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カレンという人②

 怒りに顔をまっかにした母に連れられて、カレンは元いた家に戻った。

元居た家は、もうメイドもおらず、家財道具や調度品など丸ごと消えていた。

その日は仕方なくそのまま寝た。


 翌日連絡を受けた男爵が、怒り心頭で家にやってきた。

もちろん母と激しい口論をした。

口論は長時間続いたが、夜になるころ疲れた顔で母がやってきて言った。

この家は人手に渡ることになったと。

ここより小さい家だが男爵が用意してくれるけど、メイドは雇えないから自分たちの世話は自分たちでするようにと。


 それからカレン母娘は小さな家に移り住んだ。

お姫様ではなく、まるでただの平民だった。

男爵は生活費だけは支援してくれたが、昔よりは母のもとへ通わなくなった。

それでもカレンは可愛い。

平民の生活を続けていても、カレンを可愛いと言ってくれる男の子だけは時折現れた。

だから自分はまだ特別だと思えた。


 そんな生活を何年か続けたある日、一冊の本が世間を賑わせ始めた。

王子様が低位貴族の庶子である平民と恋をし結ばれる話だった。

これこそがカレンのための物語だと思った。

自分の物語はここにあったんだと。


 物語の中で主人公は貴族の学校に入り王子と出会う。

そこで貴族令嬢達にいじめられるけれど、誇りを捨てずに立ち向かう、その姿に王子が惹かれ苦難の末に結ばれ王妃となる。


 これほど自分にふさわしい物語はないと思った。

カレンに都合のいいことに、男爵の妻が儚くなって、カレン母娘が男爵家に入ることになった。

このまま自分は貴族の学校に通う。

王太子は学校にはいないから、王妃にはなれないけど、第二王子とむすばれれば王子妃にはなれる。


 その希望を抱いて学園の入学式に挑んだ。

可愛いカレンは学園でも1番になるに違いないと思った。

入学式で周りを見渡すと思ったより美しい令嬢は多かった。

さすが貴族だと思うが、それでも自分の方が可愛い、とカレンは思った。

実際カレンを意識して見ている令息もかなりいる。


 そんな時、目の前を美しい金色の髪をたなびかせた少女が通った。

カレンの目は一瞬で釘付けになった。

自分より美しく、自分より優雅で、自分より人目を引き付ける少女。

カレンはギリッと奥歯をかみしめた。


 周りの噂話で、リンベール家のミシェルだと知った。

そういえば、何となく顔立ちが自分と似ている。

過去の出来事を思い出して、カレンは筋違いの怒りに燃えた。

あんなに男みたいな令嬢だったくせに。


 ミシェルに決して王子さまは渡さない。

最後にお姫様になるのは自分なのだから。


 だから入学式が終わったあとすぐに王子を見つけ出し接触した。

ミシェルより早く、ミシェルより親しくなるために。

ミシェルが横を通り過ぎる所を見計らって、王子に寄り掛かった。

驚きに目を瞠ったミシェルの顔は見ものだと、カレンは口元を緩めた。


 カレンが思った通り、王子は自分を受け入れて側に置いた。

やっぱり最後は自分が選ばれるんだと確信した。

面白いことに、王子はミシェルを睨みつけて、そのせいでミシェルの周りには誰一人いない。

お腹の底から笑いが漏れた。


 でも心のどこかでカレンも分かっていた。

あの時、王家のお茶会でミシェルに話し掛けたのはグレイグだった。

睨んでいるのはミシェルの事を気にかけている証拠だと。


 もしかしたら、お茶会で騒いだせいで嫌われているのかもしれない。

本来ならカレンが受けなければならない報復であったが、邪魔なミシェルが代わりに受ければいい。

そうやって今までうまくやってきた・・・それなのにまた。



 グレイグは、ミシェルとランチをとった。

こうしてはいられないとカレンもミシェル達の席に行こうとしたが、エイデリッヒとレオニールとアレンディス3人に宥められ、上手いこと別の席に誘導された。

悔しくて、ミシェル達から目が離せなかった。


 グレイグは表情は硬いものの、自分といる時よりずっと熱い目でミシェルを見ている。

自分といる時より口数が少ないけど、それは緊張しているからだと分かる。

グレイグが緊張するほど、ミシェルは特別なのだと。


 むかつく、むかつく、むかつくっ!!


 今度こそ絶対に、自分ががお姫様になる。

だからもっと魅力的にならなくちゃ。

カレンはそう思った。


 侯爵家で見たみたいに、たくさん侍女を雇って。

髪のケアにマッサージ、良いお化粧品をつけて・・・。

もっともっと。



きっとお金がかかる。

だから、お父様に相談しようとカレンは自室を後にした。


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