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1. 偉大なる勇者

追放される勇者が本当にクズだったら?というお話です。

 ミトス歴1200年。

 人類は悪魔と呼ばれる者達と血で血を洗う争いを続けていた。

 しかし、それも今日で終わる。


 「「おおおおおおっ!」」


 魔界の中心に構えられた城に響き渡る金属音と重なる声。

 発生源は二人の少女だった。

 一方は光の勇者サミギナ・ジェニスヴァイン。

 一方は闇の魔王ディア・クローネ・アルタミーゴ。

 ここで行われているのは人間と悪魔の最大戦力同士の戦い。

 即ち、大将戦である。

 今まさに長きにわたる戦いに終止符が打たれようとしているのだ。 

 

 「終わりだ勇者ぁっ!」


 「死ねェッ!魔王ォ!」


 聖剣が邪悪に審判を下さんと星の如き奔流を纏い、魔剣が希望を喰らい尽くさんと更なる暗黒を放出する。

 

 「混沌への回帰カオスティックヴォイド!」


 「聖なる断頭台(セイクリッドエッジ)!」


 互いが最強の技を振りかざし、ぶつけ合う。

 あまりの威力に余波だけで天が割れ、稲妻がほとばしる。

 当然主戦場が無事なはずもなく、巨大な城が跡形もなく消し飛び、舞い散った欠片さえも燃え尽き消失した。

 直後、キィンという高い音。

 折れた刀身が回転しながら明後日の方へ飛んでいく。

 

 「…余の負けか」


 つばぜり合いの末、敗者となったのはディアだった。

 膝をつき、引き裂かれた腹を押さえ、何度も血反吐を吐く。

 しかし視線は自身を見下ろす勇者から外さない。

 

 「よくやった勇者よ…褒美として世界は人間どもにくれてやる…だがな…ッ」 


 浄化の魔法が毒のように体に行き渡る。

 既に半身を失いながらも、魔王たる少女は叫んだ。


 「余は復活する!他ならぬ勇者の力を持つ者により我が封印は解かれ、世界は再び悪魔で満ちるだろう!」


 言い終えるのとほぼ同時にディアの姿は光の粒となって消えた。

 死んだわけではないが、神の結界に封じ込めたのだ。

 いかに魔王の力が強大といえど数千年は出てこれまい。


 「復活…ですか」


 サミギナは剣を鞘に収め、焼け野原となった城を背にして吐き捨てた。


 「精々吠えてなさい。負け犬風情が」


 ▲    ▼


 翌日、人間界では盛大なパーティーが取りに行われた。

 勿論主役はサミギナである。

 目の前には豪華な食事が並べられ、高価そうな楽器からは美しい音楽が奏でられている。

 出席している面子もそうそうたるもので、各国の大臣や王、さらには神々すらもここに集まっていた。

 皆が人類の勝利を、それ以上に悪魔の消滅を喜んでいるのだ。


 「本当によくやってくれましたね。偉大なる勇者サミギナ」


 そう言って微笑んだのは女神ルシアンだ。

 命を司る神であり、サミギナを勇者に選んだ本人でもある。

 純白のドレスをまとうその姿は魅了の術を使っているのかと疑うほどの美しさだが、サミギナは無表情のまま頭を下げた。


 「そんなことありません。私は成すべきことをしただけですから」


 彼女の言葉に人々が感嘆の声を上げる。

 あれほどの偉業を果たしたのに何と謙虚なのかと心を打たれたのだろう。

 サミギナは早く会話を切り上げたかったので適当に返事をしただけだったが、それが図らずも人々からの印象をよくすることに成功したわけだ。

 ルシアンも同じように感じたらしく、上機嫌な笑みを浮かべている。

 

 「最初は疑問だったけど、今ならはっきり言えます。貴方は素晴らしい人。貴方を選んでよかった」


 「ありがとうございます」 


 女神の心からの賛辞にもサミギナは控え目な返事をする。

 誰も気づいていなかったが、それは明らかに不機嫌なトーンをしていた。

 まあそれはサミギナがここにいる理由を考えれば当然ではある。

 彼女はただ豪華な食事があると言われたからパーティーに参加したのだ。

 別に王様や神様と話したくて来たわけではない。

 というかサミギナはそういった『お偉方』が大嫌いである。

 彼らは自分では何もせず、他人にはあーしろこーしろと抜かす腑抜け揃い。

 一言で言うなら無能の集団だ。

 話していたらこっちまで腐ってしまうではないか。

 そんな彼女の静かな苛立ちが通じたのか、ルシアンはグラスにワインを注いでくれた。


 「すみません、勝手な話ばかりして…今日はお祝いの日。いっぱい食べて楽しんで下さいね」


 それを合図にして、サミギナはようやく豪華な食事にありついた。

 美味しい。

 これだけでも来た甲斐がある。

 

 国王の挨拶も素晴らしいパレードも無視してサミギナはむさぼり食らい続ける。

 失礼千万な行為だったが、誰も咎めることはなかった。

 隣のルシアンもまた、優しく笑って見守っていた。

 

 

 こうして、後に『神話戦争』として記録されることとなる人と悪魔の戦いは人間側の勝利で終わった。

 サミギナ・ジェニスヴァインの名は死してなお英雄として語り継がれ、崇められ続ける。

 誰もがそう思っていた。

 他ならぬサミギナが一番そう思っていたのに。


 

 「…何ですか、コレ?」


 一週間後の朝。

 サミギナはベッドではなく、十字架に鎖でぐるぐる巻きにされた状態で目を覚ました。

 思い切り腕に力を込めてもちぎれない。

 相当頑丈に作られているようだ。

 その上誰かに殴られたのか酷い頭痛と吐き気があった。

 これでは全力を出せない。

 自力での破壊は諦めて助けを求めようと周りを見ると、大勢の人が集まって何かしらわめき散らしている。

 よくわからないが、勇者をこんな格好で放置など決して気分のいいものではない。

 

 ―――見てないで助けてくださいよ!


 彼女がそう言うより先に、目の前に一人の女神が現れた。

 ルシアンだ。

 助けに来てくれたのか。

 そう思っていただけに、彼女の口から紡がれた言葉は衝撃的だった。

 

 「サミギナ…貴方をこの世界から追放します」


 ルシアンは勇者たる少女にただそれだけを告げた。

 


 

 

 


 

 

 




 

 


 

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