無意識にザクザクを心を抉ってくれる天使ちゃんは結構怪力だった。
「貴女は何ていう部屋でした?」
「えっと、ぷろきおんって言ってたきがする」
「プロキオン?おんなじ!同じ部屋ですよっ!」
手をブンブンさせながら言ってくれる。テンション上がった時だけ敬語抜けるのがまた、愛らしい。かわえぇのー。
「えっと、名前聞いてもいい?」ムハムハっ!
「もちろん!私の名は、クリスティーナ・ゾンネ、ティナと呼ぶことを許しますよ」
ん?なんか地味に毒入ってるきがするけど、まぁ、いっか。愛称っていいね。可愛い。
てか、この子良く見たら出てたよ、ゲームに。なんかイラストと3次元が一致しなかったけど。相部屋のティナちゃんだ。確か闇魔法を……いや、やめよう。あんまり鮮明に思い出しちゃったらこのゲームが面白く無くなっちゃう。
「ティナちゃん。だね!よろしく!えっと、私の名___
「貴女の名前を知らない人はこの学園にいませんよ」
「……へっ?」
「キーラ・グレイアム。自分を装飾するしか芸がない女共だって知ってますよ」
「へっ、へぇぇ!有名なんだ私っ!嬉しいなー」
なんか、この子結構毒強いぞ。狙って言ってる感じはしないから多分、無自覚何だろうな。毒牙にかからないよう気をつけなきゃだ。
「えぇ、有名ですよ。主に悪い意味で」
えぇ!悪い意味でぇ!マジかよ。まだ喋ったこともない人からも嫌てるかもってことだよね。これから。うわぁー、今から憂鬱だわ。……まぁ、今更か。
「貴族の恥晒し、学園唯一の汚点、田舎臭い、痴女、オネダリしか芸のない女、、とか色々好きな様に呼ばれていますわ」
「へっ、へぇぇ!そうなんだ!凄い罵倒されてるね!見事に全部悪い意味だ」
「まぁ、仕方がないですわ。その1週間着続けたシャツの様な姿では」
「……うっ、ウン。これは全部あのオッサンのせい」
「何を言っているのですか?その姿をしているのは貴女でしょう?」
ぬぐぐ、言い返せん。まったく持ってその通り。これ以上喋らないようにしよう。
そっ、そういえば、弁当初日にチーカマを食ってただけで、その後3年間 チーカマと呼ばれた奴いたな。それに比べればまだまだ意味あって良いかも。これぞポジティブ思考!
「荷物が運ばれてるみたいですわ。ぼさっとしていないで、早く行きましょ」
あっ、はい。……確か、ゲームのデザイン見た感じ結構広めの部屋だったような。あー!また内容無意識に思い出してるっ!ダメだダメだ。
「……なんで自分を自分で殴っているのですか?まるで自分行きたい場所の間にガラスがあるのに気が付かないでぶつかり続けるハエのようですよ?」
……つまり馬鹿みたいだからやめろって言いたいんだよね。なんか、ごめんなさい。
「しょんぼりしてないで、早く行きましょっ!」
はぁ。無自覚ってこんなにグッサリ来るものなのね。もはや悟り開けそう。
そんな、私の気持ちを感じるはずも無く、そもそも考えるはずもなく。ティナちゃんはいそいそと私の手を引っ張り、歩き出した。
カチャン。
ん?何の音だろう?まっ、いっか。
てか、ティナちゃん力結構強いな。ドレスの裾引きちぎれそう。
「そこの貴女!髪飾りを落としましたよ」
なんでティナちゃん、手じゃなくて袖掴むんだろ。うわ、なんかミリミリって嫌な音しはじめてるよ!そして後ろから、どっかで聞いた事ある声聞こえるわ。
「そこの貴女です。グレイアム嬢っ!」
誰だ、グレイアム嬢って?早く反応してあげないと、かわいそうだぞ。
「キーラ・グレイアム嬢っ!!」
ぐいっと肩を掴まれ、半回転。自動的に背後の人と向き会う形にる。嫌な予感がした為、俯く。
さらに半回転という逆向きの大きな力が袖にかかった為、遂にビリビリッ!!というなんかの断末魔みたいな音をたて、袖がちぎれた。
……それに気が付かず、行ってしまうティナちゃん。いろんな意味でウソぉーん。
「グレイアム嬢、これを落としましたよ」
あっ、ああ!グレイアム嬢って私のことねぇー、あはは。まだこの名前になってから1日も経ってないからガン無視しちゃっわ。申し訳ない。でも、本当にこの髪飾りは見覚え無いぞ。
「……えっと、これ多分私のじゃないです」
