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「……アルフレド?」


「やあ、イースクラ。久しぶりだね」


 火竜に乗って来た(・・・・・)少女に、そう挨拶をする。

勿論、目の前に居る少女がどのような人物なのか微塵も分からない。名前は先程使用人がそう呼んでいたのを覚えていただけだ。



「イースクラ、よく来てくれた。歓迎するよ」


「ごきげんよう、ウィルヘルム。どうしてここにアルフレドが居るのか、聞いてもいいかしら?」


「浮浪者同然の姿で街をうろついていたから、保護してやっただけだ」


「保護じゃなくて拉致だろ。それに、もう少し言い方って物を考えてくれよ」


「事実には変わりないだろう?」


 変わりあるわ!



「ふぅん、その様子だと元気にしてたみたいね」


「まぁね。ところで君はどうして此処に?」


「学院が休みだとは言え呑気に過ごしてる訳にもいかないからな。鍛錬をしようと言う話になった。イースクラには移動の制限がないから此方まで来てもらったんだ」


 そう言って火竜の方を見る。

国の資産である飛竜を私的に利用する事は出来ないが、加護を受けている竜ならば話は別と言う訳か。尤も、竜がそれに応じてくれればの話ではあるが。



「手続きはしないといけないから、自由と言う訳ではないけどね」


「余程の事でも無ければ申請は受理されるのだろう? それで、どうする? 疲れているのなら一席設けるが」


「別に、お茶を飲みに来た訳じゃないしすぐでも構わないわ」


「それは有難い限りだ。アルフレド、お前はどうする?」


「始めは見物して、参加するかどうかはそれから決めようかな」


 イースクラがウィルヘルムの元に来たのは、自主鍛錬をする為であった。

学院が休み……つまりは非番の時にも鍛錬を積もうとは、素晴らしい心構えだ。青春だねぇ。

それにしても、火竜か。ここで会う機会があるとは思っても見なかったので、嬉しいと言えばそうなのだが、どうせなら飛竜に会いたかった。マナを司る竜は、どうしても別次元の存在と言う気がしてならない。撫でる事も出来ないし。



「では、裏庭に行こう。こっちだ」


 ウィルヘルムの後に続いて裏庭に向かう。

驚いたのは、火竜も裏庭について来た事だ。火竜も、黒竜と同じ様に見た目こそ変わっては居なかったが、随分と小さくなっている様に感じる。五百年前の戦いを覚えているのだろうか? 叶うのであれば、少し話をしたかった。



 裏庭に着いてしばらく軽い運動をした後は、模擬戦闘の様な事を初めていた。

所々稚拙な部分もあるが、向上心が強いのだろう。なんとも微笑ましい光景だ。真剣になっている二人を尻目に、目立たない様ゆっくりと火竜へと近づく。



「今からする話は、内密に願いたいのだが……アルソニア王国を覚えておいでか?」


 火竜からの反応は無い。まぁ、想定内だ。



「五百年前に起きた闇竜との戦い、私はその場に居ました。あの時の火竜と貴方が同一の存在であるかは分からないが、少し話をしたい」


 火竜は、ピクリとも動かない。



「……闇竜に負けた時の弁明があれば、聞きたかったのだが」


『負けてないわよ』


 ほう?



「貴方と水竜が抑える筈だった闇竜が空に現れて、オレ達竜騎士団は潰滅した」


『……まるで当事者みたいに話すのね』


「みたいも何も、当事者だ。理由は分からないが、魂だけがこの青年に憑依してしまったらしい。何か知らないか?」


『さあ? 興味無い』


「闇竜が黒竜となっている理由については?」


『人間が勝手にそう呼んでいるだけでしょう? ……いや、確か水竜の入れ知恵だったかしら?』


 闇竜に関しては水竜に……か。そういえば、この火竜はあの時の火竜なのだろうか。



「この時代では、竜がいくつもの存在に分かれている様だが……貴方はあの時の火竜なのか?」


『根源は一つだもの。分かれている時の記憶は共有していないけど、必要があればそうするだけ』


「やはり、竜とは人智の及ばぬ存在なのだな。発端は光竜だと聞いたが、どうして今の様な形になったんだ? オレの時代では、竜は伝説として語り継がれる程にその姿を見せはしなかった」


