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 妖魔との戦いから一ヵ月。

オレは、ユリスカリア家の本宅で静養をしていた。

最寄りの街の兵舎で一週間程治療を受け、その後に場所を移されたからだ。


 イースクラは、兵が村に着いた後に火竜が連れ去った。

恐らくは、公爵家に帰ったのだろう。


 兵が来るまでその場に居たのは、誰が関与していたのかを明らかにする為だった。

火竜を見た兵は、この場に居たのがナハルシュタッド家の令嬢であると理解する事が出来るし、事情を聞く相手が誰なのか分かっていれば困る事も無い。


 一見すると政事に関わる気もなさそうな竜が、そのような配慮をするのは意外に思えたが、竜には竜の考えがあるのだろう。


 オレの素性も、既に知れ渡っている。

オスクリタにまで伝わっているのかは分からないが、オレをユリスカリア家の本宅に移せと指示を出したのはアッシュであると聞いた。


 当主であるユリスカリア卿は国の執政に携わっているらしく、本宅にはいなかった。

公都に居を構えて、基本的には奥方と共にそこで過ごしているとの事だ。



 ベッドに寝ているだけなのも暇なので、使用人達とはよく話した。そのお陰で、ユリスカリア家の事情にはそれなりに詳しくなった。

アッシュとは未だに会う事が出来ていない。丁度何かの任務と被ってしまったらしく、それが終わるまでは大人しくしていろとのお達しだ。


 怪我は、ほぼ完治していた。

兵に保護された時点で、既に傷は塞がっていたので大怪我を負ったとは思われていない。

とは言え、かすり傷と言う程でも無かった。思えば、アルフレドの身体には大分傷痕を残してしまったな。


 ……まぁいいか、戦いで負った傷は男の勲章だろ。



「よう」


 伺いの声掛けも無く扉が開くと、アッシュが部屋に入ってきた。

任務が終わったのだろう、前に会った時と比べて少し顔がやつれているような気がする。

横たわっているままでは礼を欠くので、ベッドから降りようと身体を動かす。



「いや、そのままで構わねぇよ。元気にしてたか? 遅くなってすまねぇな」


 そう言いながら、部屋に置かれている椅子に乱暴に腰かけた。

少しの間を置き、慌てた様子の使用人がティーセットを乗せたワゴンを押して部屋に来る。

振り切って来たのだろう、準備をしながら小言を漏らす使用人を適当にあしらっているアッシュの姿を見ると、この屋敷ではそれが日常なのだと思える。


 ベッドの上で、姿勢を正してアッシュと相対する。



「この度は格別のご高配を賜り、感謝の言葉もありません。ご迷惑をお掛け致しました」


「いいって、怪我の具合はどうなんだ?」


「お陰様で、快調に向かっております。先のご忠告を生かせなかった事を恥じ入るばかりです」


「事情は聞いてる。領民を守ろうとしてくれたんだろ? ありがとな」


「手に余る行いでした。後悔はしておりませんが、反省はするべきだと存じております」


「堅っ苦しいのは無しにしようぜ、それで……まぁ、聞きてぇ事があるんだが」


「はい。僕に分かる事でしたら、なんなりと」


「その前に、こっちの話をしておく。まず、お前の事は隊長にはまだ話してねぇ」


「……そうなのですか?」


「まぁ、理由は色々とあるが……任務の途中で余計な気苦労を掛ける事が憚られたってのが大きな理由の一つだな」


「……それは、そうかも知れませんが」


 理由としては弱いような気がする。

もしそうだとしても、任務が終わった後には伝えるべきだろう。



「そんな顔すんなよ、お前達に気を使ったって意味もあるんだぜ?」


「どういう意味でしょうか?」


「お忍びで旅をしてたんだろ? 流石に、今回の事が知られたら旅どころじゃねぇと思ってな……一応、関わった奴には口止めをしておいたが」


「お気遣いは感謝いたしますが……問題になるのでは?」


「おいおい、イースクラと二人で旅してたって事の方が問題になるんだぜ? ナハルシュタッド公爵家の娘とクランクライン家の嫡男が親密な仲になったなんて噂が立ったら……最悪国が割れる」


