EP:09 治療と探索リザルト
銃声が聞こえてから反射的に体が動き出し
自分でも信じられない速度で和達と合流することが出来た。
そこで見た光景は……
暁「…………終わってる?」
咲実「ありゃ、早かったな。」
和「暁様。」
つい先程、絶命したばかりの死体の側に平然と立つ二人の少女の姿だった。
暁「賊……みたいだな。」
生存者がいた事にかなりびっくりして
二人が人を殺したことにもびっくりしたが
死体が銃を構えていた事ですぐに状況を理解できた。
咲実「いきなり出会い頭に銃向けてきたからな。間違いないと思うぞ。」
和「申し訳ありません。
暁様……あまりにも気持ち悪くて処分してしまいました。」
暁「うん……正直だね。」
気持ち悪いから処分したというが多分それだけじゃないんだろう。
すでに絶命しているがこいつらからは
流している血以上に色濃くドロドロとした血の臭いがする。
かなりの数の"人間"を殺してきたというが死体からでも分かった。
和はそれを感じ取って即座に処分したんだとなんとなくわかった。
暁「二人に怪我がないなら……和、その腕」
怪我がないならいいやと言おうとした所で和の右腕の銃痕に気がついた。
半ゾンビだから血が流れていないが銃痕が彼女の腕にくっきりと残っていた。
咲実「ちょ、当たったのか!?」
和「大丈夫です。特に痛みもありませんし、直ぐにふさがりますよ。」
暁「そういう問題じゃないだろ!?
弾は!?残ってたらまずいんじゃないのか!?」
咲実「な、何か……何か巻くもの!?包帯とか!包帯とか無いのか!?」
和「落ち着いてください。弾は貫通してます。
血も出てませんから包帯を巻く必要もありません。」
暁「しかしだな……。」
和「心配しないでください。半ゾンビなんですから何もありませんよ。」
暁「半ゾンビだからって放って置けるわけ無いだろ。」
和「ありがとうございます。ほんとうに大丈夫ですよ。」
咲実「本当か?実は痛くて我慢してるとかじゃないのか?」
和「心配しすぎですよ。本当に痛くもありませんから」
暁「なら……よく……ない。よくないぞ。
とりあえず、今日の探索はここまでだ。」
暁「急いで見つけたものを回収して帰るぞ」
和「本当に大丈夫ですよ」
咲実「いや、暁の判断が正しいと思う。他にも残党が居るかもしれないしな。
すぐにここを去ったほうがいいだろうよ。」
暁「咲実の言うとおりだ。銃声もかなり遠くまで響いた。
ゾンビも集まってくるかもしれないし、さっさと移動しよう。」
和「…………わかりました。
掃除ロボも稼働させましたし今日の所は帰りましょう。」
むやみに慌てる俺と咲実に呆れたのかため息を吐きながらも納得してもらい。
俺が見つけた食料を回収して探索を終了した。
…………
………………
クイーン「はい、処置完了」
和「ありがとうございます。」
暁「だ、大丈夫か?和」
クイーン「貴方達、心配しすぎよ。」
和「そうですよ。本当に大したことないんですから」
暁「そうは言うが……銃弾が当たったんだぞ?心配するだろ?」
クイーン「気持ちはわかるけど
弾丸が当たったくらいで騒いでたらこの先、やってけないわよ?」
暁「それは……そうなんだが……なぁ?」
最初の東京新地区探索は賊の襲撃を受けて、和が負傷したことで撤退した。
和は不満そうだったが食料とドリンクの収集は完了してたし
アイスなんかも自販機ごと手に入れたので渋々撤退することに了承してくれた。
結果、第一探索の収穫は
中型トラック1台、キャンピングカー1台、
DVD&CD&デッキ&モニター多数、燃料パック多数
食料コンテナ2つ、お菓子8種各20箱、ドリンク多数、
アイス自販機1台、アサルトライフル5丁だった。
途中撤退でも探索結果としてはかなり上々と言える。
和もクイーンも探索を続ければもっと収穫があったとは言うが
俺と咲実は間違った選択だったとは思ってない。
どんなことにも絶対はないし、
賊があれだけとも限らないし、万が一ということもある。
クイーン「目標はいくつか達成してるみたいだし、
これ以上は何も言わないけどさ」バリッ
澄ました表情でポテチの袋を開けるクイーンだが
和が撃たれたと聞いて慌てたのは彼女も一緒だ。
