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幕間 シャーロット&エイドリッヒ

 侯爵家へ向かう馬車には沈黙が重く占めていた。

第二王子の側近としてその賢才を発揮してきたエイデリッヒも、その沈黙を破る術が見つからない。


 そもそもエイドリッヒは目の前にいる自分の婚約者が苦手だった。

異性に対し控えめな貴族令嬢が多いこの時代で、彼の周りにはやや異例な令嬢が多くその筆頭が婚約者であるシャーロットだった。


 幼い頃から宮廷の要人に囲まれて育ったエイドリッヒにとっては、アナベラのように身分が高いが故にその責任から発言が厳しい令嬢はまだ分かりやすかった。

しかしこのシャーロットはそんな令嬢とも違って、何とも掴みどころのない相手だった。

自由奔放なことをしたかと思えば淑女の鑑のように振舞い、無邪気な子供のような笑みを見せたかと思えば妖艶な女性のように艶やかに微笑んだ。


 元々どう扱っていいのか分からない相手であったのに、ここ最近ではカレンの事があって余計に距離が出来てしまった。

しかも自業自得とはいえ、シャーロットが初恋の相手やアランの話をする姿を見てしまった。

正直な所シャーロットの女子会を盗み聞いたら傷つくと知っていたとしても止めることは出来なかったと思うが聞きたくは無い内容だった。


『王弟殿下やアランは、女性とスマートにコミュニケーションをとるタイプだったな。私とは真逆のタイプだ。母上にもお前のやり方は四角四面過ぎると言われた。』


 以前思い悩んでヴィンセントに相談をしたことがあった。

ほぼ恋愛で婚約を果たしたヴィンセントなら、自分たちの乾ききった関係性を解決する糸口が見つけられるかもしれないと思ったからだ。

しかしヴィンセントからはお門違いなアドバイスしか得られなかった。


「は? どうやったら苦手に思わずに接せられるか? ・・・シャーロットはタイプ的にはアレンディスに似てる。お前、アレンディス苦手か? アレンディスにするみたいに接すればいいだろう。」


 そういったヴィンセントがやけに残念なものを見る目で見てきた事を思い出しエイドリッヒは眉を顰めた。


『大体、あの生意気なだけのアレンディスとシャーロットの何処が似てるんだ。あいつの目は節穴か?』


 長い思考から浮上してエイドリッヒは顔を上げると、驚き後ろに仰け反って馬車の壁に頭を打ち付けた。

 

「何のつもりだ!!」


 打ち付けた痛みから涙目になりながらシャーロットを問い詰めるエイドリッヒの顔は赤い。

顔を上げた時、自分の目の前にシャーロットの顔があった事を問い詰めているらしいエイドリッヒにシャーロットは天使のような笑顔を向けると立ち上がって更に近づいた。

屈んだ姿勢のままゆっくりと更に顔を近づけるシャーロットに怯える事しか出来ないエイドリッヒは、これ以上の至近距離に耐えられないと身を固くし、顔を少しだけ背けると目をこれ以上ない程にぎゅっと瞑ったその時。


 エイドリッヒの眉間にコツっと細い何かがぶつかる。

ゆっくりと目を開けたエイドリッヒは、それがシャーロットの指だと知ると耳まで真っ赤になるほど全身を赤らめた。


「だってあなた、ここに酷い皺が寄っているわ。」


 そう言ってエイドリッヒの眉間を指でぐりぐりと解すシャーロットは、やっぱり天使のように美しい笑みを浮かべている。

自分が乙女のような態度を取っていることを自覚したエイドリッヒは、顔を赤らめながらも態勢を立て直そうと必死にいつもの平静さを呼び起こそうとした。


「少し考え事をしていた、問題ない。君も危ないから席に「きゃっ!」」


 地面に埋まっている大きな石でも轢いたのだろう馬車が大きく跳ねた。

態勢を崩したシャーロットは、エイドリッヒの膝の上に乗り上げる形で倒れてしまった。


「・・・ごめんなさい、エイドリッヒ。私ったらあなたを下敷きにしてしまって。怪我はない?」


 乗り上げたままエイドリッヒの耳元から顔を上げながら潤んだ瞳で彼を見つめたシャーロットの髪は少しだけ乱れ、先ほどとは打って変わって妖艶に見えた。

エイドリッヒは思わずゴクリと唾を飲み込むと、シャーロットから視線を逸らすことが出来ずにただ呆然と彼女を見続けた。


「エイドリッヒ・・・?」


 少し顔を傾けながら自分を見つめ返したシャーロットの顔に、エイドリッヒが思わず手を伸ばそうとした時馬車が止まる。


「アンフィー侯爵邸に到着いたしました。」


 馭者の声に肩を跳ねさせたエイドリッヒは、そそくさとシャーロットを立ち上がらせ手を取るとエスコートの姿勢を取って

侯爵邸にシャーロットを送り届けた。

完璧に教え込まれた技術であるため、恐らく不備はないだろうとは思っているがエイドリッヒ自身馬車を降りた後のことはハッキリとは覚えていない。


 馬車に戻ったエイドリッヒは座席に深く腰掛けると、膝の上に肘をつけ頭を抱え込み大きな溜息をつく。


「・・・・・・だから苦手なんだ。」


 彼のつぶやきに答えるものは誰もいない。


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