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昼休みの私たち

 薄く広く八方美人(はっぽうびじん)である為に、私は決まった子とあまり深く付き合わないように心がけている。でも昼休みだけは例外だ。この時間だけは隣のB組にいるユイと一緒に過ごす。

 昼休みのチャイムが鳴ると同時に私はすぐに席を立った。『お昼一緒に食べよ』という言葉をかけられないようにする為だ。私は学校に来る途中のコンビニで買っておいたお昼ご飯を持って、まっすぐユイを迎えに行った。

 授業を終えた先生が出てくるのを待って、出入り口に立って彼女を呼んだ。

「ユイー」

 周りの子たちに教えられて、ユイはやっとこちらに気がづいた。私が手招きすると、彼女は他の生徒にぶつかりそうになりながら、フラフラと歩いてきた。初めて補助輪(ほじょりん)を外した自転車の運転のような動きだった。

 近くまで来て、私は彼女が手ぶらな事に気がついた。

「お昼は?」

「あっ…買ってない……」

「そんなことだろうと思った」

 私は用意しておいたユイの分の調理パンと牛乳の入ったビニール袋を渡してあげた。

「ありがと…」

「こういうの、あんまり忘れちゃ駄目だよ。じゃあ行こっか」


 私たちはお昼休みをできるだけ二人きりになれる場所で過ごす。だいたいは体育館の裏。でもたまに先客(せんきゃく)が居ることがあるので、そういう時は一番北にある校舎の裏へ移動する。どちらも居るだけで体に(こけ)が生えてしまいそうなジメッとした所だ。お世辞にも食欲が湧くような場所とは言えない。でも私たちにはそんな事は関係ない。お昼休みはお互いに仕入れた女の子たちの情報を交換し合う為の時間だからだ。


 今日は先客は居なかった。私たちは体育館裏の冷んやりとしたコンクリートの上に並んでひざを抱えた。すぐ(そば)にある側溝(そっこう)(ふた)の上を、隊列からはぐれた蟻がくたびれた様子で右往左往していた。ユイがスカートのポケットから小さな手帳を取り出して読み上げた。

「二年C組、櫻井(さくらい)カナコ、バスケ部、足が速い。……以上」

「…え?ユイそれだけ?」

「うん…」

「ちょっと少なくない?それに運動系の部活に入ってる子は優先度低いじゃん」

「あっ…そうだった……こういうの苦手……」

 実はユイも私と同じ日にこの学校に転校してきた。でもこの子は情報を仕入れる事に関しては少しばかり要領が悪い。まず第一にしゃべる声に覇気(はき)がない。そしてちょっと小柄な体型とおかっぱみたいな髪型のせいで、風邪をひいた日本人形みたいな印象になっている。その為か、友達を作る事に少し難儀(なんぎ)しているようだった。

 私はユイに周りの子と仲良くなる為のレクチャーをすることにした。

「基本は三つだよ。笑顔、名前を呼ぶ、()める」

「うん…」

「で、できればボディタッチ」

「でも……触り返されたら…困る」

「それもあるけど。まあ滅多な事じゃバレないと思うし。まずは私を練習台にしてやってみて。ほら」

「うん…」

 ユイは口の端だけを上げて笑った。そして私の太ももを見つめ、鰹節(かつおぶし)を削るみたいにそこを()で始めた。

「レナ…綺麗だね……」

「うーん、それだと、ただのセクハラおやじかな…。それに話す時は相手の目を見て喋った方がいいよ」

「難しい…」

「あと、褒める時は少し具体的に褒めるといいと思うよ。こんなふうに…」

 私はユイの頭を優しく撫でながら言った。

「ユイはこけしみたいで可愛いね」

「あ、ありがと…」

 ユイは抱えていた膝の間に顔をキュッとうずめた。

「いや、そこは『せめて日本人形みたいって言ってよ!』って突っ込む所なんだけどね」

「難しい…」

「こういうノリは確かに難しいかも。漫才とかトーク番組見て勉強するしかないね。お笑い好きな子結構多いから、話題を作る上でも役に立つと思うよ」

「うん…」


 ユイは優しい子だと思った。まだ知り合って日が浅いけれど、いろんな女の子を見てきたから何となく分かる。相手の気持ちを考え過ぎて、自分の言葉が上手く出せない子。


 昼休みが終わる五分前のチャイムが鳴った。渡り廊下を走っていく上履きの足音が聞こえる。

 ユイは少し(さび)しそうな顔をして、遠くの空を眺めた。遠い昔を思い出しているような、そんな横顔だった。

 ユイが私の肩に体を預けながら言った。

「レナは…いろんな人と仲良くできて…すごいね……」

「練習したからだよ…」

「私にも…できるかな?」

「できるよ、きっと…」

 ユイが私の胸に顔をうずめてきた。その小さな体を抱いて、頭をそっと()でた。


 それから私たちは持ってきたお昼ご飯をそのままゴミ箱に捨てて、それぞれの教室へ戻っていった。

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