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どうしてこうなった

おひさしぶりです。

やっと時間が出来たので更新しました。

--どうしてこうなったの?






 今ミシェルの頭の中はこの一言に尽きた。


 王都の中の一画であるというのに、貴族街や商業施設が密集する中心地から離れたこの辺りは、ややうら寂しさの漂う市民達の住宅街だった。

さすが王都と言うべきは貧民街とは違い、物乞いや孤児がうろついていることは無い。

どんなに素晴らしい治世を敷いたとしても、一部の貧困層を廃絶することは絶対と言っていい程不可能である。

ここは王都における、そんな層が暮らすエリアだった。


 ミシェルの視線の先にはまだ年若い男が二人、人が一人入るほどの麻袋を抱えて建物に入って行くところだった。

先ほどまでは学園の制服を着ていた男たちは、アーチ形の覆いのついた荷馬車の中で着替えたのだろう、今は町人がよく来ている類の服装に着替えている。


 ふいに男のうちの一人が振り返った。

ミシェルはびくりと身を震わせると路地裏の物陰に隠れながら、息を殺して身を潜める。

男はあたりを2、3度見渡すと扉を閉めながら建物の中へと消えていった。







 思えば今日は朝から大変な一日だった。

昨日学園を休んでクッキーとハンカチを作り、今日はそれらを持って登校してきた。

自業自得な部分もあるとはいえ、休み明けの今日は朝から不躾な視線に晒され続けた。

朝は学園の馬車停に着くとマーガレットが迎えに来ると言うイレギュラーもあって、思いのほか楽しく過ごせたがそこまでだった。


 教室に入ると至近距離からの視線は刺さるようだったし、何かもの言いたげな生徒が数人ミシェルの方に向かおうとしては二の足を踏む、と言うような居心地の悪さに辟易した。

アランに渡すお礼の品を持っては来ていたが、ここまでの衆人環視の中渡せたものではないとミシェルは諦念を抱いた。


 所がマーガレットからお礼の件を聞いていたアナベラ達は昼休み、むしろミシェルより乗り気でアランにどうやってお礼を渡すのかを試行錯誤し始めた。

恋バナに喜々とし始めた乙女たちにミシェルが何を否定しても届かず、どんどんと話は進んで行った。


 結局、同じクラスのアナベラがアランへ伝言を届ける形で、放課後指定の場所に呼び出して渡す手はずとなった。

最初アナベラ達は、どうせ渡すのなら堂々と校門の近くの噴水で渡せばよいと言っていたが、全校生徒に見てくださいと言わんばかりの場所だけは勘弁してほしいと、以前ミシェルの避難場所にしていた寂れた庭園の一画に呼び出してもらうことにした。


 やっと一息つけるとミシェルが顔を上げたところで、少し離れた席の向かい側でグレイグと目が合った。

捨てられた子犬のような目をしたグレイグに、一体何があったのかと驚愕していると、その横に座るカレンが視界に入った。

最初はなんだかニヤニヤとしていたくせに、グレイグや側近の様子を見て不機嫌になると以前のグレイグ並みの鋭さで睨みつけてきた。


 カレンが解せないのはいつもの事ではあるが、この間の今日で清々しいまでの利己主義だと感心さえした。

それにグレイグの鋭い眼光に比べれば、子猫に睨まれたものだと思えた。

ただ、その時のアナベラ達の表情だけは気にかかったものの、アナベラが軽いジョークでも言うようにカレンを謗ったことで空気が和らぎミシェルも自然と他の話題へと移っていった。


 午前中と同じような空気のなか、午後の授業を淡々と終えた後、アランと待ち合わせた庭園へと向かったその途中。

僅かに聞こえた女性の悲鳴に誘われて近づいていったその先で。


 --どんっ。


 既視感のある鈍い音と痛みと共に体が宙に舞った。

あぁ、またかーと思った時には既に遅く、古い倉庫の中に閉じ込められた。

幸い倒れた下にはマットが敷かれていた為、ミシェルに前回の時のようなケガはない。

ただ、ものすごくかび臭くはあったが。


 倉庫の扉は南京錠で閉じられているらしく、押すとほんの少し隙間が空いたが、近くに人の気配はなく助けを呼んでも人に届いている手ごたえもなかった。

倉庫の中には古びた運動用の道具たちが捨て置かれている。

ミシェルはクッキーの入ったバスケットとハンカチの入った箱に問題が無いのを確認してから汚れを払った。


 ひとしきり倉庫を見渡すとミシェルは独り言ちた。


「下の窓は格子があるけど、上の窓にはないのね。」


 それだけ呟くと、ミシェルのあとの行動は早い。

昔取った杵柄とでもいうのだろうか、野生児だったころの経験がの物を言う。


 クッキーに触れないようにハンカチの箱をバスケットの中に放り込み、倉庫のあった細いロープにバスケットの取っ手を括り付けて、そのロープの反対の端を自分の腰に巻き付けて結んだ。

出来るだけ倉庫内の荷物を積み上げて登り、上の窓のすぐ下にある棚板を掴んでよじ登った。


 バスケットの紐を手繰りよせて窓から外に降ろし、自分は窓から飛び降りた。

子供の頃と違い、体重が増えたことで足にかかる負担はミシェルの想像以上であったが、爽快感がミシェルを駆け抜けた。

そのやり切った姿をミシェル自身も誰かに見て欲しいと思えるほどの満足感であったが、実際は制服や身体はホコリで汚れ切っていた。


 仕方なく、やや隠れ気味に待ち合わせ場所へと向かうと、待ち合わせ場所には何故かカレンが佇んでいた。

しかもミシェルに向ける本性むき出しのカレンではなく、グレイグ達といる時のようにかわい子ぶった佇まいで。


 証拠もなしに人を疑ってはいけないとは分かっているものの、いくら遠巻きにされていようとも勢いのある侯爵家の跡取り娘を学園内で無体を働くのは、おそらくカレン位だろうという結論を覆すことはミシェルには出来ない。

人をこんな目に合わせて、いったい一人で何をしているのだと頭を整理していると、カレンの背後から学生服をきた男が二人忍び寄り、持っていたハンカチでカレンの口をふさぎ連れ去ってしまった。


 男たちは、植物の影に隠れた形になっていたミシェルに気づくことはなかった。


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