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迷宮奇譚書  作者: 渦雷
プロローグ
8/19

この世には目には見えない世界があるのです

200X年9月13日 18:53 カシマ神社道場内 


「神社内に道場…剣道場か?」山田は呟く。


 塚原卜念(つかはらぼくねん)に連れられ 山田某(やまだなにがし)は道場と思われる場所に足を踏み入れた。道場には木刀や竹刀が壁に備えつけられ、道場の四隅には剣道の防具が整頓されている。上座のような場所には「疾風迅雷」と書かれた掛け軸と真剣が飾られ、祭壇が置かれていた。

卜念は、祭壇に一礼し道場の中心に山田を招きいれた。


「神社の経営は、寺と違って貧乏でのぉ~。わしは、ここで剣道の教室を開いて飢えをしのいでいるのじゃよ。さて、百聞は一見に如かず。先ほどの摩訶不思議な話について、お主のその目と身体で確かめたほうが、すぐに納得するじゃろう。」


 卜念はそう言うと、道場の中心で相対していた山田の目を睨みつける。刹那、昨日と同様に目が金色に光ったのである。錯覚ではないことは確かだ。


「やはり、お主見えておるな。なら話が早い、お主何か格闘技は習っておるかの?」


 山田は唐突に聞かれたので、「あっ…はい八極拳を…」と答えてしまう。


 卜念は、よしよしと頷き「一手お手合わせを」と壁に掛かっていた木刀を取り、正眼の構えから蹲踞(そんきょ)の状態になった。身長150cm体重40kg程と見える卜念の小柄な身体が、しゃがむことによりさらに小さく見える。山田は慌てて構える。右手右足を前に出した中国拳法特有の構えだ。空気がやけにピリピリと皮膚を刺激する。


「いざ参る。」卜念は声をかけると同時に立ち上がった。その瞬間…


 正眼に構えた卜念の身体から汗が蒸発して霧が出ているような、金色の空気が噴き出し、手にしている木刀に集まりだした。

 


 ポカンと口を開いて、直立不動になっている姿を見て卜念は、「驚くのは無理ないか。しかし、お主本当に格闘技経験者か?構えがド素人すぎるのじゃが」と問う。


 山田はまだポカンと口を開いているため、卜念が再度言葉を投げかけると我に返り答えた。


「はっはぁ、すみません八極拳は独学でして…本とDVDで習いました。正直、実戦でやったことがないです。というか、卜念さん何すかこれ?イリュージョンか3D映像ですか?」


「本とDVD(でぃーぶいでー)じゃと…ほんに時代が変わったのぉ。それでよく、わしと殺り合おうとしたものじゃ。残念じゃのぉ~久しぶりに新当流奥義、一の太刀を披露しようと思ったのにのぉ~。しかし、良かったのぉ。お主、わしが知らずに一太刀浴びせていたら、お主の身体は真っ二つになっとたぞ。」


 身体が真っ二つになることなど想像もつかないが、金色の霧(オーラ?)を見せつけられては、真実なのだろう。百聞は一見に如かずとはいうが、この出来事は一見しただけでは理解できない。


「卜念さん、今の何ですか!?」山田はひどく興奮している。


 卜念は山田の興奮をお構い無しに質問をぶつけた。「昨晩の晩飯はなんじゃった。」 


 山田は急に現実的な質問をされ動揺するが、「カレーライス」と答えると、卜念は満足そうな顔をした。


「よしよし、発狂はしていないな。常人が強力な力を見せられると、力に当てられて精神が崩壊する恐れがあるから心配したぞ。まぁ、発狂してしまっても心配はするな、お主の嫁さんはわしがシッポリと可愛がってやる考えじゃったからのぉ♪やはり、女は30ぐらいが一番エエのぉ~。」


「発狂!どういうことだよ!?それよりも、何で俺の奥さんのこと知っているんだよ。というか、シッポリとは何だシッポリとは(怒)。」山田は完全に自分を取り戻して、卜念に怒りをぶつける。


 卜念は、ますます笑顔になり「嫁さんとシッポリは冗談じゃよ♪お主の嫁さんは、昨日わしがお主に対して電影眼で見たから知っておるのじゃ。ほれ、覚えておろう、わしの目が金色に光ったじゃろ?それにしても、本当に発狂しなくて良かった♪」


「でんえいがん?また訳の分からないことを。そして、発狂は冗談じゃないとはどういうことだよ!本当に発狂したらどうしてくれるんだよ(怒)。」


「大丈夫じゃよ。発狂しても、わしならば治せる☆現に、今年の4月に孫の藍那に巫女の力を開眼させるため、タケミカヅチを見せたが、びっくりしてしまってのぉ…。失神して倒れこんでしまって…穴という穴から体液が出てきてしまって…。後片付けが大変じゃったが、あぁ、お主が食事前だったら許されよ。奴め、小便臭いガキのくせに乳房が大きいものだから、母乳まで出しおってのぉ…うん?妊娠してないから母乳とは言わんか?だが、安心せい。今は見ての通りじゃ☆」


 このジジイ、何を考えているんだ?孫にまで実験台にしているのかよ。妊娠していない女性が、乳から出るものは確かに何なんだろうか?山田は混乱した頭を整理する。非現実的な出来事が、現実に溶け込んでいくのが恐ろしい。しかし、どこかで受容できる心構えができているのが不思議だ。


 卜念は、温和な顔して「さて、まだ残暑厳しいといえどもここは冷える。社務所へ戻ろう。」そう言うと、また足音も無く剣道場を出ていった。


 山田は、急に疲れを覚え、フラフラと後に続いた。



プロフィール

塚原卜念:カシマ神社第56代目神主。剣術新当流の達人。名前にコンプレックスがあり、寺の和尚さんと思われることが嫌い。神社の運営のため剣道の道場を開いているが、子どもの様子を見に来ている母親に目がいっているエロジジイでもある。しかし、能力は非常に高く、悪霊払いや相手の記憶を読み取る等、摩訶不思議な力の持ち主。


カシマ神社:建御雷神を信仰している神社。カシマ神社の神主や巫女は代々陰陽師として働いていたこともあり、様々な力を駆使して目には見えない力と戦ってきた。特に能力の高い人物は、神憑きという能力を持っており、建御雷神を具現化して敵と戦ったという。カシマ神社の平均参拝者数は日に10人程。主な行事として、毎年5月6日に雷電祭りが行われている。最近では、パワースポットに便乗し参拝者数を増やそうと画策しているらしい。



 


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