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8. 勇者は死なず、故に不敗

 一斉に向けられたのは、恐怖と奇異が入り混じる視線。

 慣れたものではあったが、サミギナはそれが大好きだった。

 恐れおののくその顔が、彼女に『ああ、私はこいつらよりも上に立ってるんだ』と実感させてくれる。


 「ふふふ…」


 サミギナは口角を上げ、残虐な笑みを浮かべた。

 やはりこの満足感は何ものにも代え難い、素晴らしいものだ。

 

 だが、まだ足りない。 

 コケにされた憎悪は、弄ばれた憤怒は、まだ癒えていない。

 だから―――


 もっと恐怖させてやる。

 もっと絶望させてやる。

 もっと、もっと、もっと…


 「後悔させてやる!私を見下したことをッ!」


 サミギナは飛び上がり、聖剣を振りかざした。

 


 「構えろ!」


 いち早く戦闘体勢を整えたのはディアだった。

 正直状況の整理は全然できていないが、そんなものは必要ない。

 目の前に敵がいるのならば、殺し尽くすのみ。

 ディアは再び魔力を集中させ、狙いを定める。

 

 「無限弾幕乱舞(エンドレスペイン)!」


 数百の魔力弾がサミギナに襲い掛かった。

 不完全詠唱のため威力は落ちるが、それでいい。

 これだけで倒せるなんて最初から思っていない。

 ディアはさらに魔力を編み込み始めた。


 「這い寄る竜牙(ドラゴンチェイサー)!」


 新たに解き放ったのは、対象の敵を追尾する二つの竜である。

 本来ならどちらも最高クラスの魔法であり片方を発動するだけで手一杯になるのだが、あえて不完全詠唱にしてランクを下げることで本来不可能なはずの二重行使をやってのけたのだ。


 「…っ!?」


 驚愕に表情を変えたのはディアだった。

 サミギナは弾幕乱舞も、迫り来る竜の牙も(かわ)そうとせず、真っ正面から受けて立ったのだ。

 凄まじい爆発がその体を燃やし尽くし、消し飛ばす。

 

 ーーー何を考えている?


 確かに弾幕の回避に専念すれば、竜の牙から逃れられない。

 逆もまた然りだ。

 しかし、あえて被弾しながら無理矢理突破するなどできるわけがない。

 ランクを下げたといってもディアの無限大の魔力を持ってすれば相当な威力になる。

 それを知らぬサミギナではあるまい。

 まだ何かある。

 

 『私、最強なんで』

 

 ふと脳裏に浮かんできたのは先刻の台詞と光景だった。

 粉々になって死んだはずなのに、何事もなかったかのように立っていたサミギナ。

 最終的にディアはあれを身代わりアイテムによるものだと結論づけた。

 だが、もしあれが何にも頼っていない、本人の能力なのだとしたら…

 

 

 「何度やっても無駄なんですよッ!」

 

 刹那、爆炎が真っ二つに切り裂かれ、霧散した。

 舞い散る火の粉を振り払いながら、急接近してくる人影。

 サミギナは既に聖剣を大きく振りかぶり、一刀両断の構えに入っていた。

 

 「させん!」


 レオルが咄嗟に割って入り、<地核変動ガイア・ドミネイション>を発動。

 操られた大地がぱきりぱきりと奇妙に(うごめ)き、形を取りはじめる。

 完成したのは土色の肌をした巨人だった。

 それは眼球のない真っ黒な空洞でサミギナを一瞥すると―――

 

 「砕けろ勇者ッ!」


 レオルと同時に、サミギナの脳天に向けて剛腕を振り下ろした。

 その硬度は先に彼女を捕らえていたものの比ではない。

 そして、硬いということは攻撃力も上昇しているということだ。

 どんな武器であろうと巨人に傷をつけるには至らないし、どんな防具であろうとこの一撃を耐えることはできない。

 だと言うのにサミギナは何ら動じず、迫る剛腕に聖剣で応じた。

 

 「邪魔です」

 

 その声は、おそらくレオルには届いていなかっただろう。

 岩石の巨人が破壊された轟音と驚愕で、彼女の頭の中はぐちゃぐちゃだったからだ。

 それだけではない。

 聖剣の一振りは巨人だけでなく、術士のレオルにも到達していたのだ。

 

 「ば…かな…」


 裂かれた体から血が溢れ、地に落ちる。

 レオルはそれを呆然と見つめていた。


 「どいて下さい」


 先ほどのお返しだと言わんばかりに頭上を思い切り殴りつける。

 無防備で喰らったレオルは凄いスピードで大地に激突し、瓦礫の中へ消えた。

 

 そこでサミギナはようやく納得した。

 弱体化しているとはいえ、能力自体は生きているようだと。


 ―――1()()()()()()()()()なら、こんなこと出来なかったでしょうしね。


 そう、これこそが彼女を最強たらしめている力。

 

 <我こそ絶対(エゴイズソウル)

 

 主な効果は二つ。

 一つは、自身にとって不都合な事象を揉み消すこと。

 これによって、サミギナは『私は死んだ』という事実をなかったことにしてしまったのだ。

 

 もう一つは、この力によって不都合な事象を克服した場合、自身の体力を完全回復し、パラメータを上昇させること。

 つまり、サミギナは『死んだら負け』どころか、『死ねば死ぬほど有利になる』のである。

 まさに反則。

 これをそう言わずしてどう表現すればいいのだろう。

 

 確認し終えたところで、サミギナは再びターゲットをディアに定める。

 だがやはり行動を起こすことはできなかった。


 「それ以上はっ!」

 「やらせ、ない」


 左右からベルゼビュートとイルフィードが同時に攻撃し、妨害してきたからだ。


 「へぇ…」


 軽々と回避しながらも、サミギナは内心少し驚いていた。

 わざわざ圧倒的な力を見せつけてやったのに、自分から刃向かってくる意味がわからなかったのだ。

 確かに悪魔は強い闘争本能を持っている。

 しかし、それはここまで絶望的愚行を働かせるほどのものだっただろうか。

 首を傾げて二人の顔色を伺う。

 そして、理解した。


 その目は戦意で満ちていた。

 私達が勇者を止めるのだと。

 私達が王を守るのだと。

 彼女らがサミギナの前に立ち塞がったのは闘争本能によるものではない。

 ディアへの忠誠が故だ。


  ―――気に食わないですね…


 命よりも仲良しごっこを優先するとは。

 全くもって、度し難い。


 「本っ当に邪魔なんですよ血袋共が」


 サミギナはたかるハエを落とすにはあまりにも大きすぎる凶器を振り上げた。

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