EP:18 破壊衝動とマグメル
一瞬……何が起こったのかわからなかった。
突然、和が叫んで俺の前に飛び出し……聞き慣れた嫌な音がした。
聞き慣れた音は今まで何度も聞いたことがあるゾンビに銃弾が当たる音だ。
今まで何度も何度も聞いたから間違いない。
和が前に飛び出したことで和に銃弾が当たった。
ゆっくりと地面に倒れる和
咲実「は……ちょ、え?」
その和を見て困惑する咲実
暁「和を頼む」
俺がなんとか理性的に言葉を発せたのはそれだけだった。
次の瞬間には視界が真っ赤に染まり、遥か遠くにいる敵を視認していた。
暁「ぐぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!」ドンッ!!
ドガッシャーーーン!!!
どれほど相手と距離があったのかわからないが
気が付けば一足飛びで敵の居た施設に飛び込んでいた。
重厚な壁のようなものがあったが
今の俺にそんなものはガラス程度の強度もなく、あっさりと貫いてしまう。
白「ぁ……ぁ……」ふるふる
突入して最初に見つけたのは震えている少女。
脳が彼女を認識した瞬間に判別を開始する。
数瞬で彼女が何かを判断、
匂いや心音などから人間であることが判断できたが
体に火薬の匂いは殆ど無い。
……少なくとも少し前に和を攻撃した気配はない。
それがわかると対象外として、すぐに興味を失った。
続いて嗅覚を引き上げ……敵の居所を探し出す。
嗅ぎ取ったのは和に当たった弾丸の匂いと硝煙の匂い
施設内全ての匂いを嗅ぎ取るつもりで範囲を広げると……
暁「上カ!!」
天上に敵の匂いがする。
上に上がるための階段が見えていたが……今の俺にそれを登るのすら面倒で
何よりも奥底から湧き上がる何かがとにかく一瞬でも早く敵を排除しろと唸る。
俺は足に力を入れ、一気にその場から飛び上がり
ドゴンッッッ!!!と破壊音を響かせて天井を突き抜けて上へ移動した。
暁「…………オ前カ」
天井を突き抜けた先に居たのはごついライフルを持つ白髪の少女だった。
周囲に残っている匂いで少し前に狙撃した事と
和に命中した弾丸と同じ匂いを嗅ぎ取った。
間違いなくこの女が和を狙撃したんだろう。
それがわかるととにかくこいつを始末しようと色んな手段が頭の中を駆け巡る。
蛍「くそっ!」ジャキッ
目の前に現れた俺に少女は一瞬狼狽えていたが
即座に小型銃を取り出し、迷いなく引き金を引いた。
バンバンバンと三発、銃弾が放たれる
……がどういうわけか今の俺には弾丸がスローモーションに見えていた。
暁「ふんっ」バシッ
蛍「な、う、うそだろ……。」
飛んできた弾丸を蚊を払うかのように跳ね除けるが
蛍「畜生!!」
続けて強い火薬の匂いを感じとる。
自滅覚悟か目の前にピンの抜かれた手榴弾が浮かんでいる。
暁「ふんっ!」
爆発しても大したダメージにはならないだろうが
後々面倒に感じてそのまま握りつぶす
蛍「なっ!?」
流石にこれにはかなり狼狽えたのか一瞬硬直する少女
その隙きを逃さず
蛍「うぐっ!?」
少女の首を掴み抵抗できないように宙に吊るす
このまま、首をへし折ってやろうかと思ったが
……残っている理性がそれを押し留めた。
完全に敵を捕らえたことで僅かに理性が戻ってきた。
和が攻撃され、倒れたことで頭の中がぐちゃぐちゃになってここまで来たが
普通に考えれば彼女は半ゾンビだ。
頭に受けるとどうかわからないが体に攻撃されてもダメージはない。
どちらかと言うと穴が空いたことで
彼女の体に何か異常が出る可能性のほうが高い。
となると、こんな場所にいるよりもすぐに和の場所に戻りたくなってくる。
前回のことがあって出る時にクイーンから肉体を再生させる薬も貰ってるし
治療は早いほうがいいとも言われている。
蛍「ぅ……ぐ」
暁「…………」
頭が働きだすと激情に駆られた自分が恥ずかしくなってくる。
さっさと和の所に戻ろう。
だが……全くのお咎めなしという訳にも行かない。
これからここで活動する以上、
問答無用で攻撃してくる対象を野放しには出来ない……。
もう既に俺が攻撃を仕掛けたから対話も難しいだろうし
