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変化

お茶会は、あれから程なくして終わり肝心の睨まれている理由は分からなかったが、それでもミシェルはほどほどの手ごたえを感じていた。

なぜなら学園では、一つの変化が起こっていた。





 「このカフェでは、やっぱりミートパスタが絶品ですわ。」


 「あなた先週はドリアが最高だと言っていたわよ。」


 エリザベスの前には、大盛りのパスタが置かれている。

パスタをうっとりした目で見つめ、おいしそうに食べるエリザベスはやっぱりかわいい。

それに突っ込みをいれるアナベラ達も、楽しそうにエリザベスを眺めている。


 午前の授業を粛々とこなしたミシェルがカフェテリアに向かう途中で、アナベラ達のランチに誘われた。

カフェテリアに足を踏み入れた時、周囲の目が一斉にミシェルに向いた。

それはランチが始まった後も変わらず、ひそひそとこちらを見ながら噂を楽しいんでいて、ミシェルの居心地を悪くさせた。


 「あの・・・良かったのですか?・・・私と一緒ではアナベラ様たちも居心地が悪いのでは?」


 「気にしなくて良いわ、婚約者が男爵令嬢を侍らせているから、ミシェル様がいなくてもいつもこんなものよ。」


 第二王子や側近のことはよくは知らないが、これだけの令嬢を不幸にしておいて自分たちは他の令嬢とお楽しみなんてとんでもないなと思った。

自分にはどうすることも出来ないのが悲しかったが、それならそれで頼りない婚約者などほっておいて、女だけで楽しもうではないかとミシェルは意気込む


 「エリザベス様を見ていたら、私もミートパスタが食べたくなってきました。明日は絶対にミートパスタにいたしますわ。」


 「ミシェル様も案外食いしん坊ですのね。」


 この学園にきて初めて楽しいと思える時に心から微笑んでいた。その時だった。


 「ならミシェル嬢は僕のミートパスタと交換しようか。」


 現れたのはアナベラの兄ヴィンセント。

その後ろには気まずげなグレイグが隠れるように立って居るが、背の高く体躯の良いグレイグがヴィンセントに隠れるのは無理がある。

今一番会いたくない人達だったのに、なぜいつもタイミング悪く現れるのだとミシェルは思う。

もちろん顔には出さずに。

ミシェルの気も知らずに、ヴィンセントは当たり前のように隣に座った。


 「はい、どうぞ。」


 「・・・ありがとうございます。」


 ヴィンセントはにっこり笑いながら、勝手にミシェルのサンドイッチとパスタを交換してしまった。

こうなっては言いたくなくてもお礼を言うほかない。

それになにより、目の前にはグレイグが座っている。

生きた心地がしない。


 ちらりと令嬢達の方を見れば、アナベラが呆れた顔をしていただけで、他の令嬢は何事もないように食事をとっている。


 『さすが高位貴族の令嬢の集まりだわ。 親族であるアナベラ様以外は、なんの感情も分からないっ。』


 家でかなり厳しい教育を受けた覚えのあるミシェルも、すでに社交場に行き慣れている高位貴族の令嬢の技術に目を瞠るほかない。

しかも、今はそんなことに気をとられている場合でもなく、この状況を何とかしなければならない。


 そろりと目の前のグレイグに目をやって、やはり見るべきではなかったと公開をにじませる。


 『こわっ。・・・怖すぎるわ。 この距離で、ものすごい睨んでる。』


 冷や汗をかきながら黙り込むミシェルに、苦笑いを浮かべたヴィンセントが助け舟を出した。


 「ごめんね、ミシェル嬢。 こいつも別に睨んでいるわけではないんだよ。 ただちょっと緊張してるっていうか・・・。」


 この言葉には、周辺でランチをとっていた貴族たちが騒めいた。

当然、グレイグたちがアナベラのランチに割って入ったことで、カフェテリアにいる人間たちの意識は完全にこちらを向いている。

意外な情報に、本当なのかとみな口々にささやきあっていた。


 「ほら、お前もなんとか言えよ。」


 そう言いながらヴィンセントはグレイグに視線を向ける。


 「勘違いをさせてすまない。・・・やる。」


 「・・・いやペットじゃないんだから。」


 おもむろに自分のステーキを二切れ程ミシェルのランチの皿に移したグレイグに、すかさずヴィンセントが突っ込んだ。


 小食ではないが、大食いでもないミシェルは、この状況のなかでそんなに食べきれるのかと思案気にお礼を言った。


 「・・・ありがとうございます?」


 今までより若干視線の和らいだグレイグに、ミシェルはほんの少し安心するも、これで睨んでないのかと心の内では驚くほかない。

この時、粗相のないよう気を付けながら、食事を食べきる事だけに集中しようとするミシェルには、憎しみを向けながら自分を見る眼差しに気付くことはなかった。

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