難易度鬼畜の無理ゲーほど、ゲーマーの心を揺さぶる物も無い。
「あー、もう最っ悪!」
なんだよ、あのイケメン。偉そーに。言葉ちゃんとしゃべんないのが悪いんじゃん。なんか、『ワタクシ、特別ですよー、跪けー』みたいなさ、言葉でわかんないならすーぐ実力行使してさ。女子に向かってだよ?信じられる?そこはジェントルマンらしくレディに場所譲れよっ!
「あー、もうイラッとするな!」
本当に今日場所さんざんだった。オッサンの運転で死にそうになるし。ナヨっと眼鏡に面白くもない話を長々と聞かせられるし。王子様に髪触られるし。なんか、悪魔から威圧されるし。リボン縦結びになるし。ぜぇーんぶイケメン共が悪いんだ!
「まぁ、ティナちゃんに会えたしな。悪い事ばっかでもないか」
ボスっと、ベットに倒れる。あい変わらずフカフカだ。天井も高いし、シャンデリアついてるし。
特に意味も無く天井に向かって手をのばす。
「……でも、めっちゃ生きてたな。なんか、スゴいもう、生きてた」
『生きてた』ムカつく顔だけど笑ってた。イラついたけど喋ってた。画面越しじゃなくてリアルで動いてた。でも、
「でも、____アイツらは、あと1年もしないうちに死ぬんだよなぁ」
そう、死ぬのだ。まぁ、1人だけなら主人公ちゃんを結ばれて、永遠の愛を誓って、多分長生きするだろうけど。私、イケメンと結ばれる気皆無だし。
「ナヨっと眼鏡は、自殺。パキン野郎は病気で死亡。悪魔は、悪魔以外の攻略キャラと私に殺される。他に2人キャラ居るけど、そいつらも例外無く何らかの理由で死ぬ」
攻略キャラたちの死亡は主人公ちゃんの精神的成長の礎となる。『死』という悲劇はストーリーに深みを出す為の必至アイテムだ。その運命からは逃れられない。
__この『キミだけを救う』という乙女ゲームである限り。
「中々、鬼畜なゲームだよなぁ」
まぁ、ちょっと食べ物が不味くなるだけだし。別にイケメンがどうなろうと知ったこっちゃないないけど。むしろ大歓迎だけど。
「…………………………………ん?……ゲーム?」
これは、ゲームだ。乙女ゲームだ。私の人生兼、超リアルゲームだ。選択肢を選び、ハッピーENDへとプレイヤーが導くゲームだ。
楽しむものだ。ゲームは楽しまなければならない。断じてご飯を不味くするものなんかじゃない。
伸ばした手のひらをぎゅーっと握る。なんか、なんかあるんだ。頭の隅っこに端に、奥に。こんな胸くそ悪い選択じゃなくて、もっと面白そうで、もっと可笑しく、もっと楽しめそうな選択が……
「……プレイヤーが導く、新しいEND攻略……っ!」
頭に電撃が走った。それが体を駆け巡る感じ!比喩ってスゴい。これ本当だったら結構痛いよね。
「新しいENDを作ればいいんだよ!誰一人死なない、全員が可笑しく笑って迎える、ハッピーEND」
ウン。なんか、燃えてきた。もうさんざんイケメン共の屈辱に染まる顔は満足するほど見た。攻略キャラは何回もドヤ顔で振った。悪魔に関しては何回殺したか。
わかりきった内容のゲームなんてつまらないじゃないか。
「まだ知らないストーリーを開拓。何それチョー面白そう。しかも、1人しか救えないところを無理やり全員救うから、難易度超鬼畜」
本来なら、1つのイベントで1人しか選択出来ないからもちろん好感度だって1人分しか上げられない。さらに後半になるとキャラを固定されて、他のキャラとの接点が無くなる。
「でも、リアルだったら出来る」
そう、ゲームみたいに一気に時間経たない。確認してないけど多分1日は24時間あるだろう。すっごい考えて立ち回らないとクリア出来ないだろう。
「なにより、私は自称ゲーマーだ」
そう、私はなによりゲームが大好きなんだ。超鬼畜のリアル無理ゲー……やってやろうじゃないかの。
神よ、私はあんたの思い通りには動かないぞ。
「__あんまり、ゲーマー舐めんなよ」
もう、私の手じゃない。白くて細い手。でも、プレイヤーは私だ。力強く握った拳をこの決意と共に胸に抱く。
ゲーマー魂に消えることの無いであろう炎が付いた瞬間であった。
__惚れ惚れするほど完璧に、楽しくクリアしてやんよっ!!
お隣で眠っているティナちゃん。眉をひそめながら、
「なんか、盛り上がってるとこ水させないから言わないけど、五月蝿いなぁ」
がっつり起きてた。