「何を仰るのですか?今しがた貴女の御髪からこれが落ちたのですよ、貴女の物に決っているでしょう」
そりゃ、確かに私のだ。でも、私髪飾りなんてしてたっけ?どれどれ。……主人公ちゃんが持ってるものにしては高そう。施されてる銀の細工は結構凄いし、この嵌められてる紅い石とか宝石っぽい。
「……あっ!!これ確か、母の形見ですよ!ありがとうございます」
「確か?大切な物ではないですか。不用意に落とさない方が宜しいですよ」
そうだ、この銀の髪飾りは主人公ちゃんのとっても大事な物で、寝る時以外はいつも肌身離さず付けている。……寝るときも付けてたし、あの荒れ狂う馬車の中でもついてたよな。
「よく、今まで取れなかったな」
まぁ、落ちたのがここでよかった。親切に拾って、髪に付けてくれる人がいて。
「……え?髪につけてくれる人がいて?」
あっ、これ最悪のパターンだ。聞き覚えのある声がまた響く。固まった首を全力で持ち上げ、その男の顔を見つめる。あはは、輝かしい笑顔で立ってるよ。
「自分で付けるのは難しいでしょう、つけて差し上げますよ」
はい!イラッとするほど正統派のイケメンですねー。攻略キャラの1人ですねー。しかも、このゲームのメインキャラでしよー。そしてこれは出会いイベントだ。
【イーサン・オリンズ】
『キミだけを救う』の攻略キャラであり、運営が1番推してるキャラでもある。名前からもわかる通りこの国の王子様。
もちろん、学力、魔力、顔面共にトップクラスの言わば、『完璧王子』だ。ちなみに私がつけたアダ名は『パーフェクトキング』略して『パキン野郎』だ。
さすが、王子様といったところか?
背は私よりちょと大きいぐらい。細身。顔の造形は1mmの狂いもなく揃っている。美形のお手本になれるんじゃないだろうか。流れるプラチナブロンドの髪はサラッサラ。紅く光る瞳は強い意志をたたえている。
はっ、出たよ!美形の片耳ピアス!瞳とお揃いなのか、紅の宝石がはまっている。その痩身に纏う服は、白を基調としていて所々に金の刺繍が入っている。さすが王子様、派手である。
そして、当たり前の様にイケメン。……チッ。
「美しい髪ですね」
そう、私の髪を触ったパキン野郎が言った。
ウソつけぇ。な理由ないだろ。自慢じゃないけど今日起きてから1回も櫛通して無いどころか馬車の中でもみくちゃにされた髪だぞ!
……はぁ、これだからイケメンは。女の子を取り敢えず褒めとけば様になると思ってる。きっと、『女性を褒める俺、最高にイケメンっ!』とか思ってるに違いない。
「っ!」
「失礼、耳に指が当たってしまいました」
殺すぞ、テメェっ!!てか、そもそもなんで許可なく私の髪触ってんだよ。普通に手渡しで良いじゃん。何で頭に付けようとすんだよ。イラッとするわぁー。行動力が無駄にあるから駄目なんだよイケメンは。それが、私にとってどんなに苦痛になるかも知らないでノウノウと耳、触りやがって。
「うん、とっても美しいですよ」
よっしゃ、歯ぁ食いしばれぇーい!
今日1番の殺気が出た。ちなみに馬車の中でも、オッサンに向かって出てたよ。
んな理由ないでしょうよ。自慢じゃないけど今の私の見た目結構酷いぞ!
そして、なんだよこの笑顔。口の曲げ方、頬の上げ具合い、チラッと歯を見せつける技術、完璧かよ。派手にキラキラ王子オーラだしやがって。
ほら、周り見てみろ。お嬢様方どころか、殿方までクラァってきてるぞ。ウン、これはヤバイ。この人達が我に返った瞬間。私は死を覚悟しなければならないだろう。
「あっ、ありがとうございます!では私は死にたくないので失礼しますね。あははー」
「死ぬ要素なんて、ありませんよ?クスッ。面白いですね」
これ、以上、笑うな。空気、読めよ、このイケメンっ!!私はまだ死にたくないんだ!
「では、ご機嫌して下さい!」
テンパって、挨拶おかしくなったけど気にしない。課題から逃げる学生のごとく颯爽とその場から逃げた。超逃げた。
イーサン・オリンズ改め、パキン野郎の独り言。
「リボン縦結びでしたね。……縦結び、初めて見ました」
お坊ちゃまは、縦結びが珍しいらしい。