EP:16 初戦闘と突然変異種?
八王子 集合工業地区
少数都市計画により東京23区を集合生活区とし、
それ以外の場所を工業密集地帯にした。
八王子にある集合工業地区はその中でも最大の面積を誇る。
元々の計画では八王子市のある多摩南部から始まり、
奥多摩町を含む多摩西部までを集合工業地区にするつもりだったらしいが
……ゾンビの大量出現により頓挫
八王子が最大の工業地帯となっただけで終わった。
八王子には東京を支える多数の大型プラントが存在するとのことで
俺達はそこで野菜などの食料と小型のプラントを回収するために移動していた。
最大の都市である東京中心部では大した事もなく
こっちでも大丈夫だと思っていたんだが……。
暁「……何か電車に侵入したな。」
電車に乗り込んでしばらくすると異様な何かを感じ取った。
咲実「まじで?移動中なんだけど!?」
和「確か、先頭車両の窓がかなり割れてましたね。そこからでしょうか?」
暁「かもしれんな。しかし……何だこれ?」
咲実「なんかあんの?」
暁「匂いが混ざりすぎてよく分からん。
犬の匂いもゾンビの匂いも人間の匂いもする。」
どう考えてもまともな存在の匂いじゃない。
しかも、これらの匂いは血によるものじゃない。
咲実「突然変異種か?」
暁「おそらく?一直線にこっちに向かってきてるな。」
和「この車両は中心部ですから
ここまで来るにはいくつか窓を割る必要があるはずですが……。」
暁「…………どうやら、窓は割れないみたいだな。第三車両で止まった。」
咲実「どうするよ?放置するか?」
暁「いや、こっちを襲うつもりな気がするし、
電車が止まって車両を降りたら襲ってくるだろう。」
暁「今のうちに仕留めておこう。銃の威力を確かめる必要もあるしな。」
ここに来るまで一度としてゾンビに襲われなかったから
アサルトライフルがどの程度の威力かが分かっていない。
そういうのを調べる意味では幸先いいといえる。
和「…………いま、車両の連結ドアを手動で開けられるようにしました。」
いつの間に取り出したのかノートPCよりもミニサイズのPCを電車と繋げていた和
その姿はかなり様になっていてメイドじゃなくてハッカーでも通じそうだった。
咲実「ハッキングも出来るんだな。」
和「メイドの嗜みですから」
咲実「メイドってなんだ……。」
俺も分からなくなってきたがスルーするのが賢い選択だと思うことにする。
暁「とりあえず、合図したら開けてくれ、離れた位置で撃ち落とす。」
和「わかりました。」
咲実「まったまった!オレもやりたい!」
暁「分かった。咲実は俺の上で構えろ。俺はしゃがんで構える。」
咲実「へへ、さんきゅ~」
嬉しそうに銃を構える咲実、よほどゾンビ相手に撃ってみたかったんだろう。
お互い射線に入らないように構える。
暁「行くぞ……3、2、1、開けろ!」
和「ロック解除します!」
ガシャー ガシャー ガシャー
合図で"何か"との間に隔たる3枚の扉が開き、それが姿を見せる。
それの一見すれば犬、ドーベルマンだったが
……体の所々に人間の手や足が生えている。はっきり言ってかなりキモい。
そのキモい存在が俺たちの姿を見た瞬間、一直線に走ってきた。
暁「撃て!」ダダダダダダッ
咲実「っしゃぁ!!」ダダダダダダッ
犬「グアオゥッ!!!」バスバスバスッ
クイーンの話ではゾンビなら一発で昏倒するはずだが
二人で10発ほど命中させてもまるで意に介さずに突っ込んでくる。
咲実「全然効いて無くないか!?」
暁「撃ち方止め!」
咲実「分かった!」
これ以上は弾の無駄だと思い、揃って銃撃を止める。
犬「ガウッガァァッッ!!」
俺達が射撃をやめたことで諦めたと解釈したのか
更に速度を上げ……俺の少し前で飛び掛かってくる!
暁「ふっ!」ドッ ベシャッ
犬「―――――…………」ドサリ
銃撃が効かないなら武力で対応する。
飛び掛かってきた犬の頭を蹴り上げると
俺の蹴りの威力が強すぎたか犬が脆すぎたか、あっさりと頭が吹き飛び
叩きつけられた頭が天井と一体化した。
頭を失った犬は蹴りの衝撃によって空中に数瞬留まり
そのまま重力を失って地面へと崩れ落ちた。
ゾンビは頭を吹き飛ばしても生きてる場合がある。
とクイーンが言っていたのを思い出して
動くかどうか緊張感を保ちながら待機していたが……。
暁「動かんな。」
咲実「みたい……だな。」
和「ドアロックを掛けます。」カタカタ
ガシャー ガシャー ガシャー
新たにゾンビが来ないように和が改めてドアを閉め
初めての戦闘が終了した……。
暁「この弾丸……全く通じなかったな。」
咲実「突然変異種にはやっぱり効かないってことか?」
和「いえ……これはゾンビじゃありませんね。」
暁「ゾンビじゃない?」
咲実「メチャクチャキモいのに?」
和「ゾンビに対抗するために軍が開発した生体兵器ですね。」
和が倒れた犬の腹に無造作に手を突っ込んで丸い球状の機械を取り出す。
俺の時代にはまず存在しないだろう。
かなり精密なものがドロドロの変な液体まみれになっていた。
和「警察犬や軍用犬にこの特殊な機械を埋め込んで
感染してもゾンビを攻撃できるようにしたとクイーンから聞きました。」
咲実「オレらが半ゾンビだから襲ってきたのか?」
暁「いや、明らかに俺を狙ってたぞ。」
飛び掛かってきた時、すぐ近くに居た和や咲実に見向きもしなかった。
