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字幕さんのお仕事はホントに大事である。ホントに。

 外は満月でとても明るかった。ウソです。うすらぼんやりと木の影が見えるだけでたいして明るくないかも。でも、何故か明るく感じる。その妖しく輝く月に惹かれてフラフラと辺りをさ迷う。


「……うっわぁ。キッれー。こんな綺麗なやつ私ごときが見ても大丈夫なのかな?」


 そう不安になるくらいの桜が目の前にあった。大きい満開の桜だ。ヒラヒラと微か吹く風では花弁が舞う。明るい満月と踊ってるみたいだ。

 なんの音もしない。静寂の時。ただただ、花弁だけが狂ったように舞う。

 さっそくサクラの木のしたに座り込み、持ってきたマドレーヌをモシャモシャを頬張る。

 幻想的な景色の中で食べる最初で最後の主人公ちゃん手作りお菓子。美味しくないはずが無い。


「初めまして、אנג'ל」


 そんな幸せに浸っている時だった。幸福をかき消すかのように頭に響くイケボが(ささや)かれたのは。


「どうしたのですか?そんなに固まって……」


  ギチギチと首を声の方に向ける。最悪だ。

 ……こんのぉ、人の幸福を邪魔する悪魔めっ!許さない。こんなにも、こんなにも幸せで穏やかな気分だったのに。美味しいマドレーヌだったのに。

 なのに、これがこの悪魔との出会いイベントだっただったなんて……


「……あぁ、神の、クソッタレ……」


 この、現実味のない幻想的で、美しい景色の下、私は神を呪った。


「神を人間の身で冒涜しますか……מעניין」


 そいつは、背の高い男だった。その長い、色素のない白い髪を風に泳がせ、花弁に包ませ。

 その月よりも美しく輝く金色の瞳を瞬かせていた。髪とは対照的に黒の服を身につけ、これまた黒いマントをふわりと巻いていた。

 そんな、現実味のないぐらいに美しいのに感じるのは感嘆ではなく、畏怖(いふ)

 本日3人目のイケメンである。……()ねよ。



【テオ・シュヴァルツ】

『キミだけを救う』攻略キャラの1人。キャラの中で唯一人外、人間と敵対関係にある『悪魔』である。さらに、魔王の息子。ゲーム中で可哀想なほど沢山殺される。

 ちなみに、私がつけたアダ名は『お菓子な悪魔』である。お菓子好き、性格がおかしいを掛け合わせていて、自分で言うのもなんだけどセンスあると思う。



「……えっと、なんかのごようがお有りで?」

「いや、人間があまりにもטעיםだったもので」

「……」

「嗚呼、困惑に歪めた顔も、מאוד יפה!」


 ……えっと、すみません、字幕さんいらっしゃいませんか?

 アレですよ、ルビですよ。あのちっちゃい文字!真剣にわざとルビつけて真剣(マジ)って読ませるみたいに。

 この人の言ってる事和訳して下さい。てか、何語?もはやアルファベットすら使ってないよ?


「字幕さーん。出て来てっ!お願い貴方の力が必要なの、切実に!」


 必死の思いで叫んでみるが、そんな願いが聞き届けられるはずもなく。


「……煩わしいですね。そこの人間、今は私の時間で、此処は私の領域です……האם אתה יודע?」


 あぁ゛てめぇ喧嘩売ってんのか?何言ってっかわかんないんだよ!こちとら、字幕読んでゲーム進めるタイプなんで!

 しかも、わざとらしく重要なとこだけ意味わかんない言葉つかいやがって!

 まぁ、イケメンの言うことなんて理解したくもないけどね。


「即刻、ここを立ち去りなさいでないと……קבל נשמה?」

「はぁ。なんで私が立ち去らないと行けないんですか?」イケメンごときに。


 そもそも、先に来て場所取ってたのは私だぞ。


「聞きわけの無い人間ですね……זוהי הדרך」


 ___iー

 __ザワ。

 空気が歪んだ。空間が歪んだ。桜が歪んだ。


「……ッ!」イケメンごときにっ!


 あっ、これヤバいやつだ。ここから立ち去らないと死ぬパターンのやつだ。逆らえない感じのあれだ。笑顔だけど怒ってる感じのやつだ。


「……はいはい、良い子は部屋に戻りますよ」


 ……しょうがない。かっ、勘違いしないでよ!このイケメンに私が屈したんじゃなくて、このイケメンがあまりにも必死に言うもんだから避けてあげるんだよ!そこんとこ履き違えないようにっ!


「理解出来た様で何よりです」


 せめてもの反抗心でゆっくりマドレーヌを食べてやった。これだから嫌なんだよね、イケメンは。自分の思い通りにしたがるし、その為の力があるし、強引だし。はぁぁー、失礼しちゃうわ。


「では、一生出会わないことを願って、サヨウナラ!」


 最大級の嫌味を込めて別れの挨拶を。

 パンっとドレスに付いた土を払い、私は部屋へ向かった。


「天使の様な顔で神を冒涜する者、キーラ・グレイアム……מעניין」


 ドヤ顔のくせに、カッコよく決めて呟いていたのも私は知らないし、聞いてない。


「確か、この出会いイベントではマドレーヌを一緒に仲良く食べるイベだったけど……ウン。お菓子な悪魔と仲良くなんて、ありえねぇな」



 悪魔は、月あかりの下、吹き荒れる花吹雪に掻き消える私を黄金の瞳を細めながら眺めていた。


お菓子な悪魔、月夜の宴。桜を舞い踊りつつ一言。


「あの人間、私の言っている事、理解していませんでしたね……צר」


自覚はしているが、直す気がない、頑固者であった。

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