『マナの祖が緩和したから。理由は知らないわ。今の方が楽しいし、別にいいんじゃない?』


「楽しい?」


『気に入った子を見つけても、指を咥えて見ているだけなんて、つまらないし』


 イースクラやオスクリタの様な者を指すのだろうか。それにしてもつまらないとは、竜もその様に感じるのか……意外だな。



『それよりいいの? 注目されてるわよ、貴方』


 火竜に言われて視線を前に向けると、こちらを見ていた二人と目が合った。……しくじったな。



「……お前、何をしているんだ?」


「火竜に会える機会なんて早々にないと思って、近くで観察していたんだ」


「恐れ知らずだな、食われても知らんぞ」


「ルベルはそんな事しないわ」


「ルベル……それが火竜の名前かい? 気に障ったのなら謝るよ。許可もなく火竜に近寄ってごめん」


「別に…………」


 怒ってはいない様だが、イースクラはこちらを見つめていた。聞きたい事は山程残っているが、これ以上は無理だろうな……光竜の居場所を聞けなかった事が悔やまれる。



「なんだ、火竜を見た時はあまり反応していないと思ったが、興奮していたとはな」


「ウィルヘルム……まるで僕が変態みたいじゃないか。それよりも、鍛錬に混ぜて貰ってもいいかな? 二人を見ていたら気分が乗って来たんだ」


「学院に居た頃から、竜の事に関してはそういう性分だっただろう? 前と変わらない所もあるのだと、ようやく安心した所だ」


「どういう事?」


「話せば分かるが、まるで別人だぞ? 生まれ変わったと言っても差し支えない程にな」


「よせよ恥ずかしい! それよりも鍛錬をしよう、その為に集まったんだろう?」


 急に確信に迫るウィルヘルムを誤魔化す様に話題を反らす。ウィルヘルム君や、君は少々尊大過ぎる節がある。その自信を叩き折ってやろうじゃないか……アルフレドが強くなった理由は……そうだな。





※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 昼食の時間となり、三人で食卓を囲む。

イースクラはしばらくこの屋敷に滞在するそうで、火竜と話す機会がまだありそうなのは幸いだった。



「おかしいだろ! 何故オレがお前に一度も勝てんのだ!」


「おいおい、僕の姉上が誰だと思っているんだい?」


「ぐっ……たかが半年で、ここまで力を付けているとは……」


 アルフレドの強さの秘訣は、オスクリタに擦り付けた。万が一オスクリタにその事が露見しても、その際の言い分は考えてある。このまま学院で話が広まってくれればアルフレドの株も多少は回復するだろう。いい運動にもなったし、いい事尽くめだ。



「僕だって遊んでいた訳じゃない。やる事はやってたさ、なんせ嫡男だからね」


「くそっ! 昼食が終わったらもう一度だ! 勝ち逃げは許さんぞ!」


「好きなだけ付き合うよ、僕にとってもいい経験になる」


「イースクラ! お前は悔しくないのか!? オレ達がまるで子供扱いだ!」


「あっ、うん……そうだね」


「イースクラ? どうした?」


「アルフレド、本当に変わったね。それは良い事なんだけど……驚いたわ」


「挫折から立ち直って、少し成長したんだ。イースクラも、半年見ない内に綺麗になったね。最初は別人かと思ったよ」


 半年前の姿なんて知らんが、別におかしくもあるまい。年頃の女の子に対する定型文のような物だ。



「へー、言ってくれるね。午後からは、少し本気でやろうかな」


「……本気?」


「竜の尾を踏んだな。迂闊とは言え、哀れな奴だ。加減はしろよ? オレの出番がなくなる」


「うん。怪我をさせるつもりは無いから……安心してね?」


「……はは、怖いな……」


 どうやら逆鱗に触れたらしいが……はて?








キンッ────────


 飛ばされた剣が、地面に突き刺さった。本気になったと言うイースクラに弾かれたからだ。

イースクラは炎のような物を纏い、打ち合った瞬間に尋常じゃない力の差を感じさせられた。なんだあれ?



「……それはなんだい?」


「へー、ふぅん、知らないんだ。てっきりオスクリタ様から聞いて知ってると思ったよ」


 目が笑ってないぞ。


「竜の加護だ。寵愛を受けた者には、竜の力が宿る」


「へぇ……話には聞いてたけど、実際に見たのは初めてだ」


 初めて聞いたよ! 何その不思議能力!



