東野家(3)
次の日もまた快晴だった。義母はまた外に出たがり、揺り椅子に座っていた。
富貴は義母が目に入る場所で、義母の手作業をまねしてキルトを作り始めようとしていた。義母は何でもきちんとしまって取っておく人で、翔太や二人の弟のシャツをいくつも箱に詰めて押し入れに取ってあった。
富貴に子供でもいれば、その古シャツを出し、着せる機会もあったのかもしれないが、その機会は得られなかった。
富貴はしまい込まれていたシャツを洗い直し、アイロンをかけ、またしまいなおしておいたのだ。それをボール紙で作った規程の形に切っていく作業は楽しかった。色を分け、どうつなげていこうか考えるのも楽しかった。自分が三人の息子を育てたような想像を楽しみ、義母がその一枚一枚を愛おしみ、作ってきたものを自分も作れるということが幸せだった。
ミロがやってきて、非難がましい目を向け、イヤミを言った。
『こんどは、須恵見さんのまねかい。須恵見さんになろうってかい』
富貴はやわらかい目でミロを見やり、
「なんとでも…」と、手を休めることなく答えた。
須恵見とは義母の名前だ。
「すえみさん…」
名前を口にしてみると、柔らかい暖かい空気が富貴を包んだ。
『どんなことしたって、ばあさんにはなれない。おまえの中には何か黒々としたものが、すべてを吸引しようと渦巻いている。だがそれ自体須恵見さんの中にはないものだからな、真似しようったって真似できない』
「ふふふ」
富貴は今、サッカー生地のシャツだけを集めて、四角に切った紙を当てては、布を切り分けていた。ミロの言葉は富貴の耳の中を通って出て行った。
『いつもご満悦だな』
「そうよ。こんな楽しいことないわ」
『おまえには、悲しみとか苦しみはないのか』
「あるでしょうよ。もちろん。ただ、私にはそういうものが見えにくいのね」
『ほお、自慢か?』
「なんとでも…」
『余裕だな』
「なんとでも」
ミロになんと言われようと、もう、動揺することはなかった。富貴はただ自分ができる範囲でできることをできる順序でやってきただけだ。手に触れるものを大事にし、そこにあるものを守り、それがそのままの形を止めておけるようにと尽くしてきただけだ。
「おまえに言ってもらってよかったわ」
と富貴はミロを見やった。ミロはしばし富貴を見つめ、毛づくろいを始めた。