神様 仏様 雷様 後編
200X年 9月13日 18:02 カシマ神社 社務所内
社務所内にある15畳程の和室に、山田某と塚原卜念が座布団に座り相対している。卜念は山田が持ってきった迷宮奇譚書を手に取り、興味深げに中身を読んでいた。
「ほほぅ愉快、愉快♪これは、内容はふざけているが本物の魔法書の類じゃな。しかも、この魔法書は、書物自体が力を持っておる。お主、これをどこで手に入れた?」
「魔法書?何それ?TVゲームに出てくるアイテムですか?」山田は、迷宮奇譚書を卜念に見せたことを後悔しだした。一昨日、妻から頭の病気を心配されたのを思い出し、本当に自分は病気になってしまい、精神に異常があるのではと不安な気持ちになったのだ。
・・・話は、昨日のカシマ神社から自宅に帰った場面に戻る。・・・
カシマ神社から帰宅後、夕食のカレーを食べ、風呂に入り、娘を寝かしつけている嫁の様子を伺う。今夜のYES・NO枕が、NOになって、娘と一緒にスヤスヤと眠りについているのを確認して、山田はビジネスバッグを持ってリビングのソファにどっしりと腰を下ろす。そして、テレビのチャンネルをニュースに変えた。
テレビのニュースでは静岡に近づいている台風18号を、お天気お姉さんが現場リポートしている。視聴者へのサービスなのか、頭はヘルメットで守っているのに合羽は着用していない。両手は傘とマイクで拘束され、下半身はタイトなミニスカートでヒップラインを強調する。極めつけは台風の力強い風雨がスカートを脱がそうと演出していた。
ビジネスバッグから、塚原藍那の生徒手帳を取り出して、しばし手にとって眺める。中身はエチケットで見ないと誓っていたが、一度顔見知りになってしまうと罪悪感が薄れてしまったのか、簡単に開いてしまった。
「市立誠武中学校、3年3組、27番、塚原藍那さんか…うん?中学校…ちゅっチュウガっこぅ~!?あの子、中学生ナウかよ!!」
山田は日本人女性の進化に驚き、過去の妻の体形が中学生だったという認識を小学生体形だったと改めた。そして、「いつか蟷螂のように、男よりも女のほうが体格がよくなり、喰われてしまうんじゃないか」と変な想像を膨らませてしまった。
生徒手帳をビジネスバッグに戻し、次に迷宮奇譚書を取り出す。カバーは羊皮紙のような材質であり薄茶色をしている。 根下がり松公園の事件があったせいか、迷宮奇譚書を観察していると妙な胸騒ぎを感じる。表紙に描かれている、迷路に似せたような紋章が歪んだように見えたのは気のせいか?
「これも、持っていくか」そう呟き、睡魔が襲うまで迷宮奇譚書を流し読みしていた。
・・・場面は、カシマ神社に戻る。・・・
卜念は山田の不安な気持ちを悟り再び声をかける。「お主、自分は気が狂ったのかと思っているじゃろ。安心せい、自分で気が狂ったと思えているうちは精神は正常じゃよ。もう一度聞く、これをどこで手に入れたのじゃ?」
山田は自分の顔に考えていることが書いてあるのではと驚き、しどろもどろに説明をした。
「えっと…この本は、近所の古本屋ブックオンで手に入れて…。自分は本を読むことが好きなので、たまたま手に取って立読みしたら面白かったので買いました。カバーが紙じゃなくて羊皮紙?なのか、ブックオンにしては高い4800円でしたね…。」
「ブックオンで4800(よんぱち)…魔法書がそんな値段で買える世の中になったか。」卜念は驚嘆する。
山田は、先程から気になっているファンタジー的な言葉「魔法書」を卜念にぶつける。
「卜念さん、さっきから言ってるグ、グリモワール?ってなんですか?」
「なんじゃお主、本好きなのに魔法書も知らんのか。呼んで字のごとく魔法についての書物じゃよ。まぁ、内容は色々あるが、簡単に説明すると天使や悪魔を呼び出して願い事を叶えてもらうとか、魔術や呪術の知識が書かれていたりじゃな。有名な魔法書では、ソロモンの鍵、大奥義書、天使ラジエルの書があるのぉ。漫画でもあったじゃろ、魔方陣を書いてエロイムエッサイムとな。」
「はぁ…なんとなく分かりました…。それで、この迷宮奇譚書もその一種なんですか?」
「物分りが良いのぉ♪そのとおりじゃ、但しこの迷宮奇譚書は、この本自体が何らかの力が込められておる。わしが推測するに、この本の目的は、読者に対して試練を与え成長を促させることじゃと考える。ただ、読者を成長させて何の意味があるのかは分からん。著者のラビリンス小出というのも、ふざけた名前だしのぉ…。古より迷宮には魔物が住んでおるというから、最終的には読者を魔物の餌食にさせる罠かもしれん。若しくは、天使の恵みで、迷宮の財宝を頂けるチャンスを与えてくれるのかもしれんのぉ。」
21世紀に入り、人が科学の力でこの世の出来事をある程度知ることができる時代になったのに、卜念は魔法書、魔物、天使、財宝云々と非現実的でファンタジー小説のような話を真剣にしている。
もうすぐ31歳になろうとする山田には、卜念は現実逃避しているオタクか程度の低い詐欺師にしかみえなかった。
山田の怪訝そうな表情を見た卜念は、怒ることもなく穏やかな態度で応じる。
「お主の戸惑いはよく分かる。しかし、この世には科学だけでは証明できないことが多いのも事実なのじゃよ。どれ、その証拠を見せてやろう。」
卜念はそう話すと、座布団から立ち上がり、足音も無く和室を出て行こうとする。山田は慌てて卜念を追いかけていく。
この後起こる、摩訶不思議な世界に引きずり込まれるとも知らずに…
今回の宝物:無し
装備:無し
プロフィール
塚原藍那:市立誠武中学校在学中。祖父卜念が神主を務めるカシマ神社で巫女をしている。巨乳であり3サイズは92・60・81(山田某の観察眼)の持ち主。同級生の男子からは、乳神様とあだ名をつけられ、毎夜オカズにされている。夢精で彼女が現れると、「乳神様が降臨した☆」とその日は彼女に対して、変な罪悪感を感じてしまうとか。