探索中に妨害される恐れもある……。
暁「選べ、ここで死ぬか、食料を差し出すか」
しばらく考えて出てきた答えがこれだった。
食糧がなければ派手な行動をしようとは思わないだろう。
幸い、キャンピングトラックはこっち側のリフトに寄せている。
マップはあやふやだが少なくとも駅からみてプラントから左側にある。
もう一度駅に戻る必要がないから
食糧を回収してしまえば移動はできなくなる。
左方向を確認すれば
いくつか見える建物が邪魔でここから狙撃することも難しい。
蛍「ぞ、ゾンビが食料……?」
暁「無駄口を叩くな。死ぬか食料か、選べ。」グググッ
蛍「あぐぁ!?」
暁「あと3秒」
蛍「ち、ちか……地下だ!」
暁「地下?」
蛍「食料は……地下の貯蔵庫に……ほ、保管してある。」
暁「…………」ドサッ
位置を聞けば用済みだ。
まぁ、位置を聞かなくてもどこに有るかはある程度分かるんだが
こちらが食糧だけで許す……という意図もある。
蛍「げほっげほっ!」
暁「命拾いしたな。」
恨めしそうに俺を睨む蛍を無視して、地下の食料庫へと向かう事にする。
さっきは理性を無くして壁を破壊したが
今度はちゃんと階段を使って降りることにする。
……だが
蛍「っ!」ジャキッ
暁「そんなに死にたいなら死ね。」フォンッ
蛍「っ!!?」
生かしておくつもりだったが和を撃ったライフルを向けられたことで
その考えもどこかに消し飛んでいった。
少女が構えた瞬間にその真横へ移動し、脳天に拳を振り下ろす。
和「お待ち下さい。」
暁「……」ビタッ
拳が振り下ろされる寸前で和の制止が入った。
気が付かなかったが俺に追いついてきたらしい。
視線を向けると和と一緒に咲実も居た。
和「お怒りをお鎮めください。暁様」
彼女の声で意識が戻ってきて、彼女の状態を確認する。
心拍……はそもそもないから分からないが
匂いから察するにクイーンからもらった薬を使ったようだ。
胸元の傷は完全に消えている。
……何故か、狙撃されたはずのメイド服に穴一つ相手ないのは分からないが
傷は治療され、五体満足というので一つ安堵した。
が、それとこれとは別だ。
攻撃意思を持つ危険因子を残しておきたくない……という気持ちがある。
殺しはゴメンだが今の世界で甘ったれたことが言えないのはもう理解した。
暁「先に攻撃してきたのはこいつだぞ?」
和「お願いします。」
暁「…………お前が言うなら、分かった。」
珍しく、明確にダメと意思表示する和を前に
自分の中にある危険因子の排除……という欲求を抑えつける。
今は和が無事なのが幸い……というのを一番上において
それ以外に蓋をしめて……拳を収める。
一体どういうつもりなのかと思っていると和がゆっくりと少女に近づく
和「初めまして、姫野和 和と言います。
所属は人類救済機関【マグメル】、お聞きになったことは?」
蛍「マグメル!?まだ残ってたの!?」
和「はい、身分証もあります。」
と言って写真付きのカードを取り出す和
デカデカと人類救済機関マグメルと書かれたカードに
人間の頃の……普通の肌色の和の写真が乗っている。
咲実「え?身分証とかあったのか?」
暁「いや、初耳だ。
和は俺より先にクイーンと一緒に居たから持ってたのかもしれん」
咲実「オレらも貰えるのかな?」
暁「言えばくれるんじゃないか?」
所属したという話以前に
残りはクイーンしかいないからマグメルの組織そのものを忘れていた。
最初に目が覚めた時に説明された以外で一度も話に登らなかったし
和「生存者である貴方達と対話したいのですが
よろしければ下に居た方と一緒にお話を伺ってもよろしいですか?」
蛍「それは……大丈夫。」チラッ
和「良かった。では下でお話しましょう。」
マグメルという組織名と和の身分証がよほど効果があったのか
俺に対して何か思うところがある感じでちら見してきたが……。
和をある程度信用して
少女は素直に和の言葉を聞き入れて下階に降りる。
それに和、咲実と続き、俺は咲実の後ろから少し離れて降りた。
そして、下の階に居たもう一人の白髪の少女を加えて話し合いが始まった……。