4日間
side バローン
『ところで、姫さんよ、俺は一つ疑問に思ってる事があるんだがよぉ』と彼女に不思議に思っていた事を聞いて見た。『俺のところに来る前に、ハルト殿のところで研修を受けてたんだよな?』
と聞いて見たら、彼女から【その通りですね】と返事があった。
『仕事を覚えるのは仕方がなかったとしても、彼にあそこまで言われるほど完璧に仕事をこなす必要はなかったんじゃないか?』と更に彼女に問いかけた。
彼女もやり過ぎたとは思っている様で、【ついつい彼の授業が面白くて、手加減を忘れてしまい・・・】と普段より小さめな声で質問に答えてきた。
『まぁそれはいいさ』と俺は言い、これからの事について聞いて見た。『俺の授業は何日ぐらいで、卒業する予定なんだ』と彼女に問いかけた。【ハルトさんと同じく4日でお願いします】と彼女は言いました。
彼女のセリフに俺は思わず、絶句してしまった。近隣諸国に、その名を轟かせる内政官であるハルト殿。王都で仕官していれば、宰相閣下と呼ばれる身分に当たり前の様に就任出来る。それ程の男がろくに休みも取れず、何とかこなしている仕事をわずか4日でマスターするだと・・・・・・・・・・・・完全に化け物の領域だな、我らが《リシャールの至宝》殿は・・・・・・。
俺は呆れながらも彼女の希望通りに4日間、仕事を教える振りをした。彼女にも大変感謝されたが、昔の恩を返せたと思えば安いものである。
side リーシャ
バローンさんにも世話になったが、彼の元での研修が終了が終了した事を、侯爵閣下に報告に行く事にした。閣下も【ハルトに続いてバローンも4日ですか】と若干引き気味でした。【では次で研修が終了となりますが、シャーズの元で学んでもらいます。】と閣下が仰いました。
【シャーズは気難しい男ですので、彼の兄貴分であるバローンに仲介役を頼むのがよいでしょう】と閣下が忠告してくれました。折角教えてもらったので、バローンさんに仲介をお願いする事にしました。
閣下からの助言の話しを、バローンさんに話をしたら【たしかにシャーズは気難しい奴だからなぁ】と言って、一緒に付いて来てくれる事になりました。
バローンさんが言うには、彼は建設系を主に扱ってるとの事でした。研修先が、バローンさんとシャ-ズさんだった事の意味を考えてみました。ありきたりですが、《どこかの国と貿易するのに中継拠点でも私に作らせるつもり》かなって思えなくもありません。
『まぁ、そんな単純な話ではないでしょう』などと考えている内に、シャーズさんの部屋の前に着きました。バローンさんが【俺だ入るぞ】と言ってづかづかと部屋の中に入っていきました。
私も彼の後ろに、隠れる形で部屋の中に入りました。
side シャ-ズ
バローンの兄貴が突然部屋にやって来るのはいつもの事だが、今日は少々勝手が違う様だ。
兄貴の話を聞くと、何やらそこの小娘が新人研修中らしく、俺にもお鉢が回ってきたとの事だ。
あのくそ侯爵は、いつもこっちの都合なんぞ考えてもいやしない。俺の手を止める事が、一体何人の領民の生活に支障をもたらすか、解っていやがるのか!・・・・くそ女!!と心の中で毒づいた。
兄貴の話には更に続きがあり、驚愕の内容へと変化していった。お前も暇な身じゃないだろうから、4日で仕事を覚えさせろと兄貴は言った。思わず、『なめてるのか!俺の仕事がそこの小娘に、4日で覚えられるだと・・・・・いくらアンタとは言え、だだじゃおかねぇぞ!!』そんな俺のセリフに、兄貴は苦笑しながらこう答えた。
【我々の理とは別な存在・・・・・彼女は人の理解の遥か外にいる】と言い、更に止めの一手を打ってきた。
【俺とハルト殿の仕事は、4日づつで完璧にマスターしたぜ。しかも、閣下のお褒めの言葉付きで】
最初バローンの兄貴が何を言ったのか、理解出来なかった。
『クソ女の人気取りのおべっかなんざ、どうでもいい。』辛うじてその部分だけは言ってやったが、理解が出来ないのは次の部分だ。バローンの兄貴とハルトさんの仕事を4日づつで完璧に覚えただと・・・・。
『《豪腕》と《幻の宰相閣下》の仕事を4日づつでマスターしたと、兄貴は仰るんですか?』と、かろうじて口に出した。
兄貴が頷くと同時に、俺の回りの時間が停止した気がした。