「……国が?」


「ガキ共にとっちゃ、一時の思い出話程度の認識なんだろうが……大人はそう思わねぇよ」


「………………。」


「ったく……結ばれねぇ恋に身を焦がすのもいいが、バレたら一大事になる程度の認識は持っておけ」


「恋って! 誤解ですよ!」


「あん? 違げぇのか?」


「当たり前でしょ!? イースクラとそんな関係じゃない事は断言させて頂きたい!」


「……いや、どう考えてもそうだろ」


「違っ! ……はぁ、そう捉えられていたとは思いませんでした……」


「なんにせよ、身の潔白を証明する術がねぇ場所で、長期間一緒に過ごして何もありませんでした。は通用しねぇ、分かったな?」


「……はい、浅はかでした」


「特に、お前の場合は事情が事情だ。責任取ってナハルシュタッド家に婿入れしたら今度はクランクライン家の先行きが無くなる。気ぃ付けろ」


 アッシュの言葉に、うなだれるしか無かった。

そう言えば、オレも初めはウィルヘルムとイースクラが婚約者なんだろうと邪推していたな……。



 イースクラを始め、竜の寵愛を受けた者との婚約をするには果てしなく高い壁がそびえていると聞いたが、かと言って貞操を守らなくていい訳じゃない。

お手付きされたと思われれば、それこそ婚姻の道は絶たれるだろうし、公爵もいい顔をする筈がない。


 アルフレドもアルフレドで、公爵家令嬢の意中の相手と思われれば他の者にとって近寄りがたい存在になるだろう。

クランクライン家の家名の高さを考慮すれば、相手に困るような事態にはならないと思うが……あまりにも迂闊過ぎる。



 貴族とはままならないモノだ……オレの庶民的思考がどうにも不穏の種を蒔いているような気がして気持ちが沈む。

注意深く動いたつもりでも、次々に問題を起こしている現状に頭を抱えた。



「己の行いに、ただ恥じ入るばかりです。教えて頂きありがとうございました」


「……おう、なんかスゲー落ち込んでるが……説教するつもりじゃなかったんだけどなぁ」


「申し訳ありません、言われるまでその事に考えが及ばなかった自分の愚かさに嫌気が差してしまいまして」


「まぁ、分かったならそれで構わねぇが……話が逸れたな、本題に移るわ」


「本題、ですか?」


「ローランド領にある村の一つが、妖魔の手によって壊滅した。他領の村でも同じ様な被害が出てるが……一番被害がデカかったのはそこだ」


「――――なっ!?」


「妖魔が死んだ後、妖魔の死体は人の死体に変わった。それが、前に話した行方不明になった奴らだったって事は確認が取れてる」


 怒気が、アッシュの身体から滲み出ていた。

部屋の空気は張り詰め、使用人が唾を飲み込む音すら聞こえた気がする。



「死者が出なかったのはウレル村、つまりはお前とイースクラが偶然居合わせた村だが……あそこだけ死体が消し炭になってて確認が取れてねぇ。だが、そういう事だろう」


「アッシュ卿……」


「聞きてぇのは、妖魔が現れた時に不審な奴が近くに居なかったかって事だ。何か見てねぇか?」


「そのような者を見かけてはおりません。村人全員の顔を把握している訳ではないので、確かな事は言えませんが……妖魔は突然湧いたように感じました」


「……そうか」


 アッシュが発していた怒気は、徐々に霧散していった。

何か手掛かりが掴めるかもしれないという当てが外れて、落胆した様に見える。



「犯人について、何か心当たりがあるのですか?」


「いや…………」


 心当たりは、あるのだろう。

でなければ、初めから不審な者を見なかったかと聞く筈がない。

言い淀むという事は、言えない事情があるか、憶測の域を出ていないからか。



「……関係ねぇとは……言えねぇんだよな」


「席を外した方がよろしいでしょうか?」


 声を上げたのは、使用人だった。

いや、というか最初から聞かれたら不味い話ばかりだった様な気がするが……大丈夫なのだろうか?



「外さなくていい、それにお前も気にすんな。コイツは余所に漏らしたりはしねぇよ」


 オレの視線から察したのか、アッシュに釘を刺されてしまう。



「言いにくい事でしたら無理には……力になれるとは思えませんし」


「公にはなってねぇんだが、どうにも最近北の方がキナ臭くてな」


「北が?」


 北と言うのは、ナハル公国の中でではなく大陸の北部に位置する公国の事だろう。

確か名前は……スヴェル公国だったか。



「聖地を挟んで対極に位置してるせいで情報が入って来てねぇだけかもしれねぇが、闇のマナを信奉する邪教が生まれたそうだ」


「闇のマナを……」


「そいつらが、南まで流れて来てるんじゃねぇかと踏んでるんだが……何一つ手掛かりが掴めねぇ、もしかしたらと思ってな」


「行方不明者も、その邪教の仕業だと?」


「確証はねぇ。実在するのかも分かってねぇくらいだ。ただ、そういう奴らが潜んでいるかもしれねぇって事だけは頭に置いといてくれ」


「……分かりました」


「それで、アルフレドはこれからどうするんだ?」


「一度、屋敷に戻ろうと思います」


「へぇ、旅はもういいのか?」


「情勢が慌ただしくなるのであれば、悠長にしている訳にもいきませんし……少し、無理をし過ぎました」


 そう言って、傷痕が残る腕を差し出す。

欲を言えば、聖地には行きたい。しかし、その邪教とやらを始めとした一連の騒ぎの中、一人旅をする訳にはいかない。

火竜が言うには、いずれ光竜に会えるらしい。それが何時になるのかは分からないが、光竜を探す目的は既に果たしたとも言える。


 問題はオスクリタとの関係だが、元々あまり屋敷には帰って来ないというのもあるし、試してみたい事も出来た。



「屋敷に戻って、どうするんだ?」


「学院に戻ろうと思います。いい加減、遊んでばかりはいられませんから」


 アルフレドに身体を返す方法。それは今でも掴めていないが、アルフレドの声が聞こえる条件は何となく分かった。

アルフレドの心を揺さぶる人や場所に出くわした時、アイツの声は聞こえる。

心的外傷(トラウマ)の発端となった学院に行けば、何か進展があるかもしれない。



「とやかく言うつもりはねぇが、無理はすんなよ」


「はい、ありがとうございます」



コンコン



 扉を叩く音が聞こえ、アッシュが入室を促す。



「失礼致します。アッシュ様、イースクラ様がお見えになられましたが……如何なさいますか?」


 アッシュが何とも言えない表情でオレを見る。

否定の意味を込めて、首を横に振った。

次回更新は未定です。

二章ももうすぐ終わりそうですね。

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