お茶会の真相
時はカフェテリアでミシェルがグレイグに睨まれた時にさかのぼる。
「はぁー。何をやっているのかしら、あの男は。」
少し離れた席で一件を見ていたアナベラは、あきれ果てた顔で溜息をついた。
その後、学園の授業を終えて帰った邸で、双子の兄にサロンに呼び出された。
「めんどくさいことになった。力を借りたい。」
「お断りします。」
巻き込まれてはたまらないと即座に断りを入れて席を立とうとするも。
「いやっ・・・待て!!おまえにも利にある話だ。このままではお前だって困るだろう!」
縋るヴィンセントを冷たい目で見据えた。
困ったことになるまで何もしなかった・・・むしろより複雑になるまで放っておいてよく言うと。
日頃、弱音も吐かず、自分の義務を真面目にこなす従兄弟の第二王子に彼ら--側近たちは甘い。
出来る限り、心穏やかに過ごせるようにとの気遣いが、完全に裏目に出始めた。
兄の言う通りこのままでは、いずれ巻き込まれる。
それにいい加減、自分だって解放されたい。
「で、何をしろと?」
「件の令嬢に近づいてほしい。あの時のこともある、どんな令嬢か見極めてほしい。あとできれば、あいつのことをどう思っているのかも。」
いや、ほぼほぼ人任せではないかと細めた瞳の冷たさが増す。
「ご自分で何とかなさろうとは思わないの? ずいぶんと情けない。 いくら調べても何も出来ないんじゃ意味なんてないのでは。」
「わかっている。 あいつは恋愛の方となるとポンコツになる。 でも彼女に問題が無ければあとはこちらで、なんとかする。」
武にも優れた従兄弟は、よく鍛えられた立派な体躯に成長し、甘いだけではなく厳しさも感じる美男となったが、繊細な所があることも知っている。
同い年であっても、弟のように思ってきた。
ふぅーっと息を吐いて腹をくくる。
『ほんとしょうがないわね。それに私のためにも、ここで舵を切る必要があるわ。』
「お茶会を開きます。楽しいお茶会になる事を祈りますわ。」
こうして件の令嬢、ミシェルは茶会に招待されることになったのである。
茶会には兄ヴィンセントの婚約者になるエリザベス、自分の親友であり宰相の次男の婚約者でもあるシャーロット。
騎士団長嫡男の婚約者のマーガレットを招待することにした。
第二王子の婚約が発表されていないので、側近達も気を使い婚約者を公にしてはいないが、皆事情をよく知っている。
エリザベスが親類の子爵令嬢も一緒にと願い出てきたが、こういったことはよくあることだし、一人くらい事情を知らない人間がいたほうがかえってやりやすいかもしれないと承諾した。
事前に役割分担をして、主にミシェルの能力を試すのは上位貴族であるアナベラ、世間話のふりをして彼女の恋愛関係を探るのは、ひょうひょうとした性格のシャーロット。エリザベスとマーガレットはそれぞれの会話をより聞き出しやすい状況に持っていくサポート役。
性格については全体の会話をみて、みんなで判断することにした。
茶会に来たミシェルはとても美しかった。
立ち姿をみただけで、侯爵家で受けた礼儀作法の質の高さがうかがい知れる。
思えば、第二王子に不当な扱いを受けていた時も、見事な振舞いで周りを感心させていた。
グレイグの事を抜きにしても彼女をチラチラと意識している人間は多い。
本人はそれどころではなく気づいていなかったが。
もしグレイグがミシェルを睨んだりしていなければ、今頃彼女の周りには人がごった返していただろう。
主賓であるアナベラの好む隣国の最高級シルク、それに水色のドレス。
それとは被っていないラベンダー色で、自国産だと分かる風合いのシルクのドレスを着ている。
形は流行りではないものの流行の移り変わりを考えれば次に流行りが来る可能性の高いマーメイド。
それも従来のものより変わった形をしているし、品よくまとめられている。
派手過ぎず、地味過ぎない。
今日見ただけでは計算か偶然かは分からないが、さすが社交界の華である侯爵夫人の娘だと思う。
茶会の参加者の事も良く調べている。人を楽しませる話し方や、純粋に自身が楽しんでいる姿にも好感が持てた。
でも、それ以上のことが知りたい。
--「ふふっ、意外だったかしら。」
わざと、エリザベスの事を悪く思っているのではと疑っているととれる質問をする。
ミシェルの風貌は可憐で、虫も殺せないような繊細さが感じられる。
どのような返答をするのか楽しみだった。
--「寄り添うお二人を想像すると、とてもお似合いだと思いました。それに私は一人っ子です。お兄様がいらっしゃって、その上こんなにお優しいお義姉さまができるアナベラ様が羨ましいです。でも私の対応が未熟でしたのでしょう?アナベラ様に何かご不快に思われる対応をしてしまいましたようで。」
否定語こそ使っていないが、明らかな意趣返しを狙っている。
自分は思っていないが、アナベラこそ何かおもっているのでは?と。
--「ミシェル様は思っていたよりずっと面白い方なのね。」
気づくとそう答えていた。
ただ美しい令嬢なら興味はない。
でも思っていたより、ずっと気が強く賢い。
従兄弟殿下がどうこうではなく純粋にアナベラの興味を引いた。
『彼女があの時の令嬢だなんて嘘みたい。私のお友達になっていただきたいくらいだわ。』
そこからはアナベラもできる限り腹を割って話をした。
少女らしい恋愛トークも相まって、ミシェルの色々な一面も垣間見れた。
王子妃となるにはまだまだ作法の甘い部分もあるが、これほどであるなら後は何とでもなる。
個人的な付き合いであるなら、これくらい感情が見えたほうがむしろ可愛いともいえる位だ。
そう思った。
茶会の最後の方では、かなり気になる事を言っていたが、あとの事は彼らに任せればよい。
そう思いながら、アナベラはミシェルとどうやって友達になろうかと考えていた。