「実践でしか使えないのが欠点だけどね。お陰で、この力を試す事が出来ないから……何処まで出来るのか未だに分からないの。少し……期待してたんだけどな」


「騎士になればすぐに試す時が来る。それまでは堪えるしかないだろう」


「鍔迫り合いってさ……妖魔との戦いじゃあ何の役にも立たないんだ」


 飛ばされた剣を拾いながら、イースクラを見る。



「妖魔相手に力比べなんて、出来る訳ないだろう?……教えてあげるよ、妖魔との戦い方」


「まるで、経験したみたいに言うのね。それもオスクリタ様に教えて貰ったの?」


「話を聞いただけさ、避ける訓練は独学。じゃあ、やろうか」


 剣を向ける。流石に勝つのはおかしいので適当な所で降参するつもりだが、力に頼って技術が疎かになるのは本人の為にならん。特に成長途中である内は。



「ちょっとムカついた。軽口を叩けない様にしてあげる」


 言った直後、凄まじい速度で眼前まで迫ると剣を横薙ぎに振り切る。予測していたのでどうにか避けるが、これ当たったら死んでないか?

避けられるとは思って居なかったのか、少し驚いた様な顔を見せると、上下左右と様々な軌道で剣を振るう。



「早いね、想像より何倍も」


「はああぁぁぁぁぁぁ!」



 右袈裟斬りから始まり、そのまま斬り上げ、突きをいなして横薙ぎを躱す。

最初の横薙ぎとは違い、避けられる前提で動いているのか振りが小さく切り返しが早い。

適度に攻撃を挟み、防御をさせている間に態勢を整える。振りは早いが動きが直情的なので避けるのは容易いのだが、問題が発生した。疲れて身体の動きが鈍くなってきている。



「……こ、降参だ。大口を叩いたけれど、やっぱり叶わないや」


「はぁ……はぁ……」


 渾身と思われる振りに合わせて剣を弾かせる。寸止めしてくれて良かった……息切れは演技ではないので、必死に頑張ったと思われるだろう。



「はぁ……どうして……はぁ」


「ふぅ……ん?」


「どうして……避けられるの?」


「あぁ……足捌きを見れば……ふぅ、分かる。次に何が来るか」


「そんな……訳……」


「……他にも、上体の動きとかね。その様子だと、意識した事が無いんだろう?」


「そんなの、教わってない」


「基礎が出来ていないのに教わる様な事じゃない。知らなくて当然だと思うよ」


「それも……オスクリタ様に?」


「ウチの使用人に、傭兵をやっていた奴が居るんだ。色々と教えてくれた」


 何でもかんでもオスクリタに押し付けると、後々困りそうなので適当にターニャの所為にしておく。



「名前……教えて、私も教わりたい」


「勘弁して欲しいな。本人が嫌がるのを、無理言ってお願いしたんだ。君に頼まれたら断れないだろう? 余り昔の事は思い出したくないんだって」


 良かったなターニャ、伝説の傭兵になれたぞ。



「流石はクランクラインね、使用人も一流が揃ってるなんて」


「姉上の人望のお陰さ。君がその力に溺れない限り、いずれはそうなれるさ」


「ルベルに見限られたくは無いもの、そう在りたいと思うわ」


 教訓を示す事は出来ただろうか。加護に驕り、身持ちを崩せば竜は去ると聞くし、要らぬ世話だった可能性もあるが、まぁいいだろう。



「さて、ウィルヘルム。朝の続きをやろうか」


「…………あ、あぁ」


 信じられない物を見た。と言う顔で固まっているウィルヘルムに話しかける。

オレが出来る事はお前にも出来るんだぞ? と言うかなれ。騎士を志すなら、いくらでも付き合ってやる。






※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 夕食を終え、自室に戻る。

初日の鍛錬としては上々の結果だろう。二人の課題もはっきりとしたので、明日以降はより充実した物になる筈だ。

オレ個人の課題としては、やはり体力の底上げだな。後半はへばってウィルヘルムに勝てなくなってしまった。負け続けるのも良くないので、ウィルヘルムに自然な形で勝ちを譲れたのは良い。自信を持て! 明日またへし折ってやるから。



「足止めが厄介と思ったが、結果的には良かったのかもな」


 思えば、アルフレドに転生してから余り自分を鍛える事が出来ていなかった。その事は重々承知していたのだが、機会としてはこの上ない。

この国の将来を背負うであろう二人に訓練出来るのも幸いだ。やはり、若い芽はいい。人が育つ姿を間近で見るのは心が躍る。それに追い抜かれまいと、いい刺激にもなる。



コンコン


 扉をノックする音が聞こえ、入室を促す。

後は寝るだけの筈だが、誰だ?



「アルフレド、話があるんだけど」


 部屋に入って来たのはイースクラだった。



「話って?」


「あなた、誰なの?」



向けられる視線には、確信が込められていた。

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