大好きなポテチが大量補充されたのを放置して即治療に動いてくれた。
心配したからこその行動だから特に茶化しはしないが……。
クイーン「しっかし、まだ賊なんていたのねぇ~」ボリボリ
咲実「まともには見えなかったけど
あの地獄みたいな環境で生き残ってたみたいだな。」
和「説得は無理そうだったので処分しましたが……。」
クイーン「それが懸命ね。連れてこられても普通に困るしね。
ぱっと見普通の女の子にしか見えないのに銃を向けてくるとか完全にイカれるし」
彼女たちに聞いた所、賊たちはいきなり彼女たちに銃を向けて接近、
いかにも暴行をしようと考えてる様子だったので問答無用で始末したんだそうだ。
ゾンビだらけの世界で警戒しながら近づくのはまだわかるが
意思疎通が出来ると分かっても
銃を構えたままで近付いてくるのはどう考えても普通じゃないだろう。
それに、あいつらの体からした血の臭い
もしかしたらゾンビのものかと思ったが和が撃たれても血を出さなかったように
ゾンビから血が流れることはない……
つまり、あいつらに染み付いた血の臭いは
生きた人間を狩った事で染み付いたものなんだろう。
クイーン「もしかしたら生存者が居るかなぁって思ったけど、
正直望み薄そうね。」
和「あの様子では居たとしても
希望を持ってやってきた人を狩る賊くらいでしょう。」
クイーン「みたいね。
あんまり変なのを連れてこられても困るし、生存者はこの際後回しでいいわ。」
暁「了解。」
クイーン「それで、良さげなゾンビは見つけた?」
暁「一応、探しながら回ってたが……ゼロだな。
確かにここよりゾンビは多かったがこれといったのは居なかったな。」
クイーン「そう簡単には見つからないか……。」
暁「代わりに食料とか道具類は多かったがな。」
咲実「駐車場とかメチャクチャ車があったしな。」
和「私たちは清掃ロボットを動かすために別れてましたが
こちらでも食料が置いてそうな場所がいくつか無事でしたね。」
咲実「コンビニとかスーパーは全滅っぽいけど
2階3階にある自販機とか100均とか結構、綺麗だったな。」
和「暁様が見つけたレンタルショップや地下道も問題がなさそうでした。」
クイーン「それなら食料にも脚にも困らなさそうね。」
暁「問題があるとすれば運ぶための道具だな。
流石に担いで運ぶには量が多すぎた。」
クイーン「そっちは次の探索に向けて改善するわ。」
クイーン「とりあえず、コンテナに荷物を運べるようにするのと
キャンピングカーにコンテナを繋げられるようにする感じかしらね。」
暁「そうしてもらえると有り難いな。」
クイーン「少し時間掛かると思うけど急いで準備するわ。
これ以上お荷物の烙印は押させないんだから!」
暁「天才の本領発揮できるチャンスだもんな。」
咲実「基本的に食っちゃ寝してばっかだもんな。」
クイーン「やれること少なかったんだから仕方がないじゃない!」
暁「ここでの結果次第で今後の運命が変わるな。」
クイーン「そんなに重大な分岐点なの!?」
咲実「あ~、たしかに、
今の状態だと……ちょっとした辞書かペットだしな。」
クイーン「無機物or畜生って人間ですら無い!?」
クイーン「ちくしょう!見てろよ!
絶対ぎゃふんと言わせてやるからな!あとアイスください!」
暁「へいへい」ピッ ガタン
ちなみにアイスの自販機はコイン制にすることにした。
自販機の中の硬貨を全部回収し、クイーン以外がコインを持っていて
どのくらい食べたかがわかるようになっている。
なので、クイーンがアイスがほしい時は三人の誰かにおねだりする必要がある。
そうでもないと空になるまで食べそうだったからだ。
和の治療でそれどころじゃなかったが特に問題がないと分かってから
ずっと自販機を見ながらそわそわしていたし、あながち間違ってないだろう。
暁「食ったら作業頼むぞ。」
クイーン「まはへなひゃい!(まかせなさい!)」モゴモゴ
アイスを頬張る姿にそこはかとなく不安が残るが……。
機械に詳しくないし、
そもそも時代が違いすぎてちんぷんかんぷんなのでクイーンに任せるしか無い。
ダメだったらポテチ没収だな……と密かに心に誓った。