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沈黙の茶会

 マーガレットがルインドベルグ邸のサロンに着いた頃、既に面子は揃っていた。

否、揃いすぎていた。


 元々は昼食を一緒に取っている仲の良い女子4人でミシェルの情報を共有するのを兼ねてお茶をする予定だった。

ミシェルが想像以上に元気だった事もあり、ついつい愚痴なんかを話し込んで遅くなってしまったが。

それでもいつもなら他の女子メンバーだけで雑談に華を咲かせてくれていたことだろう。


 しかし今のサロンはそれほど賑わってはいなかった。

頭数だけはいつもの面子の倍以上いると言うのに。

サロンには既にいつもの女子メンバーと第二王子にその側近達とフルメンバーが揃っていた。


 本来なら学園に入学した時点で、各々の婚約者達と一緒に昼食をとるなりしていてもおかしくない。

実際、今年入学したマーガレットを除いて、一学年上のアナベラ達は去年まで婚約者達とも定期的に一緒に昼食を取っていたという。

であるなら、そこそこ仲の良い面子であってもおかしくないのに、今サロンに顔を突き合わせている面々にそれほど弾んだ空気はなかった。


 爵位は伯爵家とそれほど高くないマーガレットは、レオニールの婚約者でありアナベラの親友でもあるため、個人的な茶会でグレイグとその側近と接する機会が何度かあった。

個人的な付き合いとまではいかないが、同じ年頃の娘の中ではかなり高位貴族との社交になれていると言えた。

マーガレットは既に冷静さを取り戻しており、状況を確認するため周囲を見渡した。

それがグレイグを始め、何をするでもなく気まずそうに茶を啜っている。


 マーガレットは思う--じゃあ何故きたのかしらと。


 男爵令嬢が婚約者の周りをうろつき始めてから、マクスウェル家でも調べられる限りのことは調べたし、昼食時に各々の婚約者達の話や婚約者の態度から、色々と推測できることも暗に匂わされていることもあった。

マーガレットの勘違いでなければ、恐らくグレイグの思い人はミシェルなのだろうと。


 ミシェルの体や現在の状況をグレイグが気にしているのは分かる。

しかしこんな状況になっているとは知らず、マーガレットは女子トークをメインにミシェルとお茶を楽しんだ。

グレイグの嬉しい話だけでは、もちろんない。

アナベラ達の雰囲気を見る限り、そのことを分かったうえでお灸を据えてやれという事なのだろうが。


 一瞬、どこまで話すべきかと考えてやめる。

学園に入学したころから、親友たちの暗黙の了解がある。

頼りない婚約者より親友を、と。


 ひとまず席をみるとメイドに頼み包みを一つ渡した。

メイドは慣れた手つきで包みの中身を皿へと移し、主たちの前へと差し出した。


「これは?」


 日頃から王子の口に入れるものを管理する立場だからだろう、エイドリッヒが即座に質問する。


「リンベール家から手土産に渡されました。・・・ミシェル様の手作りクッキーです。」


 一瞬グレイグの目が見開き伸ばそうとした手が、アナベラの一言で止める。


「はしたないわよ。」


 ぐっと何かを堪える様に手を止めてアナベラの方を見たグレイグは、アナベラの冷たく細めた瞳をみて気まずそうに視線を戻した。


「ミシェル様の様子はどうだった? クッキーが作れるくらいならそう悪くはなかったと思ってよいのかしら?」


「体は少し痛むみたいだけど、動けないほどではないみたい。大事を取って休んだけど、明日からは学園へ出席されるようよ。」


 心配そうにするアナベラは、マーガレットの答えを聞くと安心したと表情を緩ませた。


「マーガレット、ミシェル様と何話したの?」


「休みの間何をされてたとか、噂の真相についてよ。」


「で、・・・どうだった?」


 飄々としながら不敵な笑みを浮かべ質問をするシャーロットは、しかしこう言った表情が良く似合った。

シャーロットであれば、ただの挨拶であってもこの表情で問題なく過ごせるだろう。


「とっても楽しかったわ。噂については既に知っているとおりだったけど、見た感じフェイズ伯爵令息はミシェル様に興味がおありでしょうし、ミシェル様も全くの脈なしってわけでもないのではないかしら。現にこのクッキーもフェイズ伯爵令息にお礼するために焼いたものだそうよ。」


「えー素敵。今流行ってるのよね、クッキー作り。例の本で庶子の女の子が思い人にクッキー渡すってやつ。」


「そういえば、そんなシーンあったわね。庶子と王子がね。手作りクッキーを照れながら渡す・・・だったかしら。」


「もぐもぐ・・・。このクッキー美味しいですわ。こんなクッキー渡されたらついて行ってしまいますぅ。」


 令嬢達の何度もの当て擦りは、当然グレイグを中心に痛いところを突いている。

親しい者たちだけの席であることもあって、中々に年頃の青年らしく其々口を詰まらせ間誤付いた様子で茶を啜っている。


「ほんとだー。このクッキーほんとに美味しいね。何個でもいけるかも。」


 この空気の中、一人平然とクッキーをつまむのは伯爵令息のアレンディスだった。

パクリパクリとクッキーを美味しそうに摘み、元々それほどの量が無かったクッキーは既にエリザベスとアレンディスの二人で殆ど食べつくされていた。


「おい、なんで全部食べるんだ!」


「えっ? まだあるよって、これが最後だった!? ははっ、ごちそうさまー。」


 エリザベスはともかく態とやっているであろうアレンディスにグレイグが噛みつくも。


「女性の手作りクッキーが欲しければ、自分でもらう事ね。」


 アナベラの一言でまたも撃沈するのであった。

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