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一体何が

 時を同じくしてリンベール家ではリンベール夫妻たちがミシェルに関する報告を侍従から受けていた。


 「ミシェルが第二王子に嫌われている?いったいなぜだ!」


 「嫌われているかはハッキリしません。ですが学園に通う学生たちからは、なぜかミシェル様を睨みつける第二王子が頻繁に目撃されています。理由は誰に聞いても分からないようです。」


 自身の自慢の娘を虐げていると聞いては、普段穏やかなリンベール侯爵も心穏やかではいられない。

事と次第によっては、たとえ王族であっても許さないとばかりに声を荒げた。


 「王族から睨まれているとあって、ミシェル様に近づきたくても誰も近づく事が出来ず、孤立していらっしゃるとか。」


 「ミシェルは人から睨みつけられるような失態を犯す子ではないわ。」


 狼狽えながら、侯爵夫人は訳が分からないと訴えた。


 「天使のようなお嬢様が何故そんな目に合わなければならないんです。」


 憤り興奮しているメアリーは、真っ赤な顔をして握ったこぶしを体の前でブンブン振り下ろしている。

いつもは夫妻の執務室で勝手な発言をすることはないが、今回ばかりはミシェルを助けるチームとして発言を許されている。


 「本当に。 あなたたちのような人間がミシェルの周りにいることがせめてもの救いだわ。」


 「っ・・・。」


 カトリアーナの言葉にメアリーは言葉を詰まらせた。


 「急かして申し訳ないですがメアリー、カナリヤ嬢からは何かございましたか?」


 「はい、茶会の後すぐに早馬で手紙をいただきました。」


 少し時間を置き頃合いを見計らったところで、デイビスはメアリーに話しかけた。

言葉を詰まらせていたメアリーも、幾分か落ち着きを取り戻し、事情を説明しようと気持ちを切り替えた。


 「お茶会の主催者はご存じの通り、第二王子の婚約者に内定されているアナベラ様でございます。 概ねは何の変哲もないお茶会だったそうでございます。ただ・・・。」


 「なんだ、言ってみろ。」


 「カナリヤの言うところでは、取り留めない会話の中に、どことなくミシェルお嬢様を試していらっしゃるような、そんな雰囲気を感じ取ったと。 それに近頃第二王子が男爵家の令嬢と懇意にされているようなのですが、その令嬢のお顔立ちがミシェル様に似ているとのことです。 アナベラ嬢たちは冗談交じりに、第二王子と懇意だったのがミシェル様ならよかったのにと申されていたとか。」


 「ミシェルが王子に睨まれているのは、学園中の生徒が知っているのにおかしな話だな。」


 メアリーはうんうんと首を縦に振った。


カナリヤはメアリーのはとこにあたる。

お茶会の招待状が届いたとき、メアリーは嬉しくなってミシェルにあれこれ言ってしまったが、ミシェルの反応は思わしくなかった。

と言っても、メアリーやリンベール夫妻以外の人間がみても分からない程度の反応であったが。

そのためメアリーはリンベール夫妻に許可をとって、カナリヤにお茶会に潜入してほしいと頼み今に至る。

 

 「あと、ミシェルお嬢様が今までお茶会に出たことがないと知った皆様の反応が、やけにおおげさだったとも言っていました。」


 「確かに侯爵家の令嬢では珍しいが、それほど驚く事ではないはずだが・・・。ふむ。」


 顎に手を置き考え込むウィリアムに、デイビスはさらに報告を進める。


 「それから先ほど、マダム・カロリーナから連絡がありました。 王宮の使いが8年前のお茶会の際のミシェル様のドレスについて聞いてきたと。 公開されて問題ないと指定してある情報のみ開示して、あとは情報の公開を断ったそうですが。」


 マダムカロリーナは人気のテイラーの女主人であるが、もともとはリンベール家の商会で働いており、資金と実力を貯めたところで自分のテイラーを開いた女傑でもあった。

現在も商会のテイラーとは別に、リンベール家が使用している唯一のテイラーでもある。


 「なぜ今頃・・・。引っかかる、至急王宮の手のものが何を探っているのか調べろ。 念のため第二王子と懇意にしている令嬢と男爵家についてもだ。」


 ウィリアムの言葉に、神妙な顔つきで頷くと侍従は調査に取り掛かるため執務室から下がった。


 「でも学園の方は調べてももうお手上げね、あとは本人に直接訊ねるしかないけど・・・。何も分からないでは、王族に接触するのはリスクが高いですわね。」


 「あぁ、あとはドレスの方の情報から何か掴むのを待つしかないな。やみくもにたたいては要らない藪をつつくことになるかもしれん。」


 状況はあまり思わしくないと夫妻の状態から読み取ったメアリーは少しでもミシェルのためにと考えた。


 「私、今日はお嬢様の好きなフルーツ入りのお茶とオレンジピールのチョコレートをご用意してお待ちいたします。」


 娘のために好きなおやつを用意しようと、可愛らしく意気込む侍女に夫妻は頬を緩めた。

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