箸が転がっても笑える時
ミシェルは立ち上がると当たりを見渡した。
ハッとしたかと思うと歩き出し、道端にしゃがみこんだ。
ぱんっと手を併せたかと思うと、一心不乱に念じ始める。
かと思うと、白く細い手を伸ばし、その先にある木の枝を拾い上げた。
「右側に倒れたらダングラム嬢の所へ、左側に倒れたら応援を呼びに行く!」
そう意気込んで立てた枝の上に乗せた指先に一度だけ軽く力を乗せると離した。
--が枝は右とも左とも言えないど真ん中のミシェルの方へと倒れこんだ。
「・・・・・・・・。」
しばしミシェルの思考を奪う。
実際に発せられる声だけでなく、さっきまで終始ミシェルの中を忙しなく流れていた煩い程の心の声や、自身にまで届くほどのドクドクとする自分の中を巡る生命の音が一瞬にして消えた。
今ミシェルの耳に届くのは、シーンと聞こえそうな程の静けさと、時折吹く風が落ち葉を動かす音だけだった。
「ふ・・・ふふふっ。」
大きな声を出すわけにはいかないが、さっきまでの緊張のせいで他愛もない出来事に笑いが止められなかった。
ともすれば令嬢らしかぬ大声を出して笑いそうになる口を両手で抑えながら笑う。
一旦あふれ出した笑いは意味もなく膨れ上がり、笑いを必死に堪えるミシェルをヒーヒーと苦しめた。
しばらく自身からあふれ出す笑いと戦った後、ふいに思考が戻り始める。
『なんの訓練もしていない私に、どっちが良いかなんて最善の判断できるわけないのよね。答えを知らないもの。これはもう自分の思うとおりにするしかないってことね。』
やっと笑いが落ち着いた頃、ミシェルの考えがまとまった、その時。
「・・・よ。・・に・てる・・・・・。ねぇ・・・・・・・。」
女の声が微かに風に乗って運ばれてきたのであった。
短くてさーせん