俺が標的だったのはまず間違いないだろう。
和「解析しないとわかりませんが……
ゾンビを摂取しすぎて腐敗病がシステムを上回ってしまったのかもしれません。」
咲実「腐敗病で人間の手とか足とか生やしてるってことか」
和「おそらく……。」
暁「この弾丸が通じなかったのは機械の影響があったからかもしれんな。」
和「可能性は高いですね。」
咲実「で、これはどうするんだ?サンプルとして持って帰るのか?」
暁「正直……触れたくないな。なんかドロドロしててキモいし」
咲実「だよな……。」
和「そもそも入れ物が小瓶くらいしかありませんね。」
暁「じゃあ、肉の一部を小瓶に入れて、その機械と一緒に持って帰ろう。」
和「畏まりました。
咲実さん……バッグに入れさせてもらってもいいですか?」
咲実「え!?オレが持つのか!?」
和「私のバッグはPCをいれてるので湿気ると困りますし
暁様を襲って来たものを暁様にお持ちしてもらうのは……。」
咲実「そういうことなら別にいいけど……できれば布かなんかで包もうぜ
……どろどろしててキモい。」
和「わかりました。」
そう言うと電車の椅子の布を剥ぎ取り、どろどろを拭き取った後
別の布でしっかりと包んだ。
咲実「和って……顔に似合わずワイルドだよな。」
和「気品を気にする人なんていませんので」
咲実「そういうもんなのか……。」
和「そういうものですね。」
そう言う割にはメイド服の見た目は期にしてるんだが……。
咲実に機械を渡して和は小瓶に肉と骨を詰めた。
暁「これを使いな。」
和「それは暁様の水では」
暁「気にするな。飲み物は他にもある。
それよりも手が汚れて気持ち悪いだろ?」
和「…………ありがとうございます。」
俺達は水も殆ど必要としないんだが……俺のものを使うのは躊躇うのか
少し間があってから水を使って手を洗う。
咲実が小瓶の方も持っておこうか?と言ったが
機械と反応される可能性も考えて和が持っておくことになった。
暁「……ここからはしばらく注意して進む必要がありそうだな。」
和「軍用犬が居たということはこの先で大規模な戦闘があったんでしょう。」
咲実「食料が確実にあるからそっちを守りに行ったのかもな。」
和「軍用犬がこうなっていると可能性は薄いですが
生存者が居る可能性もありますね。」
暁「まともな生存者なら歓迎だが……なっ!!」ブンッ
犬A「ギャウッ―――」ブジュッ
咲実「うぉ!?いつの間に!?」
とっさの判断で唐突に現れた軍用犬を蹴り潰す。
即座に和がどこから現れたのか周囲を注意深く観察……すると
和「どうやら天井部分が壊れているようですね……。」
暁「随分と索敵範囲が広いな。」
和「腐っても犬ですからね。
ゾンビ化して能力が強化された可能性もあります。」
咲実「なるほどなっ!」ボッ
犬BCD「「「g―――――」」」ドボッ
更に上から軍用犬が三匹ほど突入してくるが
咲実の放った拳によって唸り声を上げる間も無く
犬どもが完全に消し飛ぶ……。
というか触れてもないのに消滅した。
拳圧というやつだろうか?
そろそろ慣れてきたが普通に常識はずれの攻撃だ。
暁「……思ったが随分と脆いな。」
咲実「あ、やっぱりか?」
俺が蹴り潰したときもそうだったが
咲実の一撃でもそう思った。
俺だけかと思ったが咲実も同じ感想だったらしい。
グジュグジュのドロドロだからなのかゾンビに比べて随分と脆い気がする。
何度かゾンビと接触したことはあるがここまで脆くなかった。
俺たちの戦闘力を引き合いに出したとしても脆すぎる。
和「不完全なゾンビ化で幾らか生命活動をしているのかもしれません。」
和「ゾンビ化すれば肉体は細胞を含めて不能化しますが
……これはそうじゃないのかもしれませんね。」
暁「つまり、中途半端に生きてるから腐ってるってことか?」
和「おそらく……クイーンなら何か見つけるかもしれませんし、
機械核と肉体の一部を回収できるだけ集めましょう。」
暁「分かった……が、それは俺がやろう。
和の手が汚れるだろ?」
和「駄目です。」
暁「お前が俺を思ってくれるのは嬉しいが
ここは男の俺に格好つけさせてくれ。」
和「いえ、そういうことではありません。
これは言ってみれば人工物によって発生している擬似突然変異種」
和「私や咲実さんとは違い。
人間である暁様が触れるとどういう反応するのかがわかりません。」
咲実「最悪感染して突然変異種になる可能性もあるのか……。」
和「はい。そうなれば人類は終了です。」
暁「…………分かった。だが、出来れば汚れないもので触るべきだ。
お前だってこんなの触りたくないだろ?」
和「それは……まぁ……ですが今後のためですし」
咲実「だったらオレがやろうか?」
暁「あほか、お前でも一緒だろうが」
咲実「そ、そうか?オレはほら、がさつだしさ?」
暁「がさつだろうがなんだろうが女性には変わりないだろう。」
咲実「そ、そうか……///」
暁「とりあえず……コレがいいな。」
電車の手摺り棒を引き抜き、箸のように細い棒状に引き伸ばす。
暁「簡易の菜箸みたいなもんか?これなら触れずに取れないか?」
和「可能です。ありがとうございます。」
咲実「頭いいな。じゃあ、スプーンっぽいのも作ろうぜ。
肉も回収しやすいだろ。」
和「それもそうだな。」
こうして、新たな道具を作り、
肉と機械を回収しながら時折現れる軍用犬を潰しながら道中を行く……。