EP:59 偶然と幸運
ドラゴン「グォォォォォ!!」
和「くっ!!」
ドラゴンの足止めを開始してから10分ほど経過した。
何とか翼の飛膜を攻撃して飛べないようにしているんだが
暁「くそ、再生速度上がってないか?」
蛍「そんな気がする!」
トウカ「それだけじゃありませんね。
飛膜にいろんな素材を交えるようになってますよ。」
流石にこのサイズになると対応能力が桁違いに高い。
今までのやつでもここまで早く対応するやつは居なかった。
状況に対して……ならいたが
攻撃を受けながらそれに対応しようとするのは見たことがない。
そもそも、戦闘になる前に逃げるか適当に小突いて逃げたから
そこに至らなかったのかもしれないが
暁「暁だ!そっちの状況はどうだ!?」
ビショ『な、何とかとにかくエネルギーを供給してるけど
どうやっても10分はかかるよ!』
暁「もう少し早くならんか!」
ビショ『う~ん流石にかなり厳しいかな。
これ以上無理をすると砲撃する前に壊れる可能性が……。』
ビショ『それを言うってことはそっちはかなり危ない?』
暁「何とか飛ばさないようにしてるが対応速度が早すぎる。
もう砲弾もほとんど効かなくなってきた。」
ドラゴン「ヴォォォォォ!!!」
蛍「うわっ!」
トウカ「くぅ……。」
暁「ぐ……加えてさっきから変な咆哮を放っていくる。」
ビショ『変な咆哮?』
暁「超音波なのかどうかは知らんが鼓膜が破れそうになる音だ。」
ビショ『そんなことまで……。』
どういうわけかリヴァイアサンに比べて
とてつもなく攻撃性が高まっている気がする。
超音波みたいな咆哮もそうだし、周りを吹き飛ばす爆風もそうだ。
和が何とか操縦を制御しているが
咆哮を放ちだしたことで最初よりも離れた距離で行動している。
暁「最悪このままだと飛び立つかも知れん」
ビショ『わかった。何とか短縮できないか試してみる。
期待はできないと思うけどさ。』
暁「手間をかける。こちらも出来る限り動きを止めてみる。」
お互いに現状を確認して通信を切る。
蛍「向こうはどうって言ってた?」
暁「最低でも10分はかかるそうだ」
トウカ「10分ですか……流石に間に合いそうにありませんよ。」
ドラゴン「グォォ…………!!」
先程からもずっと砲撃を繰り返しているが……。
もう限界のようだ。飛膜にいくら攻撃しても傷一つ付く様子がない。
よく見るとドロドロの粘液みたいなのを吐き出して
砲弾によりダメージを更に軽減している。
蛍「ここまで行くと脅威を越えて感心するよね。」
トウカ「人の進化の特性を最大限に活かしている様には見えますが……。」
暁「ここまで行くともうゾンビでもなんでもない気がするがな。」
見た目も行動も人間のそれを遥かに超えているのは間違いない。
こちらの攻撃が通じなくなったことで翼の運動の回転速度が上がり始めた。
飛び立つまでもはや猶予はなさそうだ。
蛍「ちくしょおおお!
ゲームっぽいんだから弱点とか持っときなさいよおおお!!」
全く同意見だ。
リアルだからこそ、弱点を排除していき今の姿になったんだろうが……。
飛膜への攻撃をやめてとにかく手当たり次第に砲撃するが
皮膚は全て鋼鉄製で爆破ダメージは皆無
同じ箇所に何度も攻撃しても一緒みたいだ。
そもそも小さな傷ならすぐに再生してしまうから蓄積攻撃は意味をなさない様子。
目、鼻、口といった柔らかそうな場所にも攻撃しているが
こちらも一緒……そもそも、食事をとる必要が無いからか
口の中はむしろ外皮より硬そうだ。
暁「最悪、飛んでる足に鎖をつけて引きずり下ろすか?」
蛍「どう考えても危険すぎるし、アツキちゃんと咲実がいないと無理くない?」
暁「だよな……。」
暁「せめて何か一つあれば良いんだが……なっ!」
もはや苦し紛れの攻撃になっているがそれでも攻撃はやめない。
幸いというか飛翔するために溜めている空気の塊を
爆風で僅かにでも霧散できている。
10分は無理だが3分くらいはこれで時間を稼げそうだ。
そんなことを思っていると
ドラゴン「グギャァァァァ!?」
一同「「「!?」」」
蛍「え、え?なに、え!?」
適当にぶん投げていると突然ドラゴンが悲鳴を上げてのたうち回りだした。
蛍「なに!?どういうこと!?」
暁「わからん。なんかあったのか?」
トウカ「何かあった……んだと思いますが……。」
さっきまで傷一つ付かない。正確にはついてもすぐに直していたドラゴンゾンビ
悲鳴を上げてから一転して顔を地面に叩きつけたり、
転げ回ったりと大忙しになっている。
蛍「おけおけ、ちょっと整理しよう。
さっきまで何を当ててた?私はライフルだけど」
トウカ「私はランチャーですが……。」
暁「俺は手榴弾とか投擲物だな。」
ずっと投げたり射ったりしてたものだいきなり変えたわけでもない。
蛍「じゃあ、部位?私は腹と翼だけど」
トウカ「私は翼と頭ですね。」
暁「よそ見してたが多分頭に当たったと思うが」
蛍「翼はずっと攻撃してたから……頭?弾が違ったとか?」
言われてランチャーの弾倉を確認するトウカ
トウカ「特にこれといったものは……。」
俺も投げた手榴弾を確認してみるが……特に変わったものはない……。
