これで泣かせてみろ、私は何をしでかすか分からないぞ。
「ガドー、君には失望したぞ。分身なんて、もっとまともな意見が言えないのか・・・。」
そう言いながら、ロゼに近づいた。肩を寄せて顔を近づけて・・・。
うん、笑いを堪えているロゼも可愛い。涙目、にやにや顔、うん、可愛い。語彙力がなくなる可愛さだ。可愛い。
「お、王太子殿下。わたくしも意見を述べてよろしくて?」
吹き出さないように必死に深呼吸しているロゼ。プライスレス。
「もちろんだとも。どうぞ私のロゼ。」
あ、真っ赤になった。可愛い。
「ガドー様、ラサイ様、先程王太子殿下がおっしゃられたように、わたくしはもう二時間も前から生徒会室におりましたわ。仮に、ぶ、分身出来るとして、階段から落とすという行為を自分だと分かる格好で行う必要がありまして?それこそ変装などをして、わたくしと分からないようにしてから犯行に及び、尚且つその時間は生徒会室にいたというアリバイを作る。それが普通なのでは?」
さすが、私のロゼ、賢い!!分身で吹き出しそうになる姿も可愛い!
ふ、思わず頷いたのを見たぞ、ラサイ男爵令嬢。
「全く、ロゼの言うとおりだな。さて、もう一度聞く。君たちは本気でロゼが階段から突き落としたと主張するのかな?」
「「も、申し訳ございませんでした。」」
途中から諦めたのか、大人しくなったラサイ男爵令嬢だが、本来なら虚偽の申告をなかったことには出来ない。身分もあるが、故意に人に罪を着せようとしたのだ。許される話ではない。しかし生徒会室にはこの4人しかおらず、また被害者のロゼが特に気にしておらず、むしろ許してやって欲しいと聖女のごとく頼んできたので、まあ厳重注意ぐらいで済ましておこう。本当に私のロゼは聖女で女神のようだ。分身発言で脱力した感はあるが。
だが、一人見逃せない男がいる。
「ガドー。君は私の側近候補から外れてもらうよ。」
静かに諭すと、さすがに自分のこれまでの行動がまずかったと自覚出来たのか、項垂れるガドー。いや、最近の行動もそうだが、分身説はちょっと驚く。今後が心配になる話だ。
「はい、承知しました。この度はご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。」
まあ、側近からは外すが、何も領地に引っ込めとまでは言わない。これからに期待をしたい。
「ガドー様。あの一つ気になったのですが、どうして分身など思いついたのですか?」
素朴な疑問だったのか、キョトンとした表情でロゼが聞く。可愛い。
ちょっと興味がある様子のラサイ男爵令嬢。私はどうでもいい。
「あの、私のクラスのツインズ子爵令嬢が、たまに出て行った場所とは違う場所から現れたりされるので、分身または瞬間移動みたいなのが存在するのではと考えまして・・・。」
あんぐりと口を開けるラサイ男爵令嬢。はしたないぞ。
「まぁ。」と口を押さえる私のロゼ。愛している。
そしてこの時、三人の心は一つになった。
「「「ツインズ子爵令嬢は、双子です。」」」