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男たちのお茶会②

自分の婚約者達の初恋の君を聞かされて落ち込んでいた者たちも、初恋は叶うことなく淡い思い出で消えたことを知ると幾分かは持ち直した。

少女たちの話は今、アナベラの婚約者の話となっていた。


 --「そうよ。第二王子のグレイグ殿下。でもまだ正式な婚約ではないの。だからどうなるのかは分からないわ。」


 --「あの方は文武両道の優秀な方だけど、少し夢見がちでね。昔からお姫様を待っているの。それを心配した陛下が保険として仮婚約をお決めになったけど、学園を卒業するまでにグレイグ様のお姫様が無事現れればお役御免のはずよ。それにもう現れているかも。」


 --「でもそれでは、アナベラ様の婚約者がいなくなってしまいます。」


 --「アナベラは少しいらない苦労を背負いすぎではないかしら。婚約者は好き勝手に遊んでいるのだもの。あなたばかりが我慢する必要はないと思うけど。」


 --「それは私も感じました。殿下にその気はなくてもあんなに毎日お側に置いてはいらぬ誤解を生みます。」


 --「たしかに・・・ねぇ。私も毎日のようにご令嬢方から注意するようにお願いを受けて・・・。困ってしまいますのよね。お側に侍らせるにしても、もう少し弁えた方なら良いものを。」


 この話には一同、はあっとため息を吐く。

グレイグの事情のせいで、数人の令嬢を巻き込んでしまっていた。

自ら飛び込んできたものもいたが、アナベラについては貴重な少女の時間を犠牲にさせている。




 現王には二人の妻がいる。

一人はグレイグの母である正妃のマリアンヌ。

もう一人は王太子の母である側妃カルセア。


 子供の頃からの婚約者である王と正妃は仲睦まじく、本来は側妃を必要とはしていなかった。

しかし、結婚後3年たってもこの出来なかった正妃に代わり、側妃がたてられた。


 王は事前に夫婦としての愛情は授けられない代わりに、子供は大事に跡取りとして育てることと望む褒美を約束した。

側妃カルセアは非常によくできた女性で、臣下として子を産む役目以外には王に何も求めなかった。


 王と王妃、そして側妃は家族として順調に関係を築いていった。

そんな関係に水を差すものが現れたのは、側妃が子を産んだ1年後、正妃が子を孕んだと分かってからだった。

3人とその子供たちは家族として穏やかに助け合い生きてきたが、妻たちの実家はそうではなかった。

自分の孫こそ王太子にと、陰に日向に争い始めた。

王太子は優秀だったが、グレイグも負けず劣らず優秀であったため、兄の立太子の後も政権争いがやまなかった。


 その時、カレン・ダングラムという少女が現れた。

最初はどうとも思っていなかったが、カレンがグレイグにまとわりつき始めてから、グレイグに初めての醜聞がたった。


カレンを密かに始末しようという強硬派は、表ざたにすることなく罰することができたし、第二王子陣営の大元はグレイグの祖父であるので、事を大きくすることはなかった。

これによりにわかに、グレイグ陣営が弱体化し始めた。

元々、兄の立太子を終えた後でもあったため、ささやかな醜聞が勢いを削いだ。


 だからこそ、カレンが自分たちの周りをうろつくことを許したし、貴族として少々問題発言をすることもあえて放っておいた。

肯定や賛同はしないが、周りからの非難の声からは助けた。

グレイグから思わせぶりな態度をとることはなかったが拒絶もしないため、グレイグの卒業後は誰かふさわしい貴族との縁談も用意する気でいた。


 カレンが頑張った所で、男爵家の令嬢が王族の正妃や側妃になることは出来ない。

もし無理をしてその地位についたところで、社交や外交で潰されて使い物にならないお飾り位にしかならないだろう。

社交や外交の場でグレイグ頼りの振舞しかできないのなら、正妃や側妃にする意味はない。

でも、こういった貴族の令嬢なら当然分かっていることをカレンは知らなかった。


 カレンは王族の妾狙いで、ほどほどに弁えた態度で取り入ってくるのではなく、堂々とグレイグの1番であるという態度をとった。

これがグレイグや側近たちの誤算だった。


 アナベラはグレイグにとっても大切な従妹であるし、自分のために防波堤となって仮の婚約者を務めてくれる恩人でもある。

アナベラにこれ以上の負担はかけたくなかったが、カレンの暴走でいらぬとばっちりを受けさせた。

ミシェルにまで恋仲だと思われているのも痛かった。


 これらの事情を知っていたにも関わらず、後手に回ってしまった側近達も同じ思いだった。

そんな思いで沈んでいると、茶会の席では最も核心に触れた話が始まった。


 --「彼はこの国の第二王子よ。もっと仲良くしてみたいと思わないの?そう思っている令嬢はたくさんいるのよ。」


 --「いえ、そんな・・・恐れ多くて考えたこともありませんでした。」


 色よい返事とは言い難かったが、否定されていないことにグレイグは安堵する。


 --「でもミシェル様って彼女に似てるよね。髪と目の色は少し違うけど。」


 この言葉に一同は頷く。


 「ほんとぱっと見、ミシェル嬢とカレン嬢はよく似ているよな。」


 「ああ、じっくり見れば見るほど、別人だと分かるがな。」


 ふと笑いが漏れる。

こういう所がカレンの良いところだと、皆思った。

なんだかんだで、嫌いにはなり切れない。

だからと言って、恋情が生まれるかはまた別の話であるが。


 --「あなたが彼女だったらねぇ・・・皆もあんなには感情的にはならなかったかもしれないわね。むしろおとぎ話の再現として応援されたかもしれない。」


 --「えっ!!そんなわけありません。第一私は殿下によく思われていませんし。それに仮でも婚約者のいる方との不貞なんてありえませんし、そんな男性はお断りです。」


 「日頃の行いですね。」


 「あちゃ~こてんぱんだねぇ。」


 「・・・だそうだ、諦めたらどうだ。」


 「潔く、身を引くことも大事ですよ。」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 心を抉られすぎたグレイグは、すでに虚ろな目をして宙を見ている。

しかし、次の話ではっと意識を取り戻す。


 --「私、幼い頃とてもやんちゃでしたの。よく領民の子供たちと駆け回っていました。信じられないほど日に焼けたり、擦り傷を作ったりして、お母様に叱られました。淑女教育を完璧に身に着けるまでは社交はさせないって。もしあの頃、社交を始めていたら、今頃くろこげ令嬢として有名だったかもしれません。」


 「黒焦げ令嬢・・・?茶会に参加していない・・・?いったいどういう・・・。」


 グレイグは驚きに目を大きく開くと周りを見渡す。

他の面々も驚き、意味が分からないと各々首を振っている。


 最後の最後に大きな爆弾を放り込んで、第二王子一行のデバガメは終了した。


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