暁「種類は多いが満遍なく投げてるし……おかしいとは思わんが」
蛍「じゃあなんていきなりのたうち回ったの?」
トウカ「偶然?でしょうか?」
暁「偶然だとしても突き止めれば時間が稼げそうなんだが……。」
蛍「匂いで何かわからない?」
暁「ふむ」
望みは薄そうだがドラゴンゾンビの方向の匂いを嗅いでみる。
暁「う、ごほごほっ!」
蛍「ちょ!?どうしたの!?」
トウカ「暁様!?」
暁「な、なんでアンモニア臭が……。」
蛍「アンモニア臭!?」
ドラゴンゾンビの頭部の匂いを辿ってみると
物凄い強烈なアンモニア臭が鼻をついた。
嗅覚が上がってると自覚してから刺激臭の類には最新の注意を払っていたんだが
予想外過ぎて思わず咳き込んでしまった。
トウカ「え、えっと、てぃ、ティッシュで!」
蛍「いや、ティッシュって」
暁「いや、それでいい。」チーン
鼻の防衛機能で大量の鼻水が流れアンモニア臭の元を排出してくれた。
それでもまだ違和感が残るが……。
暁「はぁ……とりあえず、原因がわかった。十中八九刺激臭だろう。」
蛍「刺激臭って……ゾンビに嗅覚はないんじゃ?」
暁「アツキみたいに全感覚が鋭敏になってたんじゃないか?」
今までであったゾンビも嗅覚というのはなかったが
聴覚や視覚が優れているタイプは何体も存在した。
ドラゴンの姿になったことで嗅覚も成長したのかも知れない。
が、まだ使いこなせるに至ってなかったんだろう。
暁「ある程度使いこなせてる俺でもこれだ。
突然、刺激臭を叩きつけられればのたうち回っても可笑しくない。」
なんで刺激臭入りの爆薬があるのかは置いておいて……。
蛍「じゃあ、刺激臭を頭にぶつければいいってこと?」
トウカ「そうなりますが……。どういうのが刺激臭になるんでしょうか……。」
蛍「納豆とか?ドリアンとか?」
暁「刺激臭は刺激臭だがそんなものないだろ……。」
和「ありますよ。」
蛍「あんの!?」
和「はい、ビショップさんが納豆が好きなんだと備え付けの冷蔵庫に」
蛍「うっわ!まじであるよ!?」
暁「ヘリにまで持ち込んでるのか……。」
度々米と食ってるのは知ってたが、まさかこんなところまで……。
暁「ん?納豆があるってことは他のやつのおつまみもあるんじゃないのか?」
蛍「えっと……うわぁ、くさやとかあるんだけど……
ヘリで食べるものじゃないと思う……。」
暁「なんで持ち込んだんだ。」
蛍「他には……たくあん。これは普通かな。負豆腐は……使える?」
暁「近づけるな。鼻が死ぬ。」
蛍「あぁ、そだったごめん。」
トウカ「じゃあ、私が……あまり好きな匂いではありませんね。」
蛍「あと鮒ずし……なんで?」
暁「宴会でもするつもりだったのか?」
トウカ「まぁ、私たちはヘリの中で活動してることのほうが多かったですから」
暁「なるほど」
蛍「普通のものはスルメとかかな。まぁ、そこそこ匂いきついよね。
あとにんにく……は普通かな。」
暁「納豆と鮒ずしと負豆腐くらいか?」
和「そう言えばポーンさんが面白いものを探索で見つけたと言って
そちらの保冷室に保管していたような。」
蛍「保冷室は……これかな。」
冷蔵庫の下にある小さな扉を開く
中には幾つもの缶詰が詰め込まれている。
蛍「普通の缶詰っぽいけど」
暁「な!?」
蛍「え、何かあった?」
暁「シュールストレミング!?なんてもの保管してるんだ!?」
蛍「え、え?なにそれ!?」
トウカ「たしか、正常な時代に世界一臭い食べ物と言われてたものかと……。」
暁「俺とアツキが匂いを嗅いだら確実に発狂死するレベルだろうな。」
蛍「え、なにそれ怖い……。」
和「だからヘリに保管したのかもしれません。」
暁「それなら良いが……。いや、それを投げるのか?」
蛍「一番臭いなら効果あるかなぁって……。」
暁「あるのはあるだろうが……ゾンビが死にそうな気がするんだが」
遠く離れた位置でアンモニアを嗅いだだけで鼻が引き千切れそうになった。
少し落ち着きを取り戻し始めたがドラゴンも頭を地面に叩きつけまくってた。
世界二位が確かホンオフェ……アンモニア臭がする食べ物だったはず。
その更に上のものがシュールストレミングになる。
納豆や負豆腐が可愛く思えるほどの匂いなんだとか……。
蛍「死ぬなら死ぬでいいじゃん!」
暁「それはそうだが……。」
同じ嗅覚が鋭敏な者として想像するだけで寒気がする。
トウカ「暁様、ガスマスクがありました。装着しましょう。」
暁「あぁ、分かった。」
気遣って用意されたガスマスクを身に着けさせてもらう。
蛍「よし!準備万端だよね!」
ある意味最終兵器となりそうなシュールストレミングの缶詰を
トウカのランチャーの弾丸にセットする。
爆発の熱で匂いが軽減されないように徹甲弾を装填している。
外さないようにしっかり狙いを定める。
ちょうどいいタイミングでドラゴンゾンビはアンモニア臭から開放され
改めて飛翔しようと翼を広げる。
空をとぶために首が上を向いた瞬間
トウカ「撃ちます!」ドシュッ!!
雄叫びを上げるために口を開いたのを狙い、徹甲弾(缶詰入り)が飛び出す。
そのまま、吸い込まれるようにドラゴンゾンビの口の中で飛び込